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【小松泰信・地方の眼力】農業国防産業論ことはじめ2018年8月1日

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【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 東日本から西日本に“逆走”するという異例のコース取りで進んだ「迷走台風12号」。最後は、九州南海上で再び発達し反時計回り、つまり政権与党と同じ左巻きに一回転するという大技まで見せつけて東シナ海を中国大陸に向かった。政界だけではなく、自然界の動きもこれまでの常識が通用しないことを、人を食った迷走台風が教えてくれた。もうここまで来れば、近年の気象状況を正常気象、幸いにも何事も無かったときの気象状況を異常気象と呼ばねばならないようだ。

◆食料自給率を語らぬ農水官僚

小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 先方にご迷惑をかけてはいけないので、某月某日、某県のJA関係者を対象としたセミナーでのこと、としておこう。当コラムも講演者の一人として開会から閉会まで参加した。基調講演をしたのは農水省の幹部官僚。ほんの少しだけ期待したが、ほんの少しでも期待したことを悔やんだ。基調でも、貴重でもないつまらんお話。現場をこれほど苦しめておきながら他人事然。
 驚いたことに、農協改革がテーマであったためとはいえ、彼の口から一度も「食料自給率」が語られることはなかった。しかし、農産物の輸出については、レジュメにも書き込まれ、説明もあった。ただし、あくまでも「全農は、平成31年度に農産物輸出を倍増する目標を掲げている」という見出しで。今の農水省を象徴する空気に触れたことだけが食えない収穫だった。

 

◆食料自給率を大いに語る元首相

 JAcom&農業協同組合新聞(7月30日)【福田康夫元首相に聞く】東京一極集中は農業の敵 見直そう国の姿 根本からにおいて福田康夫氏(元首相)は、極めて重要かつ示唆的な見解を披瀝している。
 まず「日々必要とするエネルギー源、栄養源をきちんと確保しておくことが日本としては必要です。食料自給率の間題はかつては危機的な状況だと言っていましたが、どういうわけか最近は言わなくなりましたけどね」と、シニカルに疑問を呈する。
 そして世界の人口増加を想定し、「今後の食糧需給を考えるとき、気候変動による減産も有り得るし、アフリカの人口の急速な拡大を考えれば、食料需給は危機的とまでは言わなくても、きわどいところに行く。そして、何か経済パニックが起きたときには、危機的な状況になる可能性もあることを考えなければならない」と指摘する。
 産業としての農業にとって、利益や儲かるという言葉に象徴される経営の大切さにも一定の理解を示している。そのうえで、「しかしそれだけでは、『いざという時にどうなるか』についての見通しを持たない産業になってしまいます」とは傾聴に値する。
 具体的に、「農業も、儲ける部分と基礎的な部分とで考え方を分けた上で、それらを全体的に把握する。そういう考えが農業政策として必要ではないかと思いますし、農協としてもそういうことを考えなければいけないのではないでしょうか。利益を上げることは必要ですが、いざというときにどうしても必要な食料は農業政策の中に位置づけておかなければならない。自給率の中身についても、......本当に必要な部分と、利益を保つための生産を分けて考えてみる必要もあるのではないでしょうか」と提案し、「自給は国家の自衛のための政策です」とはお見事。
 食料自給率以外にも、「教育の場としても農業はいいですね。忍耐強くコツコツやるのが農業です。毎日、注意深く観察しながら手を加えていく。その気持ちは現場を経験しないと育たない」「東京一極集中は農業の敵」「国民に向けて、たとえば『農業の担い手が減っていくことを傍観していていいのか』と問う必要もあるでしょう」と、至言の数々。福田語録として大切にすべし。

 

◆食料自給率に触れるだけのJAグループと農民作家の怒り

 今年度開催される第28回JA全国大会の「大会議案等策定にあたっての基本的考え方(組織協議案)(全中、平成30年6月)において、食料自給率が言及されているのは4カ所ていど。それも組織協議案の段階であるためか、具体的な工程や取り組み内容については提起されず、一般論的な内容で触れているだけである。
 山下惣一氏(農民作家)は、低迷する食料自給率とそれへの国民の無関心や無理解を腹に据えかねて、「満腹の子に躾はできない」とさじを投げ、「人間は生涯に一度は飢餓を体験する必要がある」と厳しい。「この方向ではいずれ日本人は『農なき国の食なき民』になるだろう。経済が破綻すれば即飢餓だ」との苦言に加えて、「JAグループは肚を据えてこの問題に取り組むべき時ではないのだろうか。......農家の自給、地域の自給、その結果としての国の食料自給率である。けっしてその逆ではない」と、期待を寄せている(農業協同組合新聞、7月20日)【特別寄稿】「農なき国の食なき民」経済の破綻は即飢餓
 しかし、JA以上に責任を負うべき農水省にその意欲が見受けられないため、悲観的にならざるを得ない。 
 前述のセミナーにおいて講演した農水省幹部官僚への質問を事前に打診されたJA組合長は、何のためらいもなく断ったそうだ。「変な質問として捉えられ、後々何かあったら困るから」というのがその理由。農水省もJAとの対話に取り組んでいるそうだが、対話をしたつもりでいても、聞くべき話はしてもらえない。適当な、当たり障りのないガセネタを仕入れて得意げに霞ヶ関に帰るのが関の山。でも怖いのは、そのガセネタで政策が立案され施行されること。真実を語っても、ガセネタをつかませても、苦境に陥るのは現場。だとすれば、言うべきことは言う、その凜とした姿勢こそが現場に責任を負うものの務めである。

 

◆求められる国防としての食料自給

 日本農業新聞(26日)は一面で、トランプ政権が1.3兆円規模の農業支援策を発表したことを伝えている。「11月の中間選挙が近づく中、中国との貿易摩擦などで打撃を受ける農家の支持をつなぎ留める狙い。米国が今後の通商交渉で、相手国との摩擦を辞さない強硬な政策を続ける姿勢の表れ」とのヨミも紹介している。
 解説記事では、その手厚い内容から「伝家の宝刀を抜いた」という表現がなされている。そして、「目先の支援ではなくて、高関税合戦の解消が先」という共和党議員や輸出に軸足を置く農業団体の批判、さらには農業補助金が増えることに対する都市部選出議員の懸念を紹介する。しかし農家の忠誠心が高まることで、トランプ政権の強硬な通商政策運営が継続することを展望している。
 東京新聞(26日)は、今回の支援策は短期対策で、長期目標は交渉を通じた他国の市場開放である、とするバーデュー農務長官の方針表明から、「米農業界の苦境が増す中、トランプ政権は農業面でも圧力を強めそうだ」と、わが国の農業関係者にとっては悲観的な予想を提示する。
 だからといって、他国政権の動きに一喜一憂すべきでは無い。国民の食料を自給することが、国家間の取引や駆け引きによって迷走してはならない。なぜなら、一つ間違えば国民を飢餓に陥れ、その生命に危機をもたらすからだ。
 「自給は国家の自衛のための政策」という福田氏のメッセージは、このことを我々に伝える警句である。
 そして国民の生命とこの愛すべき国土を守ることこそが国防だとすれば、農業は間違いなく平和的国防産業である。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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