【小松泰信・地方の眼力】SDGsの達成を目指すものたちの資格2018年9月5日
2018年10月6日(土)13時より岡山大学にて、第17回岡山大学農学部公開シンポジウムが開かれる。テーマは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs)の達成と農学の役割」。パネリストは古沢広祐氏(國學院大學教授)、太田昇氏(岡山県真庭市長)、森本温美氏(生活協同組合岡山コープ全体理事)の三氏。コメンテーターは荒木紀貴氏(中国新聞社報道部デスク)、東口阿希子氏(岡山大学大学院特任助教)、そして小松がコーディネーター。乞うご来場。
◆「農」の世界を軽んじる組織や国家にSDGsの達成は困難
このシンポジウムのねらいは、「持続可能な開発目標(SDGs)と農学の親和性が極めて高いことを確認するとともに、SDGsの達成に向けた農学の役割」について理解を深めること。SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されており、2016年から30年までの国際目標である。持続可能な世界を実現するための17のゴール(目標)と169のターゲット(課題)から構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。
その達成に向けた企業・団体等の取り組みを促し、オールジャパンの取り組みを推進するために、その達成に資する優れた取り組みを行っている企業・団体等を、SDGs推進本部(本部長:内閣総理大臣)が表彰している。岡山大学は、持続可能な社会づくりの担い手づくりである「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development;ESD)」への取り組みなどが評価され、2017年12月に第1回「ジャパンSDGsアワード」の特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を国公立大学では唯一受賞した。
大学のHPにアップされている「SDGsの達成に向けた岡山大学の取組事例集」には、36の取り組みが紹介されている。うち、約3分の1は農学系に位置づけられる。「農」の世界を軽んじる組織や国家にSDGsの達成は困難といえよう。
◆地域に根ざした経済への転換は農業・農村の持つ多面的機能の再評価から
毎日新聞(9月1日)の"経済観測"において柴田明夫氏(資源・食糧問題研究者代表)は、2015年以降、世界貿易額が頭打ちとなり、貿易増加率が世界経済成長率を下回る「スロー・トレード」の状態にあることから、「安価な資源、エネルギー、食料を前提に、ひたすら成長を目指してきたグローバル化の時代は終わりつつある」とする。そして、世界は持続可能な経済への転換を模索し始めており、「この潮流変化を見誤ってはならない」、「日本の農業も脱グローバリズムが必要だ」と警鐘を鳴らす。ゆえに、食料自給率は過去2番目に低い38%、国内生産だけでどれだけの食料供給が可能かを示す食料自給力指標も低下傾向、という実態は、気候大変動による食料生産の不安定化や物流コストの上昇を考えれば、いかにも異常。この実態を克服するためには、社会的な安定要素である農業・農村の持つ多面的な機能を評価し直し、「地域に根差した経済への転換」、具体的には、「農業を核に食料、エネルギー、人材、水、森林などの地域資源をフル活用し、域内だけで完結させる持続可能な経済の構築」の道を指し示している。
◆こんどはGFPですか!?
同日の日本農業新聞の1面に、農水省が8月31日に、農林水産物・食品の輸出拡大に向けた新たなプロジェクトを立ち上げたことを伝えている。新プロジェクトの略称は「GFP」。Gはグローバル(Global)、Fは農業者(Farmers)、漁業者(Fishermen)、林業者(Foresters)、食品メーカー(Food Manufacturers)、そしてPはプロジェクト(Project)、それぞれの頭文字。
自民党農産物輸出促進対策委員会(小泉進次郎委員長)の提言を踏まえたもので、輸出を目指す第一次産業の経営者や食品メーカーなどの登録を受け、「実現に必要な課題や支援策を探る『輸出診断』の仕組み」を設けている。
同紙3面に載っている仕掛け人小泉氏のインタビューから、要点を紹介する。
まず農産物輸出の意義については、「全ての産業の基本はもうかるところに人が集まること。農業の稼ぎの柱の一つに輸出をしっかりと根付かせたい」とのこと。
次に「輸出と農家所得が必ずしも結びつかないとの指摘」については、「日本の消費者よりも高く買ってくれる海外のマーケットがあり、輸送コストも含めて手取りが上がるなら、そちらを見ればいい。国内だけを見ていると、スーパーとの値下げ合戦で農家手取りは上がらない。......国がやるべきことは輸出で手取りが上がる環境をつくること」と答えている。
最後に、「将来的には『全ての食は日本に通ず』という世界をつくりたい」と、夢を語っている。
輸出促進をめざす委員会の長としての発言だとしても、食料自給率や食料自給力の向上が喫緊の課題であり、輸出の優先順位がそれ以下である、という認識がまったくうかがえない。農政に関わる者としては、極めて無責任な私見の披瀝である。
◆あっぱれ日本農業新聞、"輸出好調"の秘密を暴く
今朝(5日)の日本農業新聞は1面で、2018年上半期2628億円に達したと8月10日に発表された輸出実績が、必ずしも農家所得の向上に結び付いていないという実態を独自調査から明らかにした。
22億円を稼いだメントール。日用品や薬品などに用いられる工業製品だが、政府発表では農産物に含まれている。国産農産物と縁の薄いキャンデー類(36億円)、チョコレート菓子(34億円)、インスタントコーヒー(12億円)なども計上されている。小麦粉(34億円)、みそ(18億円)、しょうゆ(37億円)、ゼラチン(10億円)などは海外産を主原料としたもの。
これらから、「『農産物輸出拡大で農家所得の向上』という政府のスローガンは、割り引いて聞いたほうが良さそうだ」と、上品な物言いで実は告発。悲しいかな慣れっこになっておりこれくらいでは驚かないが、間違いなくスクープである。
◆SDGsの精神と軍事研究という自己矛盾を問う
毎日新聞(9月1日)は"防衛助成 岡山大学など6校 装備庁 学術会議が「軍事」批判"という見出しで、岡山大学のもう一つの顔を紹介している。8月31日の防衛装備庁の発表によれば、自衛隊の防衛装備品に応用できる大学などの最先端研究を公募して助成する「安全保障技術研究推進制度」の今年度分配分先20件の中に、岡山大学も含まれているとのこと。
同制度に対しては「軍事研究に当たる」との批判が強く、科学者の代表機関・日本学術会議が応募を規制する声明を出している。
持続可能な世界の実現を妨げるものの典型が「戦争」。軍事研究はそれに積極的に加担するもの。平和で持続可能な世界づくりを目指したSDGsの精神と軍事研究は相容れない。大学としては自己矛盾の極み。
アウフヘーベンできない自己矛盾を平気で抱え込む組織や国家にSDGsを語り、そして達成を目指す資格なし。
「大学サバイバル戦略の両論兵器」などと言うなかれ。あっちもこっちも、とてもシンジロウという気にはならない。
「地方の眼力」なめんなよ
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(関連記事)
・【輸出促進】GFPコミュニティサイト開設-農水省(18.09.04)
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