【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第78回 牛馬耕と食文化(2)2019年12月5日
西日本や山形内陸などの牛耕地帯では廃牛になった牛の肉が肉屋に出回る。ここから牛肉を食べる慣習が定着する。かくして牛耕地帯は牛肉文化となる。これは言うまでもないだろう。
一方、馬耕地帯であるが、廃馬となった馬の肉も食べるけれども、あまりうまくない。だからといって牛肉を食べるわけにはいかない。交通機関、冷凍輸送の発達していない段階で牛耕地帯から牛肉を持ってくるのは難しいからである。食用としてだけ牛を肥育するのも時間と金がかかる(今のように安く濃厚飼料が外国から輸入されれば別だが)だけで大変だ。
これに対して豚なら、ましてや1~2頭飼いなら手間はほとんどかからず、飼育小屋など小さく粗末ですみ、残飯や野菜屑等で簡単に飼育できる。田畑に必要な厩肥もとれる。そして小遣い稼ぎになる。それで馬耕地帯では豚が飼育され、その肉が馬よりはずっとうまいので食べられるようになり、売れるようにもなる。
とは言うものの、経済的な余裕のない小作農家など豚を購入して飼育する余裕などない。そこで展開されたのが博労などの商人による豚小作だった。
彼らはまず農家に子豚1頭を貸し付ける。
その貸付料(小作料と呼んでいた)は雌豚の場合は子豚だった。つまり、商人は最初に生まれた子豚を小作料として持っていく(その子豚は売る、もしくはよその家にまた貸し付ける)。二産目以降の子豚は商人がお金を払って引き取る。親豚が使えなくなったら商人が引き取り、その目方によって農家にお金を払う。つまり豚並びに子豚の所有権は商人にあるが、二産目以降の子豚と親豚を太らせた分だけが小作人の所得となる。
雄豚を貸す場合は小作料はなく、大きくなったら商人が引き取り、その目方によって農家にお金を払う。当然商人の言いなりの値段で安く買いたたかれて引き取られ、小遣い稼ぎくらいにしかならない。
まさに前近代的な流通のもとで収奪されていたのだが、残飯や農産物の屑、こぬかなどの利用が出来るので餌代はほとんどかからない。しかも糞尿が肥料となるのでそれも魅力である。それなら子豚を自分で購入して大きくすればいいではないかと思われるが、牛馬にくらべて値段の安い豚でさえ購入できるゆとりは小作農などにはなかった。さらに、当時の畜産物の前近代的な流通のもとでは、成豚や子豚を結局はこうした家畜商に販売して買いたたかれるので、自ら所有して飼育してもとくに変わりがないこともあった。
この豚小作と都市部の残飯養豚(これについては説明を省略する)が宮城県など東日本の豚肉消費を支えたのである。
こうして牛肉消費地帯と豚肉消費地帯とが生まれ、同じサトイモを煮て食べる料理もその地帯によってその質が異なることになる。それがいまだに引き継がれ、東西日本ともに牛肉・豚肉ともに食べるような時代になっても、やはり消費量の差が出ている。こういうことなのではなかろうか。
このことは耕すことと食文化は密接に関連していることを端的に示すものである。そしてこの食の文化が基礎になってさまざまな文化が形成される。つまり農業、農村は文化の根源なのであり、カルチュアcultureは『農耕』・『文化』なのである。
なお、鹿児島はかつてサツマイモの大産地、そのさい大量に出てくるサツマイモの蔓や売り物にならない芋などの副産物、これを飼料として利用した黒豚生産、そして豚肉消費の相対的多さ、それがいまだに引き継がれている、と思うのだが、どうだろうか
しかし、牛肉の輸入が自由化されて以来、東日本でも牛肉の消費量が増えるなど、こうした傾向はかなり変えられている。これをどう評価すべきなのか、これは別途論じることにして、次回は話をまた運搬労働に戻そう。
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