2つの収穫予想 需給を反映できるのはどっち?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年10月14日
農水省が10月10日に公表した「令和7年産水稲の作付面積及び9月25日現在の予想収穫量」では2つの収穫量予想が発表された。一つは、従来通りふるい目幅1.7㎜をベースにした予想収穫量で、もう一つは新たにふるい目1.85㎜、1.9㎜をベースにした予想収穫量。従来ベースでは747万7000tの収穫量が見込まれるが、1.85㎜、1.9㎜ベースでは715万3000tで、両者の間には32万4000tもの開きがある。こうした統計数値をベースに農水省は“主食用米の需給見通し”を作成することにしているが、果たしてこうした統計データはどこまで実態を反映しているといえるのだろう。

農水省は水面下でコメ卸団体や集荷団体を回って「ふるい下米がどの程度主食用米に廻っているのか」聞き取り調査している。それを聞かれた集荷団体では「我々にはわからないので特米業者に聞いて欲しい」と言っている。これはわざとそう言っているのではなく、卸団体の幹部の中には特定米穀(くず米)搗精工場を見たことがないという人もいるのだからそう答えるしかなかったのだろう。
特米業者の間で取引される「主食用相当品」と言われるくず米にはいちおう基準がある。それは380匁クラスのくず米を中米と称しており、380匁とは1升(1.8L)当たりの容積重を指す。1匁は3.75gなので1L当たりの容積重に直すと791gになる。
昔の検査規格には容積重の基準があり、それによると1等は810g以上であった。容積重だけをみると原料米業者の間で取引される中米はくず米の中では品位の高いものであり、選別していないいわゆる無選別のくず米に比べ高値で取引される。いちおうと記したのは380匁以上のくず米でなければ主食用に向けてはならないという規定はないからで、この中米と言う言葉の目安は主食用増量原料に使えると言った程度のもので、実際、中米を原料にした精米は広く主食用増量原料として使用されている。
以前は清酒原料としての使用量が多かった時期もあったが、最近では業務用米、家庭用ブレンド米や冷凍米飯、パックご飯などの原料米として幅広く使用されている。
ただし、この基準をもって主食用だとか主食用でないとか決めることは出来ない。在留外国人の中には主食用として砕米だけをつかったコムタムという料理の原料米として求めるほか、くず米を使った料理法も紹介されている。つまりコメの容積重が劣るからと言って主食用ではないとは言い切れないのだ。
しかも特定米穀業者は容積重だけを基準に主食用に向けるだとか向けないと決めているわけではない。あくまでも用途に合った価格で仕向け先を決めているのであって、コメの価格の変動があればおのずと仕向け先も変わって来る。これこそが用途に合った供給であり、需要に合った生産など存在しない。従ってふるい下米がどの程度主食用に廻っているのか聞く方が間違っている。
農水省はふるい目別の生産量調査について平成19年からその統計を取り始めた。生産量が800万t以上あったころはふるい下1.85ミリ以下の発生量が60万t以上あった年もあったが、近年では全体の生産量が減少するとともに発生量も少なくなり、令和5年産米は32万t、6年産米も40万tと少なく、加工原料米の不足という事態を引き起こした。
農水省はふるい下米の調査に熱心で、この分野の分析にさらに力を入れようとしている。理由は食管時代のDNAの名残りが動き始めた気がしてならない。食管時代、自由に売買されるくず米をどう食管の中に組み込むかは当時大問題であった。なぜなら食管という名のもと流通規制はあったもののいわゆるくず米は野放しで、これに何とか網を被せようとして「特定米穀」なる名称を冠した。
この名称は食管がなくなってもいまだに生きているのだが、この特定米穀の主食用米への流通量を調べようとしているのは、需給調整の名目で新たな網を被せようとしているのかもしれない。なにせ厳然として「用途限定米穀」という法律があり、生産調整を実施するためにこの法律を根拠に主食用ではないコメという存在を法律で作り上げ、それを主食用として使用すると罰則規定まで設けているのだから見方によっては食管法より厳しい法律だとも言える。
真に「コメを増産する」というのならこうした法律も必要なく、わざわざ品位の劣るコメがどれだけ主食用に廻っているかの調査など必要ないはずである。当然、ふるい目別の生産量など調べる必要もない。こうした規制をかけてコメを利権化するのを止めれば、コメは価格と品位によってあるべき用途に供給されるので需要が拡大し価格も安定する。
何の役に立つのかわからない調査を行うより流通規制を撤廃することが先である。
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