【森島 賢・正義派の農政論】肺炎列島の予感2020年3月23日
新型肺炎対策について、政府の専門家会議の提言が19日に発表された。主要な部分は、国民に対する説教で、政府に対する提言は、ほとんどない。ここには、国民に自己責任を押し付ける政府への媚態という、科学者らしくない姿勢がある。感染し、病状が悪化したのは、説教を聞かなかったからだ、と言いたいのだろう。
一方、WHOのテドロス事務局長は、18日の記者会見で「検査、検査、検査」と連発し、各国に検査の重要性を強調し、科学者らしく、事実を明らかにするような検査体制の充実と、隔離の励行と、感染経路の追跡を求めた。
しかし、専門家の提言では、これを無視するかのように、検査の拡充について、政府に対する提言はない。
かつて、農業史の大家である古島敏雄先生は「先生が調査した後には、枯れ草1本も残っていない」といわれた。それほどに徹底した現地調査を行った。それを整理した論文の数々は、のちに古島史学といわれる歴史学の体系を作った。
それと比べて、専門家会議のなかには実態を克明に見ようとする科学者らしい人がいるのだろうか。もしもいるのなら、事務局長がいうように、徹底した検査を提言すべきである。だが、それをしない。
このままでは、日本列島は肺炎列島と揶揄されるのではないか。
上の図は、世界各国の人口100万人当たりの新型肺炎の検査数である。オックスフォード大学の研究者たちがまとめたものである。
この図で分かるように、日本の検査数は極めて少ない。隣国の韓国の54分の1だし、日本医学の源流であるドイツの17分の1しか検査していない。政府が検査の拡大を妨げているからである。
◇
こんな小さな資料から、いったいどんな科学的な推論ができるのか。
たとえば、日本は新型肺炎による死亡率が他国と比べて少ないというが、それは、科学的に正確にいえば、政府が検査を認めた、いわば政府公認の感染者の死亡率が少ないというだけである。政府が検査を拒否している感染者、いわば隠れ感染者を含めれば、死亡率が他国よりも多いか少ないかは、こんな小さな資料では誤差が大きすぎて推論できないだろう。
事務局長は、日本の新型肺炎の、このような検査体制について、重大な警告をしたのかもしれない。
◇
善意に考えよう。専門家会議の医師たちは、世界の多くの医師たちとは違う医療哲学を持っているのかもしれない。
彼らは、新型ウィルスと敵対して撲滅するのではなく、共存しようと考えているのかもしれない。それは特効薬やワクチンができるまで待とう、とか、感染しても重症化させないで、自然に治癒するのを待とう、というのだろう。
しかし、それにしても、その効果をみるために検査の充実は必要だろう。
簡素な検査でもいい。1回でなく、複数回検査して陽性になったとき、陽性と確定すればいい。
検査の検体を採取するときに、おどろおどろしい防護が必要だというが、かつての結核の診断では、喀痰から検体を採取した。もしも精度が低いのなら、複数回の検査をすればいい。これなら、それほどの防護はいらないだろう。素人の思い付きである。
しかし、専門家会議は、検査を充実するための専門家らしい提言を、政府に対して行っていない。
◇
検査だけではない。陽性になったばあいにどうすればいいか。この点についての政府に対する提言もない。軽症のばあいは自宅で療養せよ、というだけである。
これでは、家族の全員が濃厚接触者になって、感染が拡大する。そして、専門家会議が危惧する感染爆発が現実のものになる。集会の自制どころか、外出禁止令が発動される。日本列島は、まさに肺炎列島になる。
◇
事務局長は、だから検査と同時に隔離を求めている。
重症者はただちに入院して隔離、はもちろんだが、軽症者も自宅療養ではなく、隔離病棟でもいい、病院船でもいい、医師や看護師の数が専門病院より少なくてもいいから、隔離施設を作って、そこに入院してもらう。そうして、重症化を避け、他の人への感染元になることを避け、自然治癒を待ってもらう。
素人考えだが、宿泊客が少なくなった観光地などの旅館に協力を求めるのもいいだろう。天皇制には反対だが、玄関に日本赤十字社の名誉総裁である雅子皇后の感謝状を飾って社会貢献を誇るのもいいだろう。
しかし、専門家会議は、隔離を励行するための専門家らしい提言を、政府に対して行っていない。
まことに残念である。
与野党が一体になって国難に当たるというのなら、野党推薦の専門家も専門家会議に参加してもらったらどうか。
(2020.03.23)
(前回 調査なくして発言権なし)
(前々回 新型肺炎の反国民的隠蔽)
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