「政治とカネ」波乱含み――農林族勢力図「西高東低」へ【記者 透視眼】2020年12月23日
クリスマス目前、菅政権に冷水を浴びせる出来事、ありがたくない〈クリスマスプレゼント〉が届く。「政治とカネ」疑惑の噴出だ。年明け国会は荒れ模様へ。自民党農林議員の勢力図も「西高東低」の冬型配置が一段と強まる。
元農相に相次ぐ疑惑
豪腕でならした2人の元農相にまつわる。大手養鶏業社「アキタフーズ」の元会長からの吉川貴盛と西川公也両氏への現金授受疑惑は新たな展開を迎えた。当コラム12月7日付「吉川元農相現金疑惑で農業界衝撃」は、読者から多くの反響をいただいた。その後の様々な影響を見越したからだろう。
事柄の根っこは深く、新型コロナウイルス対策で後手に回り国民から厳しい指摘が相次ぐ菅政権にどんな悪影響が出るのか。記者の〈透視眼〉でのぞけば、今後の政治運営や農政運営にも影響が出る様子が見えてくる。
野党は国会喚問要求
事態は刻々と展開する。500万円現金授受疑惑を何ら説明することなく、吉川氏は議員辞職に追い込まれた。東京地検は既に本人に事情聴取を始めている模様だ。野党側は「辞めたからといって責任追及が終わるわけではない」と、吉川氏の体調回復次第、予算委員会での国会証人喚問を求めている。年明け下旬に始まる通常国会は、冒頭から「政治とカネ」で波乱含みとなる。
「さくら疑惑」と118の数字
「桜を見る会」前夜祭の政治資金疑惑で、安倍前首相は東京地検特捜部の任意聴取を受けた。近く、国会で本人による説明も行うとされている。それにしてもあきれるのは、「桜」答弁の118回が事実と異なる可能性があることが分かった。「事務所は関与していない」「明細書はない」「差額は補填していない」の3点だが、「あるのもをない」、つまりは黒を白と説明していた。
気がついたのはこの〈118〉の数字だ。電話番号に例えれば海上保安庁の海難事故の緊急連絡番号である。四方を海に囲まれたわが国〈118〉を背負う安倍氏周辺が果たして軽い事故で済むのか。沈没となるのか。菅政権の行方も左右しかねない。
衆院解散戦略に影響
歴史の巡り合わせを思う。吉川氏の辞意表明は12月21日。来年10月21日の4年間の衆院議員任期満了まで、ちょうど10カ月である。
吉川氏の議員辞職で、議席のある北海道2区の補欠選挙は来年4月25日となる。このタイミングは政局と連動しかねない。菅首相が解散・総選挙をいつ打つかの時期と微妙に絡んでくる。政権は、3月末の年度内に2021年度予算案を成立させる構えだ。その時期と4月25日は極めて接近している。北海道はもともと民主党(当時)の牙城で野党が一定の勢力を持っている。衆院補選は、「政治とカネ」を争点に野党統一候補で戦う可能性も高い。
一方で、菅氏はコロナ感染拡大で年明け総選挙はあきらめたものの、解散時期を探っている。五輪後の秋解散・総選挙が濃厚だが、予算成立後の解散も選択肢の一つ。3月の政治状況によっては政治決断もあり得る。
もう一つ。西川氏の次期衆院選の動向も絡む。後述するが、論功行賞も踏まえ、議員バッジを失った後も内閣参与で「総選挙待ち」をしていたが、今回の現金疑惑で立候補はかなり難しくなった。既に77歳と高齢でもあり、事実上政治生命に関わる事態と言っていい。
西川氏は「つなぎポスト」辞める
同様に元会長から現金数百万円の提供疑惑の西川氏は内閣官房参与を「一身上の都合」で辞めた。同氏はたびたび「政治とカネ」にまつわる問題に巻き込まれている。官邸の意向に沿って農協改革、環太平洋連携協定(TPP)参加などをまとめ上げ、2014年に念願の農相に就いたが、わずか半年後に政治資金問題が明らかになり農相を辞任。17年10月の自民大勝の衆院選でも落選した。その後、安倍首相(当時)の配慮で内閣官房参与に起用され、自民農林合同会議にも政府側の立場で顔を見せていた。つまりは次期衆院選までの「つなぎ」ポストとして、農政上の影響力を維持するための対応と見られている。
農相時の便宜供与なのか
吉川氏の疑惑は農相在職中の事柄であることが焦点だ。ここで何らかの便宜供与があったのか。鶏卵大手「アキタフーズ」グループ(広島県福山市)の元会長は周囲に吉川氏への現金提供を認め「養鶏業界全体のためだった」と話している。大臣室での現金提供と授受が事実なら、政策立案者への働きかけとそれを受けての何らかの政策変更、便宜供与となりかねない。これでは〈歪められた政策〉がまかり通る。国民からの農政不信も招く。
さらに、吉川氏が二階派の幹部、1996年初当選の菅義偉首相と同期で個人的にも近い関係とあって、疑惑の広がりによっては政局にも影響が出かねない。
農水省の「鶏卵価格差補填事業」を巡り大規模生産者に対しても価格下落時の補填を拡充する方針が、吉川氏が農相在任中に決まっている。
自民農林族は「九州勢力」突出
政局とも絡む元農相の疑惑は自民党内の農林族勢力図の塗り替えにも結びつく。吉川氏は北海道で特に酪農に大きな影響力を持っていた。さらに栃木2区が地盤の西川氏は畜酪と農政全般に発言力を保っていた。記者の〈透視眼〉で近未来を展望すれば、共に東日本出身の2人の農林幹部が政治の場から退場したことの意味は大きい。特に畜酪は今後の政策展開に微妙に影響しかねない。
畜酪のうち生乳は北海道、肉は南九州の実力派国会議員が事実上差配するのが一般的だ。畜産関連、特に肉牛は森山裕、江藤拓氏ら農相経験者で鹿児島、宮崎出身の議員がおり、対策拡充が進む。問題は酪農の北海道だ。疑惑を受け政治の舞台から消えた吉川氏は北海道2区。自民党農林合同会議の最前列で農水省幹部ににらみを効かせ政策を実現させてきた議員だ。
自民農林族は当面「九州突出」のなかで論議が進むことになる。その影響が今後どう出るのか注目したい。 (K)
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