中米380匁の容積重は本当は何グラム?【熊野孝文・米マーケット情報】2021年5月18日
令和4年産米から機械(穀粒判別器)による検査が可能になるため、近く「機械鑑定技術検討チーム」が機械鑑定における規格項目の定義など検討し、農水省はそれを受けて今年中に農産物規格規定の改正を行う事にしている。いよいよ穀粒判別器の画像データによるコメの取引が可能になる時代が到来する。このことは単に農産物検査の在り方が変わるという事だけに留まらず、コメの取引や生産、流通、消費に至るまで大きな変革を引き起こすことになると予想される。
4月28日に第8回目の「農産物検査規格・米穀の取引に関する検討会」が開催され、これまでの議論の取りまとめが行われた。結論を得た項目は、(1)機械鑑定を前提とした農産物検査規格の策定、(2)サンプリング方法の見直し、(3)スマートフードチェーンとこれを活用したJAS規格の制定、(4)農産物検査証明における「皆掛重量」の廃止、(5)銘柄の検査方法等の見直し、(6)荷造り・包装規格の見直しの6項目。この中で最も大きな影響が出ると想定されるのが(1)と(3)である。
機械(穀粒判別器)による検査規格項目は、(1)容積重(2)水分(3)白未熟粒(4)死米(5)着色粒(6)胴割粒(7)砕米(8)異種穀粒(9)異物の9項目。なぜ、今までコメの農産物検査規格には入っていなかった「容積重」が機械(穀粒判別器)検査の時だけ必要になるのか? それは現在の人間の目視による検査では「形質」が入っているが、形質とは何かというと「皮部の厚薄、充実度、質の硬軟、粒ぞろい、粒形、光沢並びに肌ずれ、心白および腹白の程度」を指している。分かり易くいうと玄米の見た目で、機械が最も苦手とする項目で、これを容積重に置き換えようというわけだ。
容積重とは1リットル当たりの穀物の重量で、現在のコメの検査項目にはこの規定がないため、なんで容積重が新たに組み込まれたのか首をかしげる人もいるかもしれない。なにせ容積重を計測するブラウエル穀粒計も今や作られていないのだからそう思うのも当然かもしれない。しかし、この容積重が今後のコメ取引において極めて重要な要素になる。
現行の農産物検査規格ではコメに容積重の規定はないが、昔はあった。昔と言っても昭和の時代で、それによると1等は1リットル当たり810g以上、2等は790g以上、3等は770g以上と言う規格があった。
現在、コメ業界で容積重を重視して取引きをしているのは特定米穀業界である。品位の劣るコメを売り買いしている特定米穀業界では、コメの価値基準として容積重を特に重視している。それは容積重が重いコメほど主食用の増量原料や酒造用のかけ米などに使用できるためで、そうした用途に使用できるコメを「中米」と呼んでいる。中米には基準値があり、それは380匁である。匁取引をいまだにやっている業界は珍しいが、長年の習慣はそうそう簡単に変えられるものではなく、過去に匁取引を1リットル当たりの容積重に換算して取引きするという事も検討されたが実現しなかった。それはともかく1匁は何グラムかと言うと3.75gである。そうすると中米の基準値380匁は1425gになる。ただし、これは1升(1.8リットル)当たりの容積に入るグラム数であり、1リットル当たりでは791gになる。容積重だけ見ると昔の2等品位に相当するが、だからと言って中米が2等相当品として取引きされるかというとそんな事はない。なぜなら中米といえども篩い下米のコメであり、着色粒や乳白米など品位が劣るものも入っているため容積重だけで価値が決まるわけではない。
令和4年産米から、現行の目視検査と並行して穀粒判別器による検査も行われるようになる。食品表示基準が改正されたのでどちらで検査しても銘柄表示は可能。最大の問題は、現行の目視検査で格付けされている等級を穀粒判別器で検査したものに対してもスライドさせるのか否かと言う点。検討会では「目合わせさせる」という表現にとどめているが、農水省では「機械検査で過去に定めてあった等級基準の容積重を満たしていても、それにより等級格付けする規格を定めることはない」と明確に否定している。なぜなら農水省の目指すところは機械検査のデータに基ずく「スマートオコメチェーン」であり、それを担保するため新たなJAS規格まで制定しようとしているからである。
しかし、現実のコメの取引きの世界では、穀粒判別器による検査でも目視検査と同じく銘柄表示出来るのであれば、農水省がスマートオコメチェーンを実現するために大掛かりなプラットフォームを作る前に穀粒判別器による画像データによる取引きが始まることは疑いようがない。
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