新潟コシ当限に新規買いを入れた業者の相場観【熊野孝文・米マーケット情報】2021年6月1日
市場ではいろんなことが起きるものである。下げ続けていた新潟コシヒカリが現物市場でも先物市場でも反発。先物市場では当限6月限が先週末ストップ高になった。このストップ高の要因は売り方の利食いによる買戻しが直接の原因だが、その前に新規に買いを入れた業者がいる。新規に買いを入れた理由はそれなりに理由があるのだが、そうした要因が分かり、誰でも先行きの値動きや取引数量がわかる「公の市場」の重要性が益々高まっている。

新潟コシヒカリの先物市場では、5月28日に当限6月限がストップ高の1万3800円まで上伸した。その直接の原因は売り方が利食いの買戻しをしたためである。どうしてそんなことが分かるのかと言うと、大阪堂島商品取引所のホームページに「取引所日報メニュー」が出ており、そこで取引内訳の項を開き、新潟コシ6月限を見ると4枚の仕切り買いが入っていることが分かる。仕切り買いとは売り玉を買い戻すことで、それが値上がりの要因になった。この売り人がいくらで売りヘッジしたのかは分からないが、6月限の売り買いが始まったのは昨年の6月22日でその時の価格は1万4440円であった。仮にその価格で売ったとするなら1万4440円-1万3800円=640円の利益を確保したことになる。
なぜ買い戻したのかと言うとおそらくこの業者のところに消費地の卸から「置場1万4000円で買う」と引き合いが入ったことによると推察される。この売り人は、手持ちの現物をこの価格で卸に売ることにして先物市場で現物渡しするのを止めて買い戻したのだろう。つまり先物市場で売りヘッジすることによって価格変動によって発生する差損を未然に防いだことになる。ではなぜ消費地の卸は置場1万4000円で買いに入ったのか? それは量販店での売れ筋商品である新潟コシヒカリの現物を手当てするためで、新米が出て来るまであと3カ月あり、この間の2年産米を確保しなくてはならない。
そう思わせる出来事は5月19日に開催されたクリスタルライスのFAX取引会で、新潟コシヒカリの安値の売り物が消えてしまったことにある。この時の売り物で、新潟一般コシヒカリで最も安いものは東京着1万5580円であった。あまりに売り唱えが高過ぎるのでメニューを見た卸も驚いたが、こうした売り物しか出ないことについては「底が浅い」としか言いようがないが、これを契機に買い打診が急増した。
現物市場の様相が変化したことが先物市場でストップ高になった最大の要因で、その意味では現物市場と先物市場は常にリンクしている。産地業者の中には現物市場の様相が変わってきたことから当限6月限を新規買いした業者もいる。この業者は先物市場を上手に使うことを良く知っており、鞘取りが得意な業者でもある。
鞘取りの最も基本的な手法で簡単なものは当先の値鞘を狙ったやり方。分かり易くいうと6月限が1万3800円で買え2ヶ月後の8月限が1万4000円になっていたとすると保管料等が100円なら6月限を買って8月限を売れば100円の利ザヤを稼げる。これは時間差を利用した鞘取りだが、空間を利用した鞘取りも出来る。最も難しいのは商品ごとの鞘取りで、新潟コシヒカリと一般雑米の格差を利用した鞘取りも出来、この業者はこうしたこともやっているほか期先を売って当限を買うという逆ザヤ取も行っている。現物を扱う当業者なのでこうした芸当が出来るのだが、今回新潟コシの当限をなぜ買ったのか本人に聞いてみた。本人いわく「安いから」。まさに至言だが、安いと思うには理由がある。それは最も手持ち在庫が多い農協が強気で安値で仕切って来ないことが分かったからである。農協が安値で仕切らない理由は、在庫になった2年産コシヒカリは、パックご飯の原料として使用されることになったことが決まったからで、年産表示の必要がないパックご飯はとてもありがたい存在。しかも巣ごもり需要で販売量が伸びているのだからメーカーにとっても渡りに船だったのだろう。
こうした売り先があるのかないのかは別にして、新規買いを入れた業者のように先物市場の使い方を良く学べば、単にリスクヘッジするだけでなく利益を得る手段としても使える。
何よりも重要なことはこうした市場があることによって誰でも参加出来ることだけではなく、様々な情報が集積、発信されることである。
大阪堂島商品取引所は6月に仙台市で14日に、秋田市で15日、新潟市で17日にコメ先物セミナーを開催することにしており、田植えが終わった生産者も先物市場とはどんなものか一度勉強しに行ってみてはどうか。
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