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(465)「テロワール」と「テクノワール」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月12日

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 先週の検討を少し深めてみます。「ローカル」の最終進化系が「テロワール」なら「グローバル」の最終進化系は何か、という訳です。

 先週は、ローカル、ローカリティ、テロワールを、地理的近接性、それに文化的要素が加わったもの、さらに、科学的根拠が明示されたもの...という形に整理した。

 さて、このコラムのタイトルは「グローバルとローカル」である。順番は逆になるが、ローカルがテロワールに進化するのであれば、グローバルは何に進化するのか、これが今週のテーマである。

 単純に言葉だけで考えてみると、ローカリティに対応する英単語ではグローバリティ(globality)という単語が思い浮かぶ。この単語が示す意味の世界は、グローバル化(globalization)が進展した結果として生じる状態を示すことが多いようだ。

 実務的に言えば、グローバル化が進展し、例えば、サプライチェーンや価値基準、規格などが世界で統一された状態と言い換えて良いかもしれない。携帯電話や自動車だけでなく、食の文脈では世界中どこでも同じ味が味わえるハンバーガー・チェーンや、〇〇うどんなどは、その具体例になる。

 ローカリティが特定の場所の地理的近接性だけでなく文化を表したものと考えると、グローバリティは、まず特定の場所という制約条件を解き放ったものと理解できる。

 そして、ローカリティからテロワールへの進化が、その文化的内容を特徴づける要素の科学的特定であるという点を考慮すると、テロワールの理論的な対立概念としては、グローバリティをさらに科学的に特徴づけるものは何かという方向性が見えてくる。

 例えば、土地に依存しない生産などはその典型例である。言い換えれば、世界中、どこで作っても特定の土地の特徴がなく、同じ食品を作ることができる世界かもしれない。生産現場に例を取れば、スマート農業の一例として見られる都市型農業や垂直農業などは、こうした方向性を示している。世界的に事業を展開している食品企業が最終的に目指しているのはこういう方向なのではないか。どこで作っても自社の同じ味という訳だ。ただし、ここまでは、まだローカリティに対応するグローバリティの段階である。

 テロワールの対立概念をグローバルに当てはめると、土地という制約条件を完全に取り払い、どこででも同じ味を再現することになるが、それを可能とするのは何かという問いに突き当たる。答えは「技術(technology)」である。

 例として、酵母・酵素剤・温度管理・化学的補正などを活用し、土地よりも技術を用いて、世界中で同じ味を作り出し、気候や土壌に制約されないワインや醸造酒、あるいは工場野菜などを製造する方向性がある。

 これはテロワールに対し、概念的にはテクノワール(technoir)と呼ぶことも出来よう。学問の世界ではデテリトリアリゼーション(脱領域化:deterritorialization)などと呼ばれている。

 最後に、今後テクノワールが高度に進展した場合のメリットとデメリットについて簡単に記しておこう。メリットは言うまでもない。味や品質が安定化し、大量生産・効率化が進展する。さらに、市場が国内外に拡大し、そこで供給される食品は技術により高度に管理された製品である以上、工程管理の追跡(トレーサビリティ)が容易であり、食の安全にも貢献できる。

 一方、味や品質の均質化は個性の喪失にもつながる。消費者はその土地でしか味わえない食を楽しむことができなくなり、それは中長期的には文化的・地域的な価値の希薄化・喪失にもつながる。さらに、地域ブランドなどの高付加価値化にも影響を与えるであろう。また、高度な技術への依存は、自然条件や伝統的生産の知識や技術への軽視と微妙な関係にあることも理解しておく必要がある。

 このあたりのバランスについては、稿をあらためて考えてみたい。

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