「論」なるもの(下)「実践・修正の繰り返しを」JA全中教育企画課長 田村政司【リレー談話室・JAの現場から】2021年6月19日
前稿で「論」なるものは、実践する中で自ずと会得されると述べたが、意図するところは、計画なるものはマニュアルにある手続きを踏み、フォーマットに記入していけばできるようなものではない。また、真剣に考え抜く、仲間と徹底的に議論する姿勢が何よりも大切であるという意味合いで受け止めていただけたらと思う。
このことを前提とすれば、優れた農業振興計画や経営計画を生み出すための戦略「論」はあると思う。故今村奈良臣先生をはじめとする農業とJAを愛する多くの師から、次のような取り組みを続けていくことを教えられてきた。叱られてきたといった方が適切かもしれないが...。
師の教え
一、 自JAと近しい環境におかれ、優れた成果を上げているより多くのJAの「現場」に足を運び、「人物」の話をよく聴きなさい。
二、 それらJAで共通する課題の「本質」を汲み取り、自JAに応用できるか考えなさい。
三、 考えられる様々な施策を総合化し、自分なりの「仮説」を組み立てなさい。
四、 「実践」し、修正し、このプロセスを繰り返しなさい。
これを「論」というかは意見が分かれるかもしれない。日本の経営学の泰斗である野中育次郎氏が提唱する価値創造論としてのSECI(ナレッジマネジメント)モデルは、(1)共同化(現場での共感)→(2)表出化(エッセンス抽出)→(3)連結化(物語)→(4)内面化(修得)の一連のプロセスを繰り返す中で、価値が生み出されていくというものである。氏の講義を聞いた時、このモデルは私たちが学んできた師の教えそのものであると思った。
人材育成「論」として
また、師の教えは、組織において企画立案や事業開発にあたる人材育成「論」とも言える。すなわち、研修であれ、実際であれ、このプロセスを幾度となく経験することにより、イノベーション力が身についていくのである。ちなみに、野中氏は異なる企業の将来の経営者候補を集め、SECIモデルを教え、チーム編成し、優れた企業訪問をさせ、日本型経営モデルをつくらせるというナレッジフォーラムを10年以上続け、多くの企業経営者を輩出してきている。
私たちの取り組みとして
JAグループにおける価値創造人材育成の場として、JA全中は経営マスターコース、県中央会はJA戦略型人材育成研修に、それぞれ20年、10年取り組んできた。経営戦略論の基礎知識を学び、事例を素材としたディスカッションを重ね、論を使いこなせるよう訓練し、自JAの計画プランを提案させる内容である。
少子高齢化、DX(デジタルトランスフォメーション)、環境対応など、かってない大きな環境変化の下で、新しい事業を生み出すことのできるより充実した人材育成の場づくりが求められている。第29回JA全国大会にむけて、師からの教えを活かし、フィールドワーク、チームマネジメントを組み入れた新しいカリキュラムを検討している。
久しぶりに仲間と
前稿であらゆる戦術論と戦史を調べよという秋山真之の戦略論と、まずは型を習い身につけよという千利休の「守破離」の教えを紹介した。こうしてみると、いずれかではなく、両者相まった学びと実践の中で、新たな価値を生み出し、人材を育成するという結論になるが、さてどうであろうか。アフターコロナへ、そろりと足を踏み込みはじめた。久しぶりに全国の仲間と談論してみたいものである。(JA全中教育部教育企画課長 田村政司)
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「論」なるもの(上)「絶対でなく相対的真実」
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