ドローン水稲種子直播で特許を申請した生産者の勝算【熊野孝文・米マーケット情報】2021年10月26日
今年8月にドローンを使った水稲種子の直播(ちょくは)栽培で特許を申請したという生産者に話を聞く機会があった。特許の核心部分は「芽が出た種子をドローンで水田に直播」するというもので、代かきも不要になる。この生産者は今年、福島県と埼玉県の3ヵ所で実証テストを行っており、年内にもその結果を公表する予定でいるが、これが実用化できるようになれば生産コストの大幅な削減が可能になるという。
ドローンを活用した農業現場への導入事例は、農薬散布や種子播種などが紹介されているが、近未来の予測動画を大学や国の研究機関が作成しており、それを見るとまさにSFの世界を見ているような気分になって来る。SFではなくIT企業が開発した種子を直接水田に「打ち込んで行く」ドローンの動画を見ていると、これまで当たり前のように続けてきた田植え(移植)という栽培方法が無くなる日も近いのではないかと思えて来る。この打ち込み式のドローンは種子をコーティングする必要がなく、普通の籾(もみ)を水張した水田に直接打ち込んで行くという方法で、水深や土の硬さを計測しながら自動で土中5cmの深さに打ち込めるようにするというのだからまさに画期的。しかもどんなドローンの機種でも回転しながら打ち込んで行く播種器を装着できるというのだから、この播種器を欲しがる生産者がいても不思議ではない。ただ、水深や土の硬さを画像で判別できる機能が開発中で、実用化には至っていない。
否応なしに水田面積が拡大している大規模稲作農家の中には、人手不足で田植えができなくなっている農家もおり、そうした農家は自ら工夫しながらドローンで播種している。鳥害を防ぐために自社で種子を酸化鉄でコーティングしてドローンに搭載して播いていく。酸化鉄を使うのは鳥害を防ぐ目的以外に鉄コーティングを使用するとドローンが誤作動を起こす可能性があり、それを防ぐ目的もある。感心するのは軽トラックを改良し、ドローンを簡単に積み下ろしできるように木製の滑り台を作り、6個のバッテリーや薬剤などを搭載できるようにしていること。播種する水田が分散しており、機動的に移動するためにドローン搭載専用の軽トラックまで用意した。10a程度の水田では播種を終えるまでに15分ほどしかかからないが、全部で20haもドローンで播種しなければならないので大変だ。
芽が出た種子をドローンで播くという方法で特許を申請した生産者の播種器は目詰まりしない工夫がされている。この工夫をしたのはドローンメーカーではなく、ホビーメーカーでちょっとしたアイデアで芽が出た種子でも目詰まりしないで播くようにすることができるようになった。種子は1平米当たりに400株が出て来るようにする。それを可能にするために種子を落とす開閉口のスピードをコントロールできるようにした。なんとも細かな工夫が必要になるが、これで播くにしても一回の種子搭載可能量は20kgで、少し大きな面積では何度も種子の積み込み作業をしなくてはならない。
飛行機で広大な面積を播種しているアメリカでも芽立ちを良くするために種子を浸漬してから播種する。飛行機の速度を時速120kmから140kmにして風の力で種子タンクから種子を押し出すようにして播く。日本でも広大で均平な水田であればそうしたことが出来るのだが、多くは1筆当たりの面積は小さく、かつ傾斜地も多いので飛行機では播けない。そういう意味では小さい面積でも傾斜地でも播種出来るドローンは日本の水田に向いているという事も出来る。
米国と日本の直播の違いは面積だけではない。一番の違いは種子にある。田植えをしない米国では、直播に適した種子の育種開発に取り組んできており、播種した後の根張りが日本の種子とは決定的に違い、茎の大きさも太いので倒伏することがない。日本でも直播に向いた品種として「萌みのり」等が育種されているが、「コシヒカリ」系のコメがおいしいとされる日本では真に直播に適した品種が普及していない。特許を申請した生産者にそのことを聞いてみると日本にも直播で反800kg取れる品種があるという。来年はこの品種を用いてさらに実証テストを行うことにしているが、もう一つの工夫することは代かきしない代わりに均平にした水田に浅い溝を筋状に作ることを計画している。これによって溝の中に種子が均一に並ぶことでより播種量を少なくして苗立ちが良くなるという目論見。
いかに効率的なコメ作りをなし得るのか。こうしたことを常に考えている人たちが日本の稲作を変えて行くことになるだろう。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日