(324)小鶴伝説【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年3月17日
仕事の関係でJR仙石線の小鶴新田駅を何度か使用しました。仙台駅からわずか10分程度、仙台市宮城野区にある駅です。車窓からの風景を見ながら、そして仕事の前後と週末を使い少し考えたことを記してみます。
駅を降りて最初に気が付いたのは駅前のロータリーの表示が「小鶴新田」ではなく、「小鶴・新田」と「・(ナカグロ)」を入れた表示であったことだ。新田は読んで字の如しだが、さて「小鶴」は何か。そもそもこの土地の人間でない自分にはその程度の知識しか無い。少し検索してみたところ、「小鶴城」や「小鶴合戦」についていくつかの記録を読むことができた。便利な時代である。
仙台と言えば伊達氏だが、実は伊達氏が台頭する前には国分氏、留守氏、粟野氏などの豪族がおり、この近くでも領地をめぐり数多くの争いが行われた。小鶴城のあたりは国分氏と留守氏の縄張りの境界かつ要衝であり、中世には何度も合戦が行われていたようだ。仙台の歓楽街にその名を遺す国分氏の名前は何となく知ってはいても、こうした地元の古い戦いは意識して調べない限り外来者にはなかなかわからない。
さて、小鶴城がなぜそう呼ばれたかだが、大昔には城の南側に大きな沼があり、それが小鶴沼あるいは小鶴ケ池と呼ばれていたことに由来するという。ここから先は、全国各地にある様々なバリエーションを伴う伝説と同じである。
この地域の水田は広い。そして今でもそうだが、とくにかつての稲作における田植は非常に重要かつ重労働を伴う作業であった。今回の仕事とは全く関係なくたまたま興味本位で読んだある本にこの小鶴の話が記されていたから偶然というのは面白い。
「昔、多賀城下の富豪の姑が嫁の小鶴を酷遇し、何町歩とある田植を一日の中に済ませと命じた。小鶴は幼児を背負うまま終日挿秧するうち幼児は餓死し、自分も田植の済まぬので姑に責めらるるが悲しく湖に投じて死んだ。それでこの湖をかく呼ぶようになり、その田を今に千苅田というている(封内風土記巻四)。」(礫川全次編『中山太郎 土俗学エッセイ集成 タブーに挑む民俗学』、161頁)
ちなみに「挿秧」はソウオウと読む。オウは苗のことだ。田植のことを示している。さて、この一文だけを見れば、姑に辛い仕打ちをされた嫁の話だが、実は全国各所にこれと似たような話が数多く伝えられている。実際にここに記されたような悲劇が存在したかどうか、今となってはわからない。ただ、先の中山は非常に興味深い推論を記している。
即ち、太古の人々にとっては穀物そのものが神であり、種から実がなることは人の一生と同じように思えたようだ。そのため、人々が食べるためとはいえ、穀物を刈り取ることは穀物の神を殺すことにもなる...、という考え方である。
以前、日本書記の五穀誕生もいわば食べ物の神である大宣津比売神(オオケツヒメノカミ)が須佐之男命(スサノオノミコト)により切り殺されたことにより始まることを紹介した。(下記注)
中山は「私達の遠い祖先は、穀物が播種すると繁茂し結実するのを、直ちに自分達の生死と類推して、これを穀物の生死と考えたのである」(同151頁)としている。これは現代人にもわかる感覚である。それならば、なぜ太古の人々は生存に最も重要な穀物の神をあえて殺すような内容を繰り返し神話や各地域の伝承として伝えているのか。その答えとしての中山の洞察は一読の価値がある。自分達の土地にある少し内容が異なる「小鶴伝説」に思い当たる方には前掲書は面白いであろう。
こうした伝説の事実性の議論は研究の領域である。それよりは、「小鶴伝説」のように共通の構成要素を持つ伝承が各地に存在すること自体、どのような背景に基づくものか疑問を持つことが、自分達の住む地域を深く理解することに繋がるのではないかと考える。
* *
次の機会には是非、小鶴城の跡を訪ねてみたいと考えています。
重要な記事
最新の記事
-
米粉で地域振興 「ご当地米粉めん倶楽部」来年2月設立2025年12月15日 -
25年産米の収穫量746万8000t 前年より67万6000t増 農水省2025年12月15日 -
【年末年始の生乳廃棄回避】20日から農水省緊急支援 Jミルク業界挙げ臨戦態勢2025年12月15日 -
高温時代の米つくり 『現代農業』が32年ぶりに巻頭イネつくり特集 基本から再生二期作、多年草化まで2025年12月15日 -
「食品関連企業の海外展開に関するセミナー」開催 近畿地方発の取組を紹介 農水省2025年12月15日 -
食品関連企業の海外展開に関するセミナー 1月に名古屋市で開催 農水省2025年12月15日 -
【サステナ防除のすすめ】スマート農業の活用法(中)ドローン"功罪"見極め2025年12月15日 -
「虹コン」がクリスマスライブ配信 電話出演や年賀状など特典盛りだくさん JAタウン2025年12月15日 -
「ぬまづ茶 年末年始セール」JAふじ伊豆」で開催中 JAタウン2025年12月15日 -
「JA全農チビリンピック2025」横浜市で開催 アンガールズも登場2025年12月15日 -
【地域を診る】地域の農業・農村は誰が担っているのか 25年農林業センサスの読み方 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年12月15日 -
山梨県の民俗芸能「一之瀬高橋の春駒」東京で1回限りの特別公演 農協観光2025年12月15日 -
迫り来るインド起点の世界食糧危機【森島 賢・正義派の農政論】2025年12月15日 -
「NARO生育・収量予測ツール」イチゴ対応品種を10品種に拡大 農研機構2025年12月15日 -
プロ農家向け一輪管理機「KSX3シリーズ」を新発売 操作性と安全性を向上した新モデル3機種を展開 井関農機2025年12月15日 -
飛翔昆虫、歩行昆虫の異物混入リスクを包括管理 新ブランド「AiPics」始動 日本農薬2025年12月15日 -
中型コンバインに直進アシスト仕様の新型機 井関農機2025年12月15日 -
大型コンバイン「HJシリーズ」の新型機 軽労化と使いやすさ、生産性を向上 井関農機2025年12月15日 -
女性活躍推進企業として「えるぼし認定 2段階目/2つ星」を取得 マルトモ2025年12月15日 -
農家がAIを「右腕」にするワークショップ 愛知県西尾市で開催 SHIFT AI2025年12月15日


































