経済学の混迷【森島 賢・正義派の農政論】2023年5月29日
ウクライナ紛争が終結するまでには、まだまだ多くの時間がかかるようだ。全世界を巻き込んだこの紛争は、いまや文明の衝突の様相を呈してきた。文明の基盤である一方の資本主義が崩壊し、新しい社会主義が台頭しつつある。そして、その交代期における混迷がある。
もう1つは、コロナ禍である。ようやく終息したようだ。だが、つぎのパンデミックの襲来まで時間の余裕はない、と予想する専門家が多い。主な原因は、経済の急速な発展にともなう森林破壊にあるという。
2つとも、原因の根は深い。そして、人災である。事態を深刻にしている原因は、それらを取り除くための科学の混迷にある。自然科学の混迷だけではない。社会科学、ことにその基礎になる経済学に混迷がある。
ウクライナ紛争にしても、コロナ禍にしても、共通していることは、資本主義の衰退に対する、事実と科学に基づく処方箋がないことである。
ウクライナ紛争の原因が、NATOの東方拡大にあることは、誰もが認めることである。それは、資本主義による搾取の東方拡大である。そして、経済格差の拡大である。
これを、現代の経済学はどう考え、どう修正するのか。
◇
所得の再配分、という有力な処方箋がある。だがこれは、あまりにも対症療法的ではないか。いったん生産段階で格差を是認しておいて、その後に再配分して修正する、というのである。
こうした対症療法を、全面的に否定するわけではない。しかし、根治療法にはならない。再発が予想される。
根治のための療法は、当初から格差を否定することである。つまり、生産段階での格差の否定である。それは、資本主義への根本的な批判である。否定につながる批判にもなる。
だがしかし、ほとんどの経済学者は、資本主義の根本にまで遡った批判をしない。それを禁忌にしている。そうして資本に忠節を誓っている。
現代経済学の混迷は、まさにここにある。
◇
この対症療法を続ければ、格差は解消するのか。資本主義の生産構造が続くかぎり、格差は続くのではないか。
格差を原理的に否定する社会主義を目指しているが、しかし当面の対症療法だ、というのなら、そうした説明をすべきではないか。だが、そうした説明はない。
◇
もう1つはコロナ禍である。その原因は森林の無秩序な開発だ、とする説が有力である。ここにも資本主義がかかわっている。
だから開発をやめ、経済発展をやめて禁欲しよう、というのである。これも対症療法である。
そもそも、経済とは人間の物的欲望を満たすための活動である。この活動を抑制して、新しい開発をやめれば、パンデミックを予防できるかもしれない。しかし、いつまで続けるのか。際限もなく続けるのか。
原因療法として有効なのは、開発にたいする政治による規制である。
しかし、これは、私的な経済活動に根をおく資本主義の否定であり、社会主義である。この点について、経済学者の議論がない。ここにも禁忌がある。
以上のように、現代経済学には、資本に忖度したいくつかの禁忌があって、それが混迷を招いている。そうして、資本の忠実な下僕になり下がっている。
(2023.05.29)
(前回 親NATO諸国の日没は8年2か月後)
(前々回 日本の低賃金は労働運動の低迷が原因だ)
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