必要な産地銘柄を手当てできる先物市場【熊野孝文・米マーケット情報】2024年2月20日
コメのスポット市場価格は沈静化する気配は一向になく、先週末の米穀業者の席上取引会では売り物が少ない中、福島コシヒカリ1等が関東持ち込み1万6750円と言う高値で2車(400俵)が成約した。出席者の中には情報交換会で「関東の雑銘柄でも2万円の相場を付けると予想している」と言う業者もいた。まだ6年産が出回るまで半年ほどあり、そういう事態も想定できないわけではない。食糧法があっても一向に価格が安定しないどころか数年おきに大きな乱高下を繰り返している。先物市場があればこうした価格の乱高下に対してリスクヘッジして対処でき、価格を平準化させることが出来る。
コメの当業者にとって、試験上場中のコメ先物取引は、標準品として特定産地の銘柄を売買対象品に決めて、それ以外の産地銘柄は共用品として受渡しされていたため、買い手は先物市場での現物が受け渡しされる納会では自らが希望する産地銘柄が渡って来ないという悩みがあった。これは標準品格付け取引では納会での受け渡しは「売り方勝手渡し」と言うのが大原則であり、標準品の価格を決めて共用品は格差を設定して、売り方は検査品であればどのような銘柄でも渡すことが出来るようにしていた。そうしないと特定銘柄だけの受け渡しでは買占め等の問題が発生する可能性があったからである。
(株)堂島取引所が本上場に向け農水省に申請する新たなコメ先物取引では、商品設計としてこの問題を解決するため、取引所が特定の現物市場を指定してその現物市場を通じて買い手は自らが希望する産地銘柄を買えるようにする。これは先物市場に買い建て玉を立てた卸等は、納会前に受託した商先業者を通じて自らが希望する産地銘柄の買い注文を打診する。商先業者は取引所が指定した現物市場に買いたい産地銘柄を打診し、指定現物市場が売人を探して受渡しするという流れになる。
また、試験上場中は特定産地銘柄だけが売り買いされ、それ以外の産地の生産者は関心が薄かったが、新しい先物取引では、国内のコメ平均価格が取引対象なので、すべての生産者が利用しやすくなる。
コメ平均価格を利用した取引手法を具体的な事例で説明すると、8月にスタートする先物市場で2か月後の10月に6年産米の日本コメ平均価格が1俵1万4800円であったとする。その時点での新潟のコメ生産者は新潟コシヒカリの現物価格は1万6000円であったが、6年産米の価格下落に備えて、先物市場で日本コメ平均価格の10月限を1万4800円で1000俵(20枚)売ったとする。10月になると豊作基調と言うこともあって日本米平均価格も下落、1万3000円になった。この時点で買い戻すと1万4800円‐1万3000円=1800円の利益が出る。半面、10月に収穫した新潟コシヒカリの1万6000円から1万4200円に下落するため、当初見込んだ価格より1800円安くなるが、先物市場で売りヘッジしていたことでその差損をカバーできる。
反対に買い手の卸も先物市場で買いヘッジすることにより6年産米の価格が値上がりしても値上がり分の差損を回避することが出来る。売り手、買い手ともリスクヘッジすることにより将来発生する可能性がある差損を回避できるというのが先物市場の大きなメリットの一つである。
ただ、新たなコメ先物取引は「日本コメ平均コメ価格」はあくまでも指数である。この指数はわかりやすく60㎏玄米当たりの価格を出す予定にしており、具体的な産地銘柄ではなく、あくまでも日本のコメの平均価格で、堂島取引所が算出する。その出し方は当業者や専門家により構成される指数算出要領策定員会が行うことになっている。データのたたき台としては農水省が調査して公表している各産地銘柄の相対取引価格を基データとして活用することが検討されている。この場合、相対価格と実際に市中で取引される価格がパラレルでなければ、先物市場で活用されるような最終清算価格にはなり得ない。相対価格と市中価格の連動性はタイムラグはあるものの、その相関性は90%以上あると見られているので、最終的にそれを基データにした平均価格が用いられると予想される。
日本コメ平均価格と言う指数を用いて取引され、納会での現物受け渡しを伴わない取引であれば一般投資家にも大きなメリットがある。最終的に受け渡ししなければならいとなると売りポジションにある投資家ならどっかから現物をもって来なくてはならない。反対に買いポジションをとっている投資家は現物を受けなければならない。今回は指数取引なので最終決済価格で売り手は買い戻し、買い手は売り戻すという反対売買を行って建玉をゼロにすることによって受け渡しを伴わない。
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