【スマート農業の風】(8)可変施肥できますか2024年9月26日
最近の農業のトレンドは、精密農業と言われています。では、精密に何をするのでしょう。一番身近なのは、収量コンバインによる収穫量を場所ごとに確認できる仕様を活用した精密農業です。また、生育中のほ場の衛星写真を確認できる営農支援システムも出てきており、これらのデータを反映させ、いろいろな場面で精密農業をおこなうことができるようになりました。今回は水稲を例に説明いたします。

今までほ場の状態を確認する一番の方法は、ほ場の見回りでした。ほ場の見回りは、回数や年度を重ねることでほ場の状態を的確に把握し、適切な管理につなげることができます。例えば、毎日の水やりの合間に、水稲の状態を把握し、出穂時期を確認し、追肥のタイミングを検討することや、稲穂の膨らみを確認しつつ稲刈りのタイミングを判断してきました。
一方、生産者の高齢化や生産面積の拡大により、生産者の負担は様々な形で増え、見回りを細かく詳細な状態でおこなうことが難しくなってきました。
そこでその部分を埋めるため、様々な技術が発達しました。なかでも、ドローンによる空撮や衛星写真は、様々なソフトウェアを使用することで、ほ場の状態を確認し、追肥の時期や収穫時期を特定することが可能となりました。10年ほど前の初期の段階では、費用面でかなりの負担がかかりましたが、最近では安い価格で使用できるシステムも出てきました。これらは、リモートセンシングによる精密農業と分類できます。
ドローンや衛星写真によるセンシング費用が高価になった理由は、ドローン自体の価格の高さや、衛星写真がまだ身近なものでなく、精度を求めるあまり高精度の写真を必要としたことが原因と考えられます。また、写真のデータを解析するための費用も高価になった理由と言えます。
そんな中、農業機械メーカーから新しい提案がおこなわれます。コンバインにGPSを搭載し、タンクの中に重量計を備え、収穫した場所ごとの収穫量を把握できるシステムです。それらを確認するためには、農機メーカー独自のソフトウェアを使用する必要がありましたが、画面を通じて、ほ場の収穫量を場所ごとに把握することができるようになったのです。今まで、コンバインのオペレーターがなんとなく感じていたほ場の生育の差を目で見ることができるのです。これらは収量をセンシングに置き換えておこなう精密農業です。
次に考えるのは、これらのデータを使い元肥施用時に可変施肥をおこなうことです。同社の田植え機には田植え同時施肥装置が装着されており、施肥機の開閉シャッターも電動で駆動するタイプだったため、GPSの移動に合わせ可変施肥をおこなうことが可能となります。コンバインで取得したほ場の場所ごとの収量の良し悪しを見える化し、データにすることで田植え機による可変施肥が可能となりました。ほ場の見える化は、既定のメッシュにより行われるので、すべてほ場の状態に合わせているわけではありません。また、ほ場の地力により、可変施肥の効果が的確にその年度に現れるわけでもありません。ただ、数年をかけて可変施肥をおこない、生育のそろいを合わせほ場の生育ムラをなくすことで可変施肥の効果を受けることができます。
現在、よく使われているリモートセンシングの事例を紹介します。
全農とBASFの提供するザルビオフィールドマネージャーは、田植え日・田植時の稲の葉の数・品種の情報と合わせてほ場を登録することで、水稲の生育状態を推定することができるサービスです。登録時に入力した情報をもとに、いろいろと表示することが可能です。表示内容には、病気のアラートや追肥の提案などとともに、生育ステージと呼ばれる稲の生長具合が表示され、出穂期・穂ばらみ期・登熟期など様々な表現で確認できます。
また、登録したほ場は、衛星写真の提供もおこなわれており、衛星写真から取得したほ場の生育状態を知ることができます。これらは、機械散布に適応したデータとしてダウンロードが可能で、USBや専用のシステムを介して、可変施肥の可能な機械にデータを送ることができます。可変施肥ができる代表的な機械は、田植え同時側条施肥機、ブロードキャスター、ソワーなどで、田植え機に限らず、元肥の施用方法に合わせて機械を選ぶことが可能です。
少し前の農業で、リモートセンシングといわれていたものは、新たな形で姿を変えて生き続けています。それらは、もともと生産者がおこなっていたほ場を確認するという、日々の農作業と変わることなく人の目が、衛星写真やコンバインの収穫データに代わっただけです。その中には、人間の判断が必ず介在し、機械だけで出来ない農作業の面白さであるのかもしれません。
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