(437)食と農の未来【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年5月30日
AIが「食と農」にもたらす未来——今回はこれを想像してみたいと思います。
AIの今後の進化を踏まえた上で想像できる究極の農業の姿、これは完全自律型農業かもしれない。一言で言えば、耕起から播種、生育管理、収穫、梱包、輸送、販売、その全てが無人化される。農場はセンサーとAIに制御されたロボット群により自律的に運営される。
農場が位置する場所や気候、輸送や国内外の需給状況や市場価格などをAIが考慮した上で、最適と判断された農産物は全て自動かつ自律的に無人のまま、「耕す」のではなくひたすら連続的に「処理」されていく世界である。
この流れの中で人間はどこに関わるかと言えば、システムの基本的な設計(それもいずれはAIにより実施されるかもしれない)か、目的を変更する際の意思決定くらいであろう。例えば、把握可能な全てのデータをもとにAIが合理的な判断を実施してある作物を選択しても、その農場の所有者が何等かのこだわりや特定の理由により異なる作物を選択し、その上での最適化をAIに委ねるような場合が考えられる。
このパターンが普及するとどうなるか。恐らくは「農」という概念そのものが消失する可能性が垣間見える。都市部のビル内の野菜生産場、代替肉を生産する細胞工場、あるいは各種原材料を適切に混合する合成食品工場などが、いわゆる食料生産に特化した工場として各地で集中的に操業するようになる。
この段階で「農村」という概念がどの程度残るかはわからない。ビル内の生産工場のように特定の地域や土地と生産との関係が切り離され、さらに構造物により天候への依存が無くなる。その結果、農業は単なる食料生産プロセスとして自然環境とは切り離され独立したインフラのひとつになる。
仮に川上での生産がこうなるとした場合、川下、とくに人間の「食べる」という行為も究極の姿を考えておいた方がよいであろう。
例えば、プライバシーや知的財産権の問題を別として、仮にAIが一人一人の健康状態や遺伝情報、行動パターン、通院・服薬履歴などを全て把握し、その時々で最適な栄養を個々人にカスタマイズしたテーラーメイドの食事として提供できるとしたら...、である。
さらに、見慣れた形の食事ではなく、AIが味・香り・食感などの感覚全てを神経刺激により制御して演出し、食の体験を再現させる可能性すらある。そうなると実際の食事は必要最小限、あるいはサプリメント的に提供されるに過ぎず、「食後の満足感」だけが人工的に再現されることになる。栄養補給と「食の快楽」が分離する訳だ。俗な言い方だが、こうなると、食は「生存の手段」から、「健康かつ最適な快楽を得るための手段」に変化するかもしれない。
その時、私たちは「食べる」という行為について、「何を食べるのか」「なぜ食べるのか」「誰と食べるのか」などの課題にあらためて直面するのではないか。
ただし、本当に考えるべきは、AIの進化により「何を得る」かわりに「何を失うのか」、そして、何を「意識して残すべきか」という根源的な問いである。恐らく、生産性・効率性を基準とした合理的判断からは「無駄」や「手間」が目につくであろう。だが、これらの中には人間の営みとして農や食の豊かさを支えていたものも多いはずだ。そして全体最適化の面からは障害に見えても、個別地域ではうまく機能している仕組みなども数多く存在するはずである。こうした視点を持たずに、合理性のみで展開される未来で私たちが失うものは何か、あらためて考えておく必要がある。
その過程で、農や食に対し、生産性・効率性以外の意味、例えば、特定の地域やグループなどへの帰属性、継承すべき伝統や文化など、食と農に新しい意味と価値を再構築できるかどうか、この点が今後の日本には求められるであろう。
* *
技術だけで展開される世界が極めて「味気ない」と思うのは、そこに「人間らしさ」が欠けているからでしょう。その「人間らしさ」をどう補い、どう残すか----今こそその方法をじっくり見つめ直す時ではないでしょうか。
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