「財源が」は「罪源だ」【小松泰信・地方の眼力】2025年7月16日
「5キロ税抜き1680円。銘柄米は4500円前後なので、ほぼ3分の1の価格だ。食味は値段相応か。甘みは乏しく、においも気になったので、工夫して食べたいと思案している」と記すのは西日本新聞の記者(同紙7月16日付、デスク日記)。
求む!備蓄米の食レポ
単身赴任先の店舗で1袋だけ残っていた21年産の「古古古米」を食しての感想。見落とし、聞き落としがあるかも知れないが、備蓄米を買った消費者の喜びの声はメディアから伝わってくるが、本音の食レポを聞いたことがない。それが知りたいと思っていたときにこの記事を見た。ちなみに「平成の米騒動」の時には、緊急輸入した外米の評判が頗る悪く、売れ残りを山に捨てに行った業者がいた。正直な感想をメディアは伝えるべきだと思うがいかがであろうか。
この記事からは、想像していた通り「値段相応の食味、乏しい甘み、気になる匂い、食べ方に工夫が必要」であることがよく伝わってきた。
要するに、市場に放出された「備蓄米」と、これまで当たり前のように食べていた「主食用米」は別物。ということは、緊急避難的とはいえ、別物を我が物顔で市場に放出して米価を下げて、ドヤ顔されても、カンチガイのシンジロウ。噂では、農村部においては応援演説に来てほしくないとの声が多数出ているとか。そりゃそ~よ。
「参院選でも、米騒動が浮き彫りにした農政問題が大きな争点に。農業の現場では数年前まで、若手営農者から米離れ、価格低迷の悩みをよく聞いたものだった。『持続可能な農業を確立する』。論戦では各党が声をそろえる。その本気度を見極めたい」と記事は締めている。
まずは自民党農政を検証せよ
「北海道の基幹産業である農林水産業を取り巻く環境が、厳しさを増している」で始まるのは、北海道新聞(7月11日付)の社説。「気候変動に加え、コスト高による営農環境の悪化から先行きが見通せず、担い手の不足に拍車がかかる」と危機感を募らせる。
参院選に向けた政策で与野党が、コメの増産で概ね一致していることから、各党に対して、「これまでの反省に立った上で長期的な展望を示し、議論を深めること」を求めている。
とりわけ、長く政権を担ってきた自民党が「生産増大を第一に掲げ、水田政策の見直し」を訴えていることを受け、「まずは自らの農政を検証することが欠かせない」と注文を付ける。
さらに、「生産基盤の再構築」が増産を図るために不可欠とした上で、北海道でさえも、「農業を主な仕事とする人は24年には6万5200人で、四半世紀で半減(中略)。全国に比べると高齢化率は低いものの、道内の農業就業者の約5割は65歳以上」と、担い手不足の深刻な状況を示し、「農業人口と農地の減少に歯止めをかける」ことを強調する。
加えて、増産によって価格の下落が想定されるが、農家所得をいかにして支えるかについての「突っ込んだ論議」を求めている。
分断されず連帯へ
「農業の未来 消費者も責任を」と題する中国新聞(7月12日付)の社説は、「『令和の米騒動』は日本のコメ政策のゆがみを消費者が思い知るきっかけになった」とする。そして「農家は担い手の減少や高齢化が止まらず、生産基盤の弱体化が急速に進む。われわれは、米作りや農村の将来像に無関心ではいられないはずだ」と問いかける。
備蓄米が随意契約で大量に放出されたことを契機に、コメ5キロの全国平均価格が政府の思惑通り3000円台に低下した。これに関して、「家計は助かるが、資材や燃料の高騰に苦しむ農家は疑問の声を上げる」として、「消費地と産地の分断を招きかねない」と、政府の姿勢を指弾する。
「農家と消費者との『距離』が開いたままであってはならない」という前提のもと、喫緊の課題である担い手を確保するためにも「農家の収入減をいかに手当てし、米作りを持続可能なものにできるかが焦点になろう」としている。
他方で、各党が「多面的な機能に目を向けて支援策を打ち出している」ことに言及し、「大規模化だけで米作りは維持できない。
上流域が荒廃しないよう下流域が支える。そんな視点も、農家と消費者をつなぐ上で必要ではないか」と、重要な観点を提示する。
そして、米騒動の終息を契機に、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ことがないように、「農業の未来に、消費者も責任を負うことを自覚したい」と訴える。
「財源が」の罪つくり
毎日新聞(6月15日付)で松尾貴史氏(放送タレント)は、自民党の森山裕幹事長が6月8日に開かれた会合で、「消費税をゼロにするという政党もあるし、5%に下げるという政党もある。しかし、歳入が減った分の財源をどこに求めるかという説明がないし、恒久的な財源としての位置付けがない」「消費税の減税は慎重の上にも慎重であるべきだ。新しい財源が今はない」と語ったことを受けて、反論している。ポイントは次の通り。
「自民党幹部らは都合のいい時だけ『財源が』と言い出す。2027年度までの5年間で防衛費を43兆円程度に増額する計画が進行中であるが、これほどの増額にもかかわらず、果たして財源の議論を十分したのだろうか。また、法人税はこれまで何度も引き下げられているが、自民党幹部から『法人税の減税は慎重の上にも慎重であるべきだ。財源がない』という主張を聞いたことがない。なぜ消費税減税には『慎重の上にも慎重』で、法人税減税はためらいがないのか。大体、消費税廃止や減税を主張する政党に『財源の説明がない』というのは全くの誤りで、記者会見などで提示している。(中略)百歩譲って森山氏の言う『財源』論が正しかったとしても、予算の使い道や優先順位があまりにもおかしいのは周知の事実である。是正の努力をせずに、減税の時にだけ『財源が』というのはあまりにも不誠実だ」
実は当コラム、農業者に対する所得補償、価格保障の必要性を何度も指摘してきたが、「その財源は?」と問われれば、シャープに回答できる自信は無い。しかし、必要なものについては、財源の在りかや金額を精緻に示すことよりも、可及的速やかな対応を求めることが己の使命と考えている。
そもそも在野の人間のほとんどは、国の財源を正確には把握できない。都合の悪いことへの口封じとしての「財源が」の多用は無用。皆を思考停止に陥らせる罪つくり。カネは有る。工面する気が無いだけである。
「地方の眼力」なめんな
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