【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
コメ騒動を契機に、農協における金融・共済事業や共同販売の不要論など、農協のあり方そのものに対する批判や改善要請を強めるというストーリーも進んでいるように思われる。こうした流れに対しては、農協の役割をしっかりと整理して確認する必要がある。
農協の本質を理解しない発言
「農協は共販でなく買取りに」「農協が金融をやる必要はない」といった大臣発言も間違いだ。歴史的に、個々の農家が大きな買手と個別取引することで農産物は買い叩かれ、個々の農家が大きな生産資材の売手と個別取引することで資材価格は吊り上げられ、苦しんだ。それに対抗するため、農家が農協を作って結集し、共同販売と共同購入が開始された。歴史に逆行する共販潰しは農協を協同組合でなくし、全農を株式会社化して穀物メジャーに差し出し、農産物の買い叩きを助長することにつながる。
また、歴史的に農家は高利貸しに苦しめられ、いざというときの生活保証が不十分だから、農家自らで貯金・貸付を行い、相互扶助の共済事業が展開された。そして、地域の皆に信用事業や共済事業を利用してもらい、その利益を営農指導(持ち出しの赤字事業)に回すことで農業振興が可能になる。経済事業も多くが赤字だが、中間マージンを減らして農家と消費者に還元しているからだ。
農協を核にして地域の農と食と暮らしが循環する。信用・共済事業がないと農業振興ができなくなるのだから、「農協は信用・共済を切り離して農業振興を」という論理は成立しない。
協同組合の役割を実感するために
農協をめぐる報道や議論が増えてきている昨今、久保田治己著「農協が日本人の"食と命"を守り続ける!」(ビジネス社、2024年)を改めて紹介したい。著者は、私の大学の1年後輩で、理論的にも実践的にも日本の農業協同組合を牽引しているキーマンの一人だ。
副題を「安全・安心に賭ける人々の物語」とした本書は、「農家のためだけではなく、農協のためだけではなく、「命」のため、「日本」のため頑張ってきた」農協の姿が著者の想いを込めて描かれている。
第1章「コウノトリとJAたじま」第2章「ダイヤモンド・プリンセス号と厚生連病院」第3章「佐賀の乱」第4章「キャラウェイ旋風―沖縄の農協改革」第5章「遺伝子組み換えとIPハンドリング」第6章全農「株式会社化」の謀略、すべての章が読み応えがある。
「日本で新型コロナ感染者を受け入れたのはJAの協同病院である」「能登半島地震ではJAグループ協同病院から8割におよぶ救命活動隊が派遣された」「非遺伝子組み換え穀物の分別管理手法を生活クラブ生協とJA全農とで世界で初めて確立した」ことなどに加え、全農を株式会社化させてグローバル商社に買収させる米国からの巨大な圧力に対して、農業と国民の命を守るために闘っていることが克明に描かれている。農協が協同組合でなく株式会社にされたら何が起こるのか、誰も知らない世界の恐るべき実態も詳述されている。
「今だけ、金だけ、自分だけ」の新自由主義に対置し、生産者と消費者を守るのが「長期的、多面的、利他的」な協同組合であることが本書を読めばよくわかる。農協のことをよく知らなかったという人に国民を守るために奮闘している農協の真実を知ってもらい、農協関係者には、日本の農業・農村と国民の命を守り続ける使命を再確認し、決意を新たにしてもらいたい。
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