【農と杜の独り言】第7回 祭りがつなぐ協同の精神 農と暮らしの集大成 千葉大学客員教授・賀来宏和氏2025年12月25日
2027年に横浜で開催される国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」。「博覧会」という、明治以降に誕生した訳語で称していますが、園芸・造園、そして環境から、広い意味での「農」を含む祭です。
千葉大学大学院園芸学研究科客員教授・賀来宏和氏
収穫の秋である10月から11月にかけては、全国各地の農業協同組合でも「農業祭」「農業まつり」などが開かれ、ご当地の農産物の販売や様々な催しが行われています。世界に目を向ければ、9月下旬から10月上旬にかけてドイツで毎年開催されるビールの醸造を祝う祭であるオクトーバーフェストは、数百万人もの来場者を集める有名な祭りです。本来、園芸博覧会には、このような、収穫を祝うという要素もあります。
前回、茨城県内に若干の農地をお借りし耕作していることをお伝えしました。11月3日には、集落の鎮守社で祭礼が行われ、農地をお借りしている方や周りの方から、神楽も奉納されるのでとお誘いを受け、祭の場にお邪魔しました。地域の皆さんとの交流、共同体への参加は、私の「農」の営みを構成する要素の一つです。
集落の小高い丘に、鎌倉時代から江戸時代初期まで続いた片野城址があります。元は文永年間(1264~75)に、現在の茨城県つくば市に残る国指定の史跡である小田城の北の砦として築かれたもので、戦国時代には太田道灌の四世孫が城主となった城です。その折に、久慈郡佐竹郷天神林鎮座の七代天神を守護神として勧請し、「十二神楽」を奉納したのが、鎮守社七代天神社の創祀です。因みに、小田城は北畠親房が1340年前後に『神皇正統記』を取りまとめた場所です。
十二神楽は、古くは毎年旧暦の2月8日、8月15日、11月8日の3回奉納され、400年余の歴史があり、代々この集落に生まれた長男が舞を引き継ぐことから、「代々神楽」とも称されました。巫女の舞に始まり、第1座の「槍の舞」から第12座の「羯鼓の舞」までの12座で構成される神楽は、その奏でる太鼓や笛の音色から、「ジャカモコジャン」の愛称で有名でしたが、やがて新暦11月3日の祭礼のみの奉納となり、現在では神楽の舞い手が継承されておらず、残念ながら第1座「槍の舞」と第9座「餅まきの舞」のみとなってしまいました。
お邪魔した当日の11月3日は、常陸太田市から「天神ばやし保存会」の勇壮な太鼓の演奏が奉納され、「餅まきの舞」では、子どもから老若男女、多くの人々が餅拾いで大騒ぎ。日頃、農作業をしている時には気づかなかったのですが、この集落には意外に子どもが多いことがわかりました。2人の巫女役の小学生も、お借りしている農家のご近所。
まかれる餅も奉納されたものですが、今年はもち米が不足して餅の値段が高い由。このところの米の価格上昇により、もち米をうるち米に切り替えた人が多かったのが一つの理由とお話がありました。
鎮守社ですので、祭の裏方も丸見え。神楽の始まりに際しては、「おい、あれどこにある?」と小道具の探しもの。お誘いくださった方によると、11座「岩剥しの舞」は大層迫力のある神楽であったとのこと。演者は手力男命(てぢからおのみこと)、天鈿女命(あめのうずめのみこと)、天照大神で、神話の「天岩戸」の演目であろうと思います。その昔の十二神楽の各演目は録画してあるとのことですので、いつかぜひ、すべての演目を再現し、後世に引き継いでほしいと、強く思った次第です。
もちろん、祭りはすべて地元の皆さんの奉仕で、それぞれの役割分担があり、毎年順番で回ってくるとのことですが、ひと昔前まで、農作業そのものがお互いの協力で行われていたので、祭はその集大成であったということでしょう。
七代天神社の年3回の祭に表れている通り、旧暦の2月には祈年祭(としごいのまつり)として、集落で一年の無事と実りを祈り、農作業の開始を告げるとともに、害虫による被害を避ける虫送りなどの行事を経て、天候不順や自然災害などによって実りの成果が損なわれることなく五穀豊穣となるように十五夜の祭が行われ、さらには11月には、新嘗祭(にいなめさい)として、自然の恵みに感謝し、協力作業の成果を皆で祝う――このような歴史の繰り返しは、農業協同組合の協同精神の核心ではないかとさえ思います。
漢字の泰斗であった白川静先生の『字訓』によれば、「まつる」は「神霊にものを供えて拝すること。神のあらわれるのを待ち、その神威に服することをいう。『待つ』と同源の語」。「まつる」にあたる漢字「祭・祀」のうち、「祭」は「祭卓である示の上に、肉を手(又)で捧げて祭ることをいう」また、「祀」は「巳は蛇の形。蛇は夜刀(やと)の神といわれるように、自然の霊あるものとしておそれられた。祀はそのような自然神を祀ることをいう」としています。
国際園芸博覧会の会場では、美しく彩られた花や緑、多種多様な展示や催事を楽しむことができると思います。と同時に、会場や会期内での体験にとどまらず、我々日本人が、自然とかかわりながら、長い歴史の中でともにつくり上げ、育ててきた「農」と暮らしの文化、そして、そこに必ずあった協同の心に思いを寄せ、体感する機会となってほしいと思います。(2027年横浜国際園芸博覧会農&園藝チーフコーディネーター)
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