【広がるコメビジネス】創りだせるか 新しいマーケット アイリスオーヤマの米事業2014年9月24日
・異業種の参入相次ぐ
・宮城・亘理に10万tの精米工場
・全ての工程を低温環境で
・楽しめる「3合」パック
・こだわりの消費者対象に
人口減少、高齢化そして食の多様化などで、日本人の主食であるコメの需要は年々減少しマーケットは縮小しているとみられている。そうしたなか新たにコメの世界に参入してくる企業がある。そうした企業のなかでも注目されているのが、生活用品の製造卸として知られているアイリスオーヤマ(株)だ。
「おいしいお米」の食べ方提案
◆異業種の参入相次ぐ
コメビジネスへの参入について、生産面では既報のように種子を取得し来年産米から本格的に契約栽培を始める住友化学がある。流通・販売面では、インターネット通販最大手のAmazon(アマゾン)に代表されるネットショップが、コメ販売の10%強を占め、生協のシェアを上回る存在となっている。
そして最近ではヤマダ電機が同社の「ヤマダモール」で「新米&秋の味覚まつり」で、26年産米の「新潟県産魚沼こしひかり」「三重県産あきたこまち無洗米」「愛知県産こしひかり」「三重県産こしひかり」「千葉県産こしひかり」の5銘柄(いずれも5kg、10kgと27または30kgの3種類がある)を、まつたけや津軽りんごなどとともに、期間限定で販売している。
魚沼コシヒカリは、5kgで税込2999円(9月23日まで申し込み分)となっており、ヤマダ電機の全店舗から注文できるという。ヤマダ電機のウェッブショップでも後述するアイリスオーヤマの「生鮮米」を販売しており、コメは店に行かずに買う時代に近づいているのかもしれない。
◆宮城・亘理に10万tの精米工場
注目のアイリスオーヤマ(株)(大山健太郎社長)は、宮城県仙台市に本社をおくクリア収納ケースからLEDランプや調理器具などさまざまな生活関連用品の製造・販売を行っている会社だが、昨年10月から3合パックの「生鮮米」6銘柄の販売を開始した。そして今年7月、宮城県亘理に年間10万トンを精米する工場を稼働させ、本格的にコメの供給・販売を行っている。
亘理の精米工場は、正式には、同社と宮城県の農業生産法人舞台ファーム(針生信夫代表)の共同出資による精米事業会社・舞台アグリイノベーション(株)亘理精米工場だ。舞台ファームは東日本大震災で被災したが、農業の再生に向けた針生代表の考え方に共感した大山社長が共同出資して会社を13年4月に設立しこの工場建設に至ったという。工場稼働まではアイリスオーヤマの角田工場に精米ラインを導入して、13年10月からテスト販売を行ってきた。
(写真)
年間10万t精米の最新鋭工場
◆全ての工程を低温環境で
亘理精米工場では、玄米から精米後の製品まで15℃以下の低温自動倉庫で保管しているが、その収容能力は4万2000トン(1トンパレット4万2000枚)と国内最大級の低温倉庫だ。
精米能力は年間10万トンあるが、この精米から包装までも15℃以下の環境で一貫して行うことで、コメの鮮度と美味しさを保っている。
この低温保管、低温精米、低温包装できるシステムを同社では、業界初の「トータルコールド製法」と名付けている。低温で保管・精米・包装することで、高温状態になるとコメの呼吸が活発になりでん粉・タンパク質などの成分が酸化・分解され食味が落ちることを防ぐことができる。
さらに同社では、包装後の品質劣化を防ぐために従来の米袋とは異なる「密封袋」を使用するとともに、包装時に窒素と酸化防止剤を封入している。それは、アイリスオーヤマが販売しているペットフードで得てきたノウハウの応用だという。空気を遮断することで、通常のコメよりも長期にわたって鮮度を保つことができ、おいしさが長持ちするという。
◆楽しめる「3合」パック
現在販売しているのは、「3合(450g)」パックだが、それは家庭の炊飯器で炊飯する場合、3合炊きが多いからだという。また販売している銘柄は、北海道のゆめぴりかとななつぼし、秋田のあきたこまち、山形のつや姫、宮城のひとめぼれ、新潟のこしひかりの6銘柄の1等米で通常精米と無洗米だ。
工場が稼働し生産能力がアップしたが、銘柄はこの6銘柄に絞っていくという。ここにも同社のこだわりをみることができる。
さらに「3合」パックにすることで、「いろいろなお米を試してもらい、一番合ったものを選んでもらったり、毎日、違うお米を楽しんでもらう」こともできるし、「いくつかの銘柄を組合わせてギフトとすることもできます」と、アイリスオーヤマの中嶋宏昭広報室リーダー。
これまで、大手量販店や食品スーパーなどを中心に販売を行ってきているが、これからは家庭の主婦の要望があるキロ袋や「おいしいお米にこだわる」外食などへ販路を広げていき、初年度200億円をめざすという。
◆こだわりの消費者対象に
この「トータルコールド製法」は新しいコメビジネスへの提案だと、量販店バイヤーの経験をもつ商品開発アドバイザーの浅野義昭氏はいう。
それは、「いつでもおいしいお米」を食べるためには、工場内だけではなく、上図下部の流通も小売店での取り扱いも「チルド」にし、さらに家庭でも冷蔵庫で保管するということを消費者に理解してもらう。そのことで、いまは少数かもしれないが、量や価格ではなく「おいしさ」にこだわる消費者を中心とする新しいマーケットが創れるということだ。。
長年、コメのビジネスを見てきた人には、浅野氏と同じような意見を持つ人が多いようだ。そういう意味では、アイリスオーヤマは、コメの世界に新たな一石を投じたのかもしれない。
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