【27年産米 米流通最前線】価格変動のリスク対応へ 取引市場の整備を2015年8月31日
27年産新米の取引スタート飼料用米増産で波乱含み
米穀新聞社記者熊野孝文
・昨年より千円高に盛況な新米取引会
・あきたこまち異変飼料用米増産影響
・在庫米消費を優先新米手当て後倒し
・有機的なコメ市場コメ産業化への道
平成27年産米の早期米の取引が始まった。9月からは北海道、東北、北陸などの米どころの新米も出回り始める。26年産米の米価が大幅に下落したことからJAグループは飼料用米の増産など作付け転換に取り組んできたが、米の流通・販売はどのような現状にあるのか。米流通専門紙・米穀新聞社の熊野孝文記者に動向分析と流通業界から見た課題を指摘してもらった。
◆昨年より千円高に盛況な新米取引会
8月18日、千葉市内のホテルで全国からコメ集荷・流通業者57社が出席して新米取引会が開催された。主催したのは千葉穀類連絡協議 会で、毎年この時期に千葉・茨城の早期米の取引会を開催している。
午後4時から開催された取引会では、会場に3名の場立ちを立てて競りに入った。最初に声をあげたのが千葉県の集荷業者で、「ふさこ がね一等、置場9700円ヤリ(売り)」を告げた。これに対して東京の玄米卸が9600円買いで応じ、競った結果、8月22日まで渡し条件置 場9625円(税別、以下同)で取引きが成立した。
この成約を皮切りに神奈川、静岡、さらには関西、北陸など各地から集まった業者から買い声があがり、次々に成約が進み、千葉、茨城の「コシヒカリ」が9月中渡し条件で1万500円から1万600円(置場一等)で成約するなど1万8000俵を超える盛況な新米取引会となった 。昨年同じ日に開催された取引会の成約価格に比べると、おおよそ1俵当たり1000円高の水準で27年産早期米が取引されたことになる。
成約した価格は直ちに全国の業者に伝わったが、この取引会での成約の中身で奇異に感じられることが一つあった。それは例年早期米取引の主要銘柄である「あきたこまち」の成約が全くなかったことである。
取引会では、「あきたこまち」の買い声があがり、9600円買いから競り上がり関西の業者が1万円買いまで声をあげたが売り物が出ないまま取引会が終了した。なぜ「あきたこまち」の売り物が出なかったのか?
このことに会場の参加者間で情報が飛び交ったのはもちろん、翌日も業界内で話題になった。
全農系統の27年産収穫前契約の基準価格
◆あきたこまち異変飼料用米増産影響
業界内で飛び交った「あきたこまち」の売り物が出なかった理由はおもに三つある。
一つは27年産で作付された「あきたこまち」面積自体が少なかったのではないか、であり、二つ目は量販店の売れ筋商品となっている「あきたこまち」は事前契約が進み、この席で換金しなければならないほどの浮動玉がないのではないか、である。そして三つ目は農協系統の集荷価格に比べ、商系業者の集荷価格が安く集荷が進まないのではないかというものである。
「あきたこまち」の作付面積については、千葉県では「ふさこがね」、「ふさおとめ」の作付が増加し、26年産では「あきたこまち」の作付面積比率は3.6%を占めるに過ぎず、作付面積そのものが少ない。作付けが多いのが茨城県で、特に早場の稲敷の「あきたこまち」が市場を賑わすというのが通例であった。
ところがその稲敷ではJA稲敷が8月11日に生産者に対して、「あきたこまち」の「一発買取価格」を提示した。それによると8月18日までの買取条件でJA米1万500円、資材統一米1万700円、一般米9900円(税込・包装代込、2等は▲600円)。こうした価格がJAから提示されたこともあってか地元の大手商系集荷業者は「あきたこまち」の集荷に苦戦、席上取引会でも売り物を出せずじまいに終わってしまった。
商系集荷業者は、JAとの集荷競争以前の問題として、大規模稲作生産者を中心に飼料用米の作付けを増やしたことが集荷に影響していると指摘する。茨城県では飼料用専用品種でなくても「ゆめひたち」などに県が独自に助成金を支給するという措置をとったことで、100haもの水田を耕作する大規模稲作生産者のなかには半分の面積を飼料用米に転換したという生産者もいるほど。これは国や県の飼料用米助成により、加工用米を生産するより飼料用米の方がはるかに手取りが良くなったことによる。こうした政策による生産現場の変化が新米の取引価格に影響を及ぼしている。
◆在庫米消費を優先新米手当て後倒し
これから9月に入ると北陸、東北、北海道と主要稲作産地の新米が出回り始める。
それに備えるコメ卸等流通業界の仕入れに対するスタンスは、第1に27年産米の作柄、第2に主食用米の飼料用米への転換具合、第3に26年産持ち越し在庫の消化、第4に末端白米の売れ具合を中心に置いて模索しているという状況。
すでに東日本の全農各県本部は卸に対して27年産米の事前契約を働きかけているが、なかなか期待されたほどの契約量が積み上がっていない。その理由は、27年産米の作柄はまだ台風など天候の不確定要因はあるものの平年作は確保できるという見方が大勢で、この段階で農水省の主食用米生産目標数量を30万トン上回ると予測するところさえある。
また、飼料用米の増産計画も目標の60万トンを大きく下回るのは確実で27年産米の供給量減少による需給均衡は難しくなっている。それに加え26年産米の在庫処理が負担になり始めている。
米穀機構の26年産米の売り急ぎ防止対策は、当初11月以降販売する26年産米は20万トンの予定であったが、第2次、第3次と契約数量を募るたびに数量が積み上がり、39万トンと計画の約2倍の数量まで膨らんでおり、購入契約した卸は最優先でこの在庫の消化に取り組む必要がある。そうすると業務用に使用するコメは26年産が主体になり27年産米の仕入れ必要量が限られてくる。実際、産地の集荷業者や
農協、全農県本部に新米の購入契約状況を聞くといずれも例年に比べ低調という答えが返ってくる。
26年産米の在庫消化を優先するため新米の手当てが後倒しになるという構図が浮き彫りになり始めている。
そこで最大の課題になるのが"価格"である。別表は全米販が傘下卸から聞き取りでまとめた各産地銘柄の全農系統の基準価格と上下10%のアローアンスの価格を示した表である。現状では下限価格を目途に卸が契約するかどうかという状況だが、卸は、生協などの指定産地銘柄を納入しなければならないところ以外は契約しないのではないかと見ている。また、量販店などに白米を納入している卸は「新米セールで関東のあきたこまちを5キロ1380円で販売できるように提案していたのだが、競合卸が同値でコシヒカリを提案してきた」という情勢で白米の安売り合戦は収束するどころか新米の出回りでますます拍車がかかっている。
◆有機的なコメ市場コメ産業化への道
これはどういうことを意味しているかというとコメの価格は最終的には「市場が決める」ということであり、概算金が値上がりしたからコメが高く売れるということではない。新古格差ひとつとってみても26年産より1俵当たり1000円以上高くなると売れないのであり、これは全て市場が決める。
今、コメ業界に最も求められていることは、公平で透明感のある現物市場とファイナンス機能を持った先渡し延べ取引市場を作り、ヘッジ機能を持った先物市場と有機的に連携してコメの産業としてのインフラを整えることで、農水省も生産調整が廃止される30年に向けて市場作りを最優先課題として行程表を作ることになると予測される。
こうした有機的なつながりを持つ3つの市場が出来上がるとコメの市場流動性が飛躍的に高まり、農協が自産地のコメを集荷する際、生産者に提示する価格は市場価格に連動し、かつ価格変動のリスクにも対応できるようになる。それこそが「マーケットイン」の発想であり、コメを産業化できる唯一の道であると言える。
(写真)本格化する27年産米の収穫と量販店の新米売場(首都圏で)
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