生乳需給改善へ低能力牛「淘汰」に1頭15万円交付へ 農水省 産地は「評価」と「複雑な思い」交錯2022年11月22日
農水省は、生乳の需給改善に向けて、乳量が少ないなどの低能力牛を早期に淘汰する場合、2023年9月までは1頭当たり15万円を交付する方針を決めた。国が低能力牛の淘汰に助成金を出すのは初めて。産地からは「要望していた予算をつけてくれた」と評価する声が上がっているが、「家族同様に飼育している牛の処分に国が助成するのはどうかとも思う。在庫調整など需給調整へのしっかりした将来ビジョンを描いてほしい」と複雑な思いを示す関係者もいる。
低能力牛の早期淘汰に1頭15万円を交付
農水省は生乳需給改善対策として、政府の第二次補正予算案の「酪農経営改善緊急支援事業」に50億円を盛り込んだ。乳量が少ない牛やロボットによる搾乳が難しい低能力牛を淘汰する場合、2023年3月~9月までは1頭当たり15万円を交付する。生産者団体が交付金とは別に1頭当たり5万円を助成することなどが条件となる。また、10月以降についても1頭当たり5万円を交付する。23、24年度の生乳生産量を22年度より減らす計画づくりや、淘汰する牛を食肉処理場に出荷することを要件となる。
農水省はこの事業によって23年9月までに2万5000頭、10月以降は1万5000頭の計4万頭の淘汰を見込んでおり、補正予算が成立したあとの年明けごろから農家の申請を受け付ける方針。
また、11月の乳価引き上げに伴い、消費が減って乳製品の在庫の積み増し分の影響を抑えるため、「乳製品長期保管特別対策事業」として7億円を計上、生産者団体が乳業メーカーの在庫を買い戻して一定の期間、保管する際に経費の半額までを助成する。
農水省は、「苦渋の決断として、生産者が相当議論してすでに都府県や北海道で乳量を減らしたり、低能力牛を淘汰したりといった取り組みを進めている。国としても需給の均衡をはかる中で中長期にわたって安定した生産ができるように支援した」と説明する。
「いい決断 離農防ぐため早く成果を」「しっかりした将来ビジョンを」
政府が、低能力牛の淘汰に交付金を出すのは初めてといい、生乳の需給調整に悩まされてきた産地からは評価する声が上がっている。
北海道のJA釧路太田の徳田善一組合長は今年10月のJAグループ基本農政確立全国大会で、「酪農現場では餌高に資材高騰が経営を圧迫し、牛の個体価格も大暴落し、さらに生産抑制がある。経営が成り立つレベルでなく酪農家は廃業してしまう」と酪農現場の窮状を訴えた。
今回の農水省の支援策について、「需給調整には出口対策も大事だが入口対策も重要であり、これまでも要望してくれたことに予算をつけてくれたことについては、いい決断をしてくれたと思う」と評価する。そのうえで、「今年度から生乳の抑制に取り組んでいる生産者に対しても支援拡充してほしい。バター不足で増産をと言われて施設投資したのに今になって減らせと言われて厳しい農家もいる。離農する農家が出てしまう厳しい状況なのでとにかく早く成果を出してほしい」と話す。
一方、同じく北海道の十勝地区酪農対策協議会会長を務めるJA大樹町の坂井正喜組合長は「家族同様に育てている牛を淘汰することに国が助成するのはどうかと思う」と複雑な思いも語る。「一番の問題は在庫調整であり、輸入アクセスを止めることなどを最優先すべきではないのかと思う。一時的に効果はあると思うが、しっかり国が需給調整をする将来ビジョンを描いた対策がほしい」と語った。
重要な記事
最新の記事
-
新品種から商品開発まで 米の新規需要広げる挑戦 農研機構とグリコ栄養食品2025年5月1日
-
米の販売数量 前年比で86.3%で減少傾向 価格高騰の影響か 3月末2025年5月1日
-
春夏野菜の病害虫防除 気候変動見逃さず(1)耕種的防除を併用【サステナ防除のすすめ2025】2025年5月1日
-
春夏野菜の病害虫防除 気候変動見逃さず(2)農薬の残効顧慮も【サステナ防除のすすめ2025】2025年5月1日
-
備蓄米 小売業へ2592t販売 3月末の6倍 農水省2025年5月1日
-
イモ掘り、イモ拾いモ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第338回2025年5月1日
-
地元木材で「香りの授業」、広島県府中明郷学園で開催 セントマティック2025年5月1日
-
大分ハウスみかんの出荷が始まる 大分県柑橘販売強化対策協議会2025年5月1日
-
Webマガジン『街角のクリエイティブ』で尾道特集 尾道と、おのみち鮮魚店「尾道産 天然真鯛の炊き込みご飯」の魅力を発信 街クリ2025年5月1日
-
5月1日「新茶の日」に狭山茶の新芽を食べる「新茶ミルクカルボナーラ」 温泉道場2025年5月1日
-
「越後姫」食育出前授業を開催 JA全農にいがた2025年5月1日
-
日本の米育ち 平田牧場 三元豚の「まんまるポークナゲット」新登場 生活クラブ2025年5月1日
-
千葉県袖ケ浦市 令和7年度「田んぼの学校」と「農作業体験」実施2025年5月1日
-
次世代アグリ・フードテックを牽引 岩手・一関高専から初代「スーパーアグリクリエーター」誕生2025年5月1日
-
プロ農家が教える3日間 田植え体験希望者を募集福井県福井市2025年5月1日
-
フィリップ モリス ジャパンとRCF「あおもり三八農業未来プロジェクト」発足 農業振興を支援2025年5月1日
-
ビオラ「ピエナ」シリーズに2種の新色追加 サカタのタネ2025年5月1日
-
北限の茶処・新潟県村上市「新茶のお茶摘み体験」参加者募集2025年5月1日
-
「健康経営優良法人2025」初認定 全農ビジネスサポート2025年5月1日
-
「スポットワーク」活用 農業の担い手確保事業を開始 富山県2025年5月1日