柔軟な発想と課題解決力でサステナブルな社会の実現を目指す-JAアクセラレーター第5期成果発表会(1) あぐラボ2023年11月20日
(一社)AgVenture Lab(あぐラボ)は11月14日、JAアクセラレータープログラムの第5期の成果発表会を開催した。「食と農、くらしのサステナブルな未来を共創する」をテーマとした今期に採択されたスタートアップ企業10社が180日間の取り組みと今後のビジョンを報告した。
JAアクセラレータープログラムは、JAグループの資源をスタートアップ企業に提供し、農業や地域社会が抱える問題の解決をめざして新たなビジネスを協創するJAグループのオープンイノベーション活動。
第5期は「食と農、くらしのサステナブルな未来を共創する」をテーマに189件の応募のなかから10社のスタートアップ企業がJAアクセラレーターに採択された。採択から約180日間にわたり、JA全農、農林中金職員ら「伴走者」の支援を受けてビジネスプランをブラッシュアップし実践につなげた成果と共に、今後のビジョンを発表した。
あぐラボの荻野浩輝代表理事理事長は「今回は農業あり、食あり、林業、水産、カーボンクレジット、高齢化社会の課題を解決するテクノロジーの「エイジングテック」あり、と多様性に富んだ10社が選出された。サステナビリティというキーワードでつながる10社は、食料危機や、気候変動という喫緊の課題にスピード感をもって臨むことができるという点で期待感が大きい」とし、「JA全中や全農、中金など、JAグループが「伴走者」として10社を支援する。伴走者と企業がワンチームになって取り組んだ成果を見てほしい」と述べ、JAグループの職員がスタートアップ企業を支援してイノベーションを生み出すJAアクセラレータープログラムの意義を強調した。
あぐラボ:荻野浩輝代表理事
◆「未利用魚」活用で水産業を取り巻く課題に挑む
(株)ベンナーズは、規格外などの理由で市場に出回らず廃棄されていた「未利用魚」を使用したミールキットサブスク「Fishlle!(フィシュル)」を運営する水産のベンチャー企業。
魚の消費量減少や水産関係者の収益力低下がある一方で、「未利用魚」という市場に出回らない水産物の存在があり、これを活用して水産業界の底上げを図った。
今後はJA/JFグループが持つ流通や販売のノウハウなどを吸収しながら「フィシュル」を基軸とした外食産業や海外展開などの新規事業を創出していくとし、「港と食卓をつなぐことができれば」と井口剛志代表取締役は話した。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「未利用魚に価値を見出し、新しい販売モデルを確立、流通にまでこぎつけた。ビジョンに掲げた「獲る人よし、食べる人よし、社会よし」の三方よしを体現している。同様のことが農業分野でも進んでいけば」と述べた。
(株)ベンナーズ:井口剛志代表取締役
◆AIが毎日届ける病害虫予報で、農薬半減・収量最大 40%アップを目指す
(株)ミライ菜園は、農業が環境に与える負荷の軽減を目指し、「防除DX」を提案した。
最大で4割程度の農作物が損なわれることがある病害虫被害は、気候変動などで発生パターンが予測しにくくなっている。独自に収集した病害虫ビッグデータをAIが分析することで、これまで経験や勘に頼ってきた防除策やタイミングを正確に割り出すものだ。
開発した防除DXアプリ「MIRAI」は、対象の農作物の種類と、サービスを利用できる拠点を増やしていくとし、「低コスト、低環境負荷、高収益な農業の実現する」と、畠山友史代表取締役は話した。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「コメ、ムギのほ場を対象にした栽培管理支援システムは「ザルビオ」や「ZGIS」などがあり、園芸分野でのプラットフォームとした「MIRAI」ができることで、多面的な農業効率化支援につながる。さらにAIの性能向上と、データの蓄積で、防除診断の精度を高めてほしい」と述べた。
(株)ミライ菜園:畠山友史代表取締役
◆乾燥・殺菌装置「過熱蒸煎機」で「かくれフードロス」の削減とアップサイクルを
ASTRA FOOD PLAN(株)は、食品を乾燥・殺菌する装置「過熱蒸煎機」の開発を手がける企業。
年間2000万トン以上あるとされる「かくれフードロス」の削減と有効活用に挑んだ。食品工場での製造工程で発生する端材やざんさ、生産地で発生する規格外、生産余剰農作物は「かくれフードロス」とされながら、目が向けられてこなかった。
これを「過熱蒸煎機」で粉末化することで、常温で1年以上の保存が可能となり、食品への活用の幅が広がる。一方で、作った粉末を練りこんだクッキーについて、粉末の原材料に海外産があったことからJAグループでの販売ができなかったことを受け、「国内で発生した食材は同様に『国産』とするようなニュースタンダードが必要」と、加納千裕代表取締役は話した。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は、「食品業者や生産者がコストをかけて処分していた『かくれフードロス』に目をむけ、価値を見出したことは素晴らしい。『過熱蒸煎』の技術で廃棄食材を粉末にして、新たな利活用を目指すのは初の取り組み。様々な食品メーカーやJAグループと商談を通じ、過熱蒸煎機の適切な設置場所の検証もできたことをうけ、さらに拡大してフードロスの削減を進めてほしい」と述べた。
ASTRA FOOD PLAN:加納千裕代表取締役
◆食のバリアフリーを実現するお菓子ブランド「Issa Kitchen Tokyo」の創設
株式会社 RelieFoodは、グルテンフリーなど、各種アレルギーに配慮したお菓子を製造する企業。
創業者の弟が重度の食物アレルギーをもち、家族との外食や友人とお菓子を分けあうことができないなど、QOLが低い状態だったことをうけ、お菓子ブランド「Issa Kitchen Tokyo」を立ち上げた。
アレルギーに悩む本人や家族が増加傾向にあるにも関わらず、アレルギー対応のお菓子は味、見た目、パッケージも満足度が低いものばかりだった。
「究極のバリアフリーお菓子」を目指し、誰でも気軽に楽しめるものを、と原料調達、商品開発、販路拡大、製造キャパシティを拡充したことで、業界では有数のポジションに位置づけることができた。「長期的には海外展開や新たなマーケットの創出を目指す」と高校生ながら代表取締役を務める加藤颯斗さんは話した。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「一人でも多くの人と食体験を共有したいという創業の背景に感銘をうけた。各地の農畜産物との親和性も高い商品と感じた。アレルギーフリー、ビーガン用と、米粉の利用拡大の道筋を示してくれた。まずは固定的、安定的な販売先の確保と、賞味期限の延長、海外への販売拡大なども取り組んでいってほしい」と述べた。
株式会社RelieFood:加藤颯斗代表取締役
◆水稲土中施肥技術「深肥」による農業環境と水田経営への貢献
ケーディービーアイ 株式会社は、農業機械の改良などの事業展開を目指し、農業従事者自身が2023年4月に立ち上げた会社だ。
肥料コストの削減と樹脂被覆肥料のマイクロプラスチック問題に取り組むため、農業機械に取り付けるアタッチメントと、新たな栽培技術を開発し、ハードとソフトの両面から挑む。
水稲では長期間にわたって肥効が続く樹脂被膜肥料が広く使われているが、樹脂殻の一部がマイクロプラスチックとなり河川や海に流出する問題があった。
プラスチックを含む被膜肥料に頼らない農業実現をめざし、水稲田植時に土中の浅層だけでなく、深層にも粒状肥料を投入する「深肥」ができるよう、田植え機に取り付けるアタッチメントを考案した。「今後は肥料技術の多様な組み合わせによるオーダーメードの技術提供が求められる。これに応えていきたい」と佛田利弘代表取締役CEOは話す。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「農業だけでなく、社会が抱える『マイクロプラスチック問題』について、革新的な水稲の技術で応えていく姿勢がうかがえた。農業者自らのリノベーションに大いに期待したい」と述べた。
ケーディービーアイ 株式会社:佛田利弘代表取締役CEO
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