柔軟な発想と課題解決力でサステナブルな社会の実現を目指す-JAアクセラレーター第5期成果発表会(2) あぐラボ2023年11月20日
◆不用品に活躍の場を アップサイクルブランドの日本一を目指す
mizuiro株式会社は、既に製造販売している米や野菜が原料の「おやさいクレヨン」を足がかりに、より大量の廃棄野菜を永続的に循環するための新規事業の立ち上げた。
創業時からの構想の一つである、各都道府県から一つずつ、廃棄野菜や果物を集めて47色のクレヨンをつくる取り組みは、全国24カ所から廃棄野菜や果物の提供を受けることに成功。また、古紙に廃棄野菜やジュースの搾りかすを配合したスケッチブックの製造、販売を成功させた。
JAからは大手デベロッパーや、街づくりや子どもの健全育成に力を入れている企業へのワークショップの開催などを提案をうけ、商品をノベルティとしてとして扱いたいという企業とのマッチングも成功させた。「今後もアップサイクルブランドの先駆けを目指していく」と木村尚子代表取締役は話した。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は、「収穫時に廃棄される野菜の外葉など、農作物の未利用資源が主原料のクレヨンを手がけたノウハウを生かし、生産者がコストをかけて処分していたものに価値を与えながら、社会的要請に応えていく姿勢がうかがえた。各都道府県からそれぞれ一つずつ、廃棄野菜や果物を集めてつくる47色のクレヨンが出そろうのが楽しみだ」と述べた。
mizuiro株式会社:木村尚子代表取締役
◆農業由来カーボンクレジット生成&販売の簡略化で利用拡大を目指す
株式会社フェイガーは、温室効果ガスの排出量削減や吸収量を、国が「クレジット」として認証する「Jクレジット制度」の利活用を支援する取り組みを掲げている。
Jクレジット創出者にあたる農業者へ、登録から現金化までワンストップで行えるよう、制度の仕組みやクレジット化への手法を説明し、手続きをサポートしていく。
また、企業Jクレジット購入者である大企業と、Jクレジット創出者にあたる農業者のマッチングを図るなど、制度の利活用を促している。
さらに、水稲の中干し期間を延長することで、メタンガスの発生が3割程度抑えられることが知られているが、その延長期間が一週間程度でも品質や収量に影響がなかったことをモニタリングして実証することができた。
「地球温暖化対策の重要性が話題となる一方、対策には課題も多い。農業全体の脱炭素化を、現実的かつ持続可能な方法で拡大を目指す」と高井佑輔CEOは話す。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「農業領域以外でも喫緊の課題となるカーボンクレジットの問題に取り組んだ。クレジットを買い取ることによって、創出者である農業者の不安の払しょくにも貢献している。中でも、「水稲の中干し期間延長でのメタンガス抑制」については良く耳にするが、モニタリングによって具体的な期間を示したことで、全国各地に提案できる取り組みとなった」と述べた。
◆埋もれた農業資源を発掘、付加価値をつけて商品力向上に
株式会社TRINUSは、埋もれた農業資源を発掘し、デザイン力で価値向上を目指す事業に取り組む。
華道などで用いられてきた「枝もの」は、生け花文化の衰退で需要が減り、生産者の高齢化に伴う担い手不足から、既に入手しにくい品種が出ている。これを受けて後継者のいない「枝もの農家」の事業を継承し、自社栽培に乗り出した。
流通の少ない枝ものの安定供給、栽培内製化でのコスト競争力の向上、品質基準を設け、品質向上をはかった。アロマと組み合わせ、枝ものを毎月届けるサブスクを考案し、2024年3月からサービスを開始する予定だ。
「山野で自生している枝ものは生産コストが0円。林業の収益向上につなげ、四季折々の花を愛でる日本の文化を取り戻したい」と佐藤真矢CEOは話す。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「枝ものという埋もれた農業資源の掘り起こしは、JAアクセラレータでも初めての取り組みだと思う。わずか180日間で、森林組合と連携して、新しい商品開発に道筋を立てたり、後継者がいない農家の事業継承をするなど、多岐にわたる活動が目を引いた。日本の四季を感じられる商品が今後も多く出ることを期待する」と述べた。
株式会社TRINUS:佐藤真矢CEO
◆宇宙探査ロボットの技術が果樹農園で花開く
輝翠テック株式会社は、中規模農業を営む果樹・野菜農家の支援と過疎化が進む中山間地域の活性化を、宇宙工学の知識と技術で取り組む企業だ。
穀物類の農作業は機械化が著しい一方で、果樹や野菜の分野では開発が遅れており、人手で賄う重労働が多い現状を受け、自走式で、収穫物の運搬・除草・農薬散布を一台で賄える農業機器「ADAM(アダム)」を開発した。
本体価格を100万円台とし、有料のアタッチメントを追加するだけで様々な農作業を担うことができ、費用、人手共に抑えられる機械とした。
「学生時代に東北地方を訪れ、生産農家との交流をとおしてその苦労を知った。月面探査機やAIの技術や知識は、農作業に向けられるべきではないかと思い、企業した。今後、アダムが作業するほ場の土壌分析や防除に必要なデータ集積を行う機器を取り付け、農業者や関係自治体、農薬メーカーなどにも情報提供できるようにしたい」とブルーム・タミルCEOは話した。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「ほ場を周回する際は、過去のデータの蓄積から危険な場所を避けるなど、データを活用した効率的な営農につなげられると期待している。データを一層活用し、でこぼこ道、狭い道、などでも小回りがきき、高速走行を実現するなど課題を乗り越えてほしい。日本中の果樹園で「アダム」が走り回る姿を見るのが楽しみだ」と述べた。
輝翠テック株式会社:ブルーム・タミルCEO
◆資産と想いを次世代につなぎ、日本の可能性をひらいていく
株式会社AGEtechnologiesは、相続手続きがオンラインで可能となる「そうぞくドットコム」のサービスを提供する企業。
これまで「そうぞくドットコム」の取り扱い実績の中で、約1/3が農地関連の登記であったことから「そうぞくドットコム農地」を開発・リリースした。
日本では全耕作面積のうち、24%が所有者不明となっており、社会課題となっている。その要因に、相続手続きの必要書類が膨大かつ煩雑で、手続きにかかる費用が不明瞭であることが挙げられる。
「そうぞくドットコム農地」では、役所への書類申請の代行、申請書はWebで作成できる機能を提供。
「中期的にはJAグループとして相続・贈与手続きを強化できるようなサービスに成長させ、長期的には、相続した資産である農地の利活用まで見据えたサービスを設計していきたい」と岡本遼也COOは話す。
講評でJA全農の野口栄代表理事理事長は「手間のかかる相続手続きを簡略化するサービスは、組合員にとって貴重で、ニーズも高い。これによって耕作放棄地が減っていくと思う。農地が維持され、所有権者の不明地の減少につながり、生産者基盤拡大に貢献すると期待している。」と述べた。
株式会社AGEtechnologies:岡本遼也COO
◆第4次農業革命を担う心構えで挑戦を
閉会のあいさつで農林中央金庫の奥和登代表理事理事長は、サステナビリティに関する取り組みが多い印象としながら「有史以来3回発生したとされる農業革命は、地球規模の食料危機や気候変動などを受け、第4次の波が押し寄せていると感じる。フードロス対策やアップサイクルの取り組みで、革命の一端を担うのだという自覚をもち、このプロジェクトをさらに推し進めて行きたい」と述べた。
農林中央金庫:奥和登代表理事理事長
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