光触媒が生み出す殺菌効果で鮮度を維持、みかん保存では腐敗率1%以下 カルテック(株)【JAアクセラレーターがめざすもの】2024年9月20日
JAグループの資源をスタートアップ企業に提供し、農業や地域社会が抱える問題の解決をめざして新たなビジネスを協創するJAグループのオープンイノベーション活動である「JAアクセラレータープログラム」は今年度は第6期を迎え、9社が優秀賞に選ばれた。現在、JA全農、農林中金職員ら「伴走者」の支援を受けてビジネスプランのブラッシュアップをめざして活動をしている。
今回は光触媒を使った農産物の鮮度保持に挑戦しているカルテック(株)を取材した。
光触媒とは、光を当てることで水が化学反応を起こし、強力な酸化力を生む素材の総称だ。カルテックは、光触媒である酸化チタンの高い酸化能力を殺菌や脱臭に活用し、空気や水の浄化や果実などの鮮度保持を目指す企業だ。
カルテック 執行役員 技術本部長 原園 豊洋氏(右)
事業戦略部 プロジェクト推進チーム 部長 羽山 太氏(左)
カビ発生や傷みを抑える
光触媒が生む酸化力は、菌、ウイルス、匂いなどの有機物を分解し、殺菌、脱臭などを可能にしたり、エチレンガス等の様々なガスも分解できるので、農作物の成熟を抑えることもできる(一般にエチレンガスは農作物の成熟を加速する)。
カルテックは、光触媒を用いて空気の除菌や脱臭を行う家電や、水を浄化して噴霧する美容加湿器などを製造・販売するメーカーだ。先のコロナ騒動では、理化学研究所と日本大学医学部と共同研究を行い「光触媒による新型コロナウイルスへの有効性」を実証、コロナウイルス対応製品を国内の家庭やホテル等に出荷し、コロナ対策に努めた。
さらにこの光触媒は、食品の鮮度保持にも力を発揮できる。同社製品には、食品をカビや傷みから守る家庭用「フードフレッシュキーパー」という容量10Lのボックスがあり、この中にみかんを入れておいたら23日経ってもカビも出ず表面ツヤツヤという効果があったと言う。
カルテック 執行役員 技術本部長の原園豊洋氏は「この鮮度保持の効果は強そうだと思い、家庭ではなくみかん農家さんで使ってもらえないか検証しよう」という声が社内から上がり、実際の農家での実証実験が始まったと話す。
2022年、静岡市のある農家の冷風貯蔵庫に、貯蔵庫用に新たに用意した光触媒の機器を設置、約3ヶ月間検証した。すると従来は11.8%だった腐敗率が0.75%まで激減、約22万円の利益向上につながることがわかった。この時の光触媒機器の価格は約40万円なので、2年で機器の費用を償却できる見当もついた。2023年はみかんを中心に、5県、8箇所に場所を拡大し、同様の検証を進めてきた。
カルテックの実証実験の様子。静岡のみかんから始まり、現在5県、8箇所で実施された
実験から事業ベースへ
光触媒とみかんのペアは、腐敗防止を確認できるなど順調な走り出しを見せた。しかし事業ベースに乗せるには、「まだ課題は多い。効率を上げる、小型化するといった努力が必要です」と原園氏。
特に大きい課題は、「最適な仕様」が見えていない点だ。同社の既存製品が対応できる空間は1台当たり最大150から200立米だが、貯蔵庫は3000から4000立米と10倍以上の容量が多い。今のままでは約40万円の機械を「何十台も買わなければならないし、これは現実的な回答ではありません」と事業戦略部 プロジェクト推進チーム 部長の羽山太氏は述べる。そして「今より安価にするには、検証で効率的な仕様を詰めていく必要があります」と説明する。
光触媒機器を、天井につけた時と床とでは効果はどう変わるか。検証で明らかにする必要がある
そのためには、検証に使える貯蔵庫を探すために、「腐敗率低減とか長期保存に関心がある農家と接点を作りたくて、JAアクセラレーターに応募しました」と、説明した。また今はみかんだけだが、単価が一般的に高いマンゴーやパパイヤ農家にも本設備を紹介したいとのこと。「こうした農家とのつながりはないので、JAさんに期待しています」という。
逆にJAアクセラレーターに参加したことで、タマネギの特有の匂いを抑えられないかという、新たなニーズにも出会った。羽山氏は、「今はまだ鮮度保持ならこう、脱臭ならこうと、きっちりとご提案できる製品には至っていません。しかし2025年か26年ぐらいには製品化したい。そのための仕様決めを、このJAアクセラレーターの期間でやっていきたい」と加えた。
光触媒という技術は、カルテックによれば「まだまだ伸び代がある技術」で、殺菌や脱臭効果の向上も十分ありうると言う。そして「カルテックには、ニーズが見えればすぐに製品にできる強みがあります。なぜなら弊社には、材料開発、電気回路、生産技術、品質管理の専門家がいるので、製品開発から生産までを弊社内で一貫して対応できるからです」と述べた。
【伴走者のコメント】
同社の腐敗防止設備を活用できそうな先を調査中。JAグループ、農林中央金庫の取引先なども含め複数回ヒアリングを設定している。対象になりそうな青果物としては、サツマイモ、マンゴー、柑橘類、ぶどうなどが有望と特定されつつある。
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