【全中・JA経営ビジョンセミナー】伊那食品工業で「年輪経営」を視察 年間まとめ、参加者の報告も交流(1)2025年3月11日
JA全中教育部は3月4、5日、長野県伊那市の伊那食品工業でJA経営ビジョンセミナーの第5セッションを実施した。全国のJAから7人が参加した。今回で同セミナーの最終回となり、各参加者からセミナー全体を通じた学びも報告された。
JA経営ビジョンセミナーの参加者
JA経営ビジョンセミナーはJA常勤理事を対象に、様々な企業の経営に学ぶことで、経営ビジョンの構想とリーダーシップを発揮できる人材の育成を目的にしている。4日は①伊那食品工業の本社施設などを視察し同社の取り組みの動画を視聴②コーディネーターの落合康裕静岡県立大学教授がこれまでのセッションの振り返りと、事前課題としていた伊那食品工業の塚越寛最高顧問の著作『リストラなしの「年輪経営」』を題材にした意見交換③伊那食品工業の塚越英弘社長による「いい会社をつくりましょう」をテーマにした講演と質疑を行った。
伊那食品工業 塚越英弘社長
「いい会社をつくりましょう」
伊那食品工業 塚越英弘社長の講演(要旨)
人件費は経費ではなく目的そのもの
私達の考え方は、会社の目的は利益や売り上げを上げることではなく「社員が幸せになること」であり、売り上げや利益はそのための手段です。普通の会社は人件費を抑えるため、リストラや、雇用形態も正社員ではなく派遣やパートを多く使います。当社は人件費は経費ではなく目的そのものなので、毎年必ず給与を上げると約束し、毎年全員上げてきました。業績がいいからと思われますが、新型コロナの影響を受けた2020年も上げました。
目標数値は一切設定しません。数字も手段であり結果。会議で集まるのなら、これから何をするかが一番重要ですから一番時間を取りたい。数字の話がないので会議資料にも出てきません。資料自体も少なく、基本的に資料を作る仕事はあまりない。月次決算もコンピュータがあればわかります。目標数値は社員が個人やチーム、支店の単位で設定しているようですが、報告を受けてないし、聞いてもいません。
工場は長野県内に5カ所(写真:本社工場)
目標数字を上層部で作っても、社員や職員から見たら他人が決めたこと。自分で決めた方がパフォーマンスを発揮できるかもしれません。スポーツの世界も選手自ら考えて行動するチームが活躍しています。いきなり自由にやっていいと言ったらバラバラになるでしょう。当社は軸となる『年輪経営』という考え方があります。本のタイトルは何度か変わりましたが、全員が身に付いてるからこそ自由にやってもできるのです。
文化を作ればルールや規則は維持できる
ISOなどの監査に来られる先生たちと話をしても、改めて文化が大事だと言われます。ルールなどを文化にまで落とし込まなければ続かない。当社は文化を作るところからやってきました。文化を作れば、ルールや規則は最低限でも維持できるようになります。中期や長期の計画も外的要因で絶対に狂います。新型コロナ前に作った計画は全部崩れたはずです。大事なことは良くなること、幸せになること。幸せに到達点はない。今より良くなることを積み上げる、イコール「年輪」です。
「かんてんぱぱショップ」は8カ所(写真:北丘本店)
考え方を伝えてルールを浸透させ、理解させる。これが一番難しい。いろいろやってみるしかありません。その一つとして、当社では「みんなでやる」が大事なキーワードです。例えばお祭り。毎年6月に本社に集まり手作りで全社員が参加する。もう一つは社員旅行です。15ぐらいの班を作ってほぼ全社員が参加します。単なる福利厚生ではない重要なイベントなので毎年行います。ルールは一つ。1回だけ全員が集まって食事をする。あとは全部自由ですから楽しくないはずがない。同じ班のメンバーが集まってミーティングが始まり、何をするか自ら考える、そうやって自らやりたくなる状況を作ります。自分で何をするか考えることは、仕事にもつながります。
そして掃除です。仕事は先輩、後輩や上下関係。しかし、毎朝行っている掃除は立場が一緒の横のつながり。そうした横の関係の方が話がしやすい。そういう状況を作って伝わるようにしています。伝わるか伝わらないかはもっと重要です。信頼関係が大事です。信頼する人から言われればすぐできても、信頼できない人から同じことを言われたら多分素直に聞けない。
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"嘘"をつかずに築く信頼関係
信頼関係を作るために大事なことは嘘をつかないことです。言っていることとやってることが違うのは嘘ですが、ビジネスでは結構ある。目標数値の見込みも嘘です。社是も会社のやってることと本当に同じベクトルを向いているか。当社の最高顧問の考え方が伝わってきたのは、言ってることとやってることが一緒だからです。社員の幸せが大事と言いながら、給料や賞与を業績と連動させたら嘘になるかもしれません。
当社の人事評価は年功序列です。年功序列は崩壊したと言われてますが、不満を持つのは若い人たち。先輩が自分より成果を出してない、高い給料もらっていると。問題は制度ではなく、働かない先輩や上司がいることです。当社の場合はそういう先輩や上司がいません。みんながしっかり働くので結果が出る。ただ、年功序列が一番でも間違いでもない。自分たちがどういう組織を目指すのかで変わってくるはずです。
当社が目指す組織はファミリー、家族みたいな組織。家族だから年功序列です。競争し合って能力を高め合う組織を目指すのであれば、成果主義もあるかもしれない。方法論よりも大事なのは目的であり、その両方を考えなければなりません。年齢で差もつけません。業績を上げているかではないので、横並びの方がしっくりきます。
かんてんぱぱガーデンのセレクトショップ「モンテリイナ」
永続すれば希望が持てる
人手不足や人材の定着に関しても、当社は採用で苦労していません。毎年30人ぐらいの採用ですが、何となくの人数です。大卒と高卒が半分ずつ。応募は1000人を超えます。景気で採用人数は変動させず一定です。企業の都合で増減させれば、ミスマッチが起きます。社員が増えますが、その分の業績を上げればいいと考えています。
知名度が低い時代、応募は県内の人ばかりでしたが、最近は全国から応募があります。そして辞めません。昔は退職者はゼロでしたが、最近は転職するのが当たり前の時代になり、影響を受ける若い人もいますが、年に1人か2人です。結婚で松本などに転居し、研究職として続けられない女性がかんてんぱぱショップの松本店で販売スタッフとして仕事を続けています。どんな仕事をしたいかではなく、当社の社員として残る方を選んでくれます。
「じぶんのやりたい仕事じゃない」という辞める理由はたぶん嘘です。合わないだけでしょう。やりたい仕事は変わるし、魅力がなかった。みなさんもやりたい仕事は変わってきたのではないでしょうか。人間は何かに属したい。自分で考えてやるから楽しく、やりたいことは自分で考えられる。大事なことは続けることで、永続しなければなりません。少しずつよくなることで希望が持てる。常にそういう状態にあることが幸せかもしれません。その状態をいかに作るかが「年輪経営」につながっています。
参加者からの多数の質問に答える塚越社長
【伊那食品工業 企業メモ】
1958年設立、本社は長野県伊那市。寒天事業を拡大し、家庭用食材「かんてんぱぱ」や業務用ゲル化剤「イナゲル」(寒天製剤)などを展開。グループ企業は米澤酒造、ばなな農園、ハマ園芸。2023年の年商は227億円、社員数は2023年12月末現在545人。創業者の塚越寛氏(現最高顧問)は著作『リストラなしの「年輪経営」』(光文社知恵の森文庫)で知られ、黄綬褒章など各種受賞歴多数。
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