将来にわたる国産米の安定供給へ 政策確立を 基本農政確立全国大会2025年11月11日
JA全中と全国農政連は11月10日、東京都内でJAグループ基本農政確立全国大会を開いた。大会はオンラインで全国に中継され会場と合わせて各地のJA関係者ら4000人以上が参加した。
JAグループ基本農政確立全国大会
JAグループは11月6日の全中理事会で「農業構造転換集中対策の具体化等に向けた重点要請」を決めた。大会ではJA全中の山野徹会長が代表要請を行った。
そのなかで農業関連予算総額の拡大と人件費・物価高騰を踏まえた各種施策の補助率や支援単価、上限事業費の必要な見直しを求めている。
自民党は農業予算とは別枠で5年間で2.5兆円、国費ベースで1.3兆円程度を確保する方針を決め農水省も概算要求で別枠予算を要求する方針を示している。その確実な実現を要求する。
具体策では共同利用施設の再編集約事業の補助率の引き上げや手厚い地方財政措置による都道府県負担の軽減措置や、農業サービス事業体の農機や施設導入の支援拡充を求めていく。
水田政策では、農業団体による長期計画的な米の販売を支援する米穀周年供給事業の拡大、政府備蓄米の機動的な買い入れ、買い戻しと「需要に応じた生産の推進」に向け、加工用米や米粉用米、飼料用米、麦・大豆などへの十分な支援の確保と、生産費高騰を十分に考慮したゲタ対策の単価見直し、関連施策の拡充などを求めていく。
備蓄制度については「官民合わせた総合的な備蓄」の検討では、現在の100万t水準以上を確保することや、価格急騰時に対応した放出をしないなど目的の明確化、民間備蓄米への保管経費などの支援が必要だとしている。
27年以降の水田政策の見直しでは、事前契約など長期安定取引を促進する支援・制度の構築や、生産コストに着目した新たな経営安定対策の構築を求めるほか、多面的機能支払と中山間地域等直接支払の統合による事務簡素化、支援対象の拡大なども求めていく。
畜産・酪農対策では和牛肉需要拡大緊急対策や牛乳乳製品の需要拡大対策、青果対策では施設園芸の燃料価格高騰対策の改善、灯油・重油にかかる定額引き下げ措置の継続などを求めていく。
山野会長
山野会長は「現場の意見をもとにした重点要請だ。課題は山積しているが将来に希望の持てる農業・農村実現に向けJAグループの総力を挙げて取り組む」と決意を述べ、政府・与党への働きかけを行っていく考えを示した。
米は食料安保の根幹
大会では来賓として自民党の食料安全保障強化本部長の森山裕前幹事長があいさつした。
自民党の食料安全保障強化本部長の森山裕前幹事長
森山氏は米の民間輸入が昨年の200倍にも増えていることに「強い危機感を持っている」と話し、「米は食料安保の根幹であり将来を見据えた水田政策を速やかに確立していく必要がある」と強調し、生産と流通が従来と変わっていることを踏まえて「直接支払いや経営安定対策、備蓄制度などバージョンアップしていかなければならない」と話した。
そのうえでJAグループに対しては「米の通年での安定供給に取り組んでいる役割はますます重要になる。水田基盤の維持と集荷力向上を含めしっかり後押しする」と述べた。また主食用米の生産について特徴ある米づくりの努力で高単価でも消費者から支持されているものもあるとして「それぞれの需要に応じた生産がなされることが重要だ」。「生産がいかに大事か国民に理解してもらう努力が必要」などと述べた。
与党政策責任者との意見交換では4人が意見表明した。
国に不信 米価が不安
JA山形おきたまの若林英毅組合長は増産のメッセージが現場を混乱させ需要に応じた作付推進が課題となっていると話した。そのためには「国による正確な需給見通しが不可欠」と要望した。
JA山形おきたまの若林英毅組合長
また、今回の備蓄米放出について「国は米価高騰には介入したが、令和3年の概算金が1万円を切ったときには何もしてくれなかったことへの不信感がある。需要と供給を見間違ったのは国の責任。そのうえ備蓄米を放出し増産のメッセージを出した。8年産の米価が不安でならない」と不信感をぶつけ「希望の持てる政策の実現に強い働きかけを」と強調した。
また、共同利用施設は再編だけでなく「建屋内の機械の更新や施設の修繕による長寿化を図るなど一歩踏み込んだ対策が不可欠だ」と提起した。
セーフティネット構築を

JA全青協の星敬介副会長
JA全青協の星敬介副会長は当面の米需給対策として、機動的な備蓄米の買い入れと米価下落に備えたセーフティネット対策の検討、飼料用米をしっかり位置づけた新たな畜産酪農対策、中山間地域農業への支援を求めた。
これらの意見に対して江藤拓自民党農業構造転換推進委員長は「米価の暴落を招けば、今度こそもう止めようという人が増え耕作放棄が広がり食料安保が危うくなる」として、生産者にとっても消費者にとっても適正な価格となるようコスト指標に基づいた価格形成について「消費者に対して、これが再生産可能な水準だと示さなければならない」として来年4月に施行される食料システム法に基づく価格形成の重要性を指摘した。
江藤拓自民党農業構造転換推進委員長
また、26年産米では21万tの政府米の買い入れを行う方針を農水省は示しているが「状況を見ながら見直しもある」考えを示した。
備蓄制度については「食糧法の改正が必要」としたうえで、水準については「国民の安心・安全が担保される水準」として現在の100万t水準を「下げるべきではない」と強調した。そのほか27年度からの水田活用直接支払交付金の見直しは「(現行予算と)遜色のない見直し」が必要だが、コスト高騰等も考慮して水準を検討する考えを示した。
ゲタ対策 単価改善を
JA柳川の山田英行組合長は麦・大豆など畑作物のゲタ対策の算定ルールの見直しを求めた。
JA柳川の山田英行組合長
令和5年から7年の交付金単価は令和元年から3年の資材価格高騰前の生産費で算定されているため、産地の実数とかい離していることを訴えた。
宮下一郎自民党総合農林政策調査会長
これに対して宮下一郎自民党総合農林政策調査会長は「過去の生産費基準では実態とのかい離が広がる。コスト上昇を考慮した仕組みにできないか、検討したい」と述べ「麦・大豆をしっかり増産し、国民も支援しなければ自給率向上につながらない」として関連対策も含めて検討する考えを示した。
JA全国女性組織協議会の西川久美会長
JA全国女性組織協議会の西川久美会長は消費者理解の醸成を求めた。
愛媛県で柑きつ生産をしているが、ここ数年は急速に温暖化が進み、資材の高騰と鳥獣害対策ともあいまって生産コストが上昇している実態を訴えた。そのうえで「将来にわたって持続可能な農業を営むため適正な価格形成と消費者の理解が大事」だとして、大人への食育も重要になると強調した。
これに対し宮下調査会長は食育基本法の改正を検討しており、大人の食育や食卓と農の距離を縮める施策などが盛り込まれる見通しであることや、コスト指標に基づいた価格形成には「国民理解が必要でその仕組みづくりに取り組んでいきたい」などと話した。
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