JAの活動:緊急寄稿-平成の農協合併を考える
【田代洋一・平成の農協合併を考える】会津はひとつ(2)2018年6月19日
農業所得10%アップ運動展開
◆営農経済センターを核に
会津では営農経済センターが支店ごとにあるケースが多い(37支店24営農センター)。共選所、集荷場は営農経済センターの所管で、共選所の運営は生産者・理事・職員による運営委員会で決めている(選果料金は理事会決定)。その意味では前の前の農協が支店として残っていると言える。
そうではあるが、地区ごとの基幹的な営農経済センターが地区内のとりまとめ機能を果たしており、地区本部自体は農政対応になりつつある。ただし、原発補償や転作など地域(自治体)ごとに特徴があり本店ではまとめ切れず、また合併時に支店や営農経済センターなどの組合員との接点機能を強化する約束をしたということもあり、営農経済センターを集約する方向にはない。
営農指導員は販売担当兼務で総勢121名、うち本店に8~9名がおり(直売所担当など)、他は営農経済センター所属である。内訳は畜産7名、米35~36名、園芸70名程度で、園芸に力を入れている。
生産部会は、いいで・みどり地区は地区一本の部会に統合されているが、みなみ地区は「南郷トマト生産組合」のような支店のブランドが確立したものも含まれ、あいづ地区ではアスパラ・野菜部会は東部と西部に統合されている。旧JA内に複数部会をかかえる花卉と先のトマトを除き、基本的に地区ごとの部会に統合されつつある。
2016年6月には、トマト、アスパラ、キュウリ、ミニトマト等、主要8品目の生産部会連絡協議会が設立されている。
以上を踏まえ、「営農指導員は営農経済センターに所属するが、本店が主導する生産部会統一に向けた取り組みにより、地区を越えた現地指導を行い、品質の高位平準化を進める」としている。
TACは計17名を地区ごとに配置しているが、その中には営農指導員の兼務やOBの専任もいる。
◆多様な作目の生産・販売体制―全農との連携
2017年の販売額は243億円で、前年より3.3%アップしている。構成は米68%、野菜17%、畜産5%、花卉5%、直売所4%といったところで、米が3分の2を占めるが、先の営農指導員の数にもみられるように合併前から園芸に重点をおいている。ミニトマト等の野菜や花卉には後継者や新規参入者も多く、拡大基調にある。2016年度にトマト出荷15億円、キュウリ・アスパラ各10億円を達成し、合併効果を発揮した。
問題は原発事故の風評被害の払拭度合いであるが、青果物については価格差は解消されたが、需給が緩和すると優先順位が落ちる。米と畜産については価格差が歴然としており「業務用が定着していると感じざるを得ない。粘り強い働きかけで徐々に量販店の棚の確保が進んでいる」としている。
分荷権は、南郷トマト、アスパラは全農、畜産もほぼ全農、キュウリも2018年から全農、米は買取販売27%を除き全農である。旧JA時代から全農への結集(依存度)が高いが、その理由として、「遠隔地であるにもかかわらずロットが大きく、遠隔地から市況をみながら分荷するより、中央市場で現物をみせながら販売する方が効率的で説明責任も果たせる」としている。
全農県本部との連携が強く、アスパラの広域選果場は全農県本部が運営しており、会津全域を対象としてキュウリ、アスパラ、ミニトマトの共選所を全農と共同で建設・運営する計画中である(2020年)。このような広域共選施設がブランドや部会の統合の物的なテコになっている。
なお米の買取販売は、大手卸に「収穫後契約で引き取り前入金」としているが、全農と競合することもあり、価格的には委託販売と比べて「一勝一敗」としている。ただし農家には即金の魅力があり、また直売やふるさと納税の返礼向けでの販路確保もある。
会津は「米どころ」であり、米生産調整は達成せず、飼料米でなく備蓄米、WCS、野菜転作で対応してきた。2018年度についても備蓄米が主食米に1200t回るなど厳しい状況にあり、JAとしてもCE9基に加え、現在RCの増設を計画中である。
野菜については買取販売はせず、山菜、果樹等も直売所の計13億円の売上、直販事業2億円(大手スーパー等への直送)にのせ、品不足の状況にある。
◆ブランド名は「会津」
合併によりブランド名は「会津」に統一した。段ボール箱には、左上に小さく「JA全農福島」、真ん中に青果・花などの図柄と「会津の○○○ですぞ」(○○○にはトマト等の品目が入る)、左下にイメージキャラ「コメナルド画伯」(2017年に商標登録)と「JA会津よつば」が入る。地区本部(旧JA)名は入らない。
そのほかに地域団体商標として「南郷トマト」(GI申請中)、「会津田島アスパラ」がある。これは支店名である。また地域ブランドとしては「昭和かすみ草」「磐梯トマト」「法正尻ほうれん草」がある。
このように旧JAが支店段階で確立してきたブランドを、一部は地域団体商標、一部は「会津」ブランドにしたわけである。そこに支店(旧旧農協)とJA会津よつばが併存する同農協の現実があり、両方が大切にされている。
◆担い手の育成
同地域ではところによって受け手不足で耕作放棄も進む状況にあり、JA単独でJAみどりファーム(会津坂下町、2015年設立、稲作作業受託、ホールクロップサイレージ収穫、種苗作業、売上3800万円)を設立し、今年度も湯川アグリファーム(2018年7月設立)を村5000万円(ふるさと納税の利用等)、JA4000万円の出資で設立した。JA出資型法人は地域からの要望が高く、JAとしても「今後、このような動きが加速すると思われる」としている。
新規就農も2017年5名、18年7名で、都市からのIターンもあり、南郷トマト生産者の2割は彼らから成る。昭和カスミソウも新規就農者の確保で5億円達成を果たしている(村、生産者、JAで研修生を受け入れる「かすみの学校」を設置)。新規就農希望者に対しては自治体とともに1~2年の研修を行い、その間はJA職員として雇用し、農家で研修する。青年就農給付金も活用し、費用は自治体8割、JA2割の負担である。
◆JAのこれから
新JAとしては「自己改革」は合併事業計画の完遂に尽きるとして、農業所得10%アップ運動を展開している。前述のように販売額は伸びている。
2017年度の経常利益は前年より9%ほど落ちて5.4億円で、その内訳は信用49.9%、共済190.9%、農業関連14.7%、生活▲58.9%、営農指導▲96.5%である。中山間地域JAとして共済依存度が極めて高いこと、農業関連が黒字化していることが特徴である。営農指導の赤字は大きく、正組合員一人当たりでみると2.9万円になり、全国平均の2.5万円を上回り、農業振興に努力している。
共済事業については、収益比率を長期共済から短期共済にシフトさせ、とくに短期の自動車共済の管内シェアを現在の25%から30%に引き上げることとしている。それには准組合員対策も欠かせないだろう。
自己資本比率は15.1%で県内では高いが、前年度から1.63ポイントも落ちている。現在の貯金額は2868億円、貯貸率は21.8%だが、生産者の意欲が高く、農業貸付は大型機械向けの取り扱いが近年大幅に伸びている。他方で、信用事業の代理店化の貯金手数料は県内一律に0.408%とされ、現在の3割弱下がり、さらに前回述べた還元利率の低下が見込まれる。
JAは経営改善策として、施設の大規模な機能集約(広域施設の設置)、手数料水準の適正化(引き上げ)、それらに伴う人員配置の見直し、信用事業の渉外強化、営業店舗の見直し等を掲げている。
産地農協としてのポイントは営農経済センターの集約にあるのではないか。すなわち、前の前の農協(現在の支店)の時代から培ってきたブランド産地を大切にしつつ、その産地の力を地区・新JA全体に普及するために、全農と提携した広域集出荷施設の集約を土台にして、支店単位の営農経済センターを地区本部廃止後の本店が統括可能なかたちに集約し、広域的営農指導と生産部会組織の拡大を図ることである。
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