JAの活動:JA全農改革実践レポート
【JA全農自己改革実践レポート】第4回 水稲密播疎植栽培で大幅省力化2019年4月5日
JA全農は農業者の所得増大に向け、トータルコスト削減にも取り組んでいる。その一貫として岐阜県のJAにしみのは水稲密播疎植栽培の拡大に取り組んでいる。同JA管内の養老町で水稲密播疎植栽培に先駆けて取り組んできた(有)クリーンファーム日吉の日比野守代表取締役を訪ねた。
(写真)右から農業生産法人(有)クリーンファーム日吉の日比野守代表取締役、
JAにしみの養老営農経済センター・青山健主任、同TAC室・富田一幸室長
クリーンファーム日吉の31年度作付計画では、主食用米55ha、飼料用米30ha、加工用米10haなど水稲95haのほか、麦、大豆、加工用キャベツ、タマネギなど合わせて100ha以上の農地を利用する。
平成18年に法人化。役員・従業員は6名、小松菜を中心とした施設野菜栽培にも取り組んでおり、パートも雇用している。170haある日吉地区の農地の守り手であり、地域内の家族農家と調整しながら農地の集約を進め、土地条件に合わせて品種・作物を選定してきた。
水稲の品種はあきたこまち・コシヒカリ・ハツシモ・ほしじるし・みつひかりなど多岐にわたる。田植え期間は4月中旬から6月末まで。集約化を進めているとはいえ水田の筆数は600筆にのぼる。
水稲密播疎植栽培に取り組んだ理由について日比野守代表取締役は「省力化がいちばんの理由。限られた人数で大規模な土地を管理するには有効だと実感しています」と話す。
「密播疎植」とは苗箱1箱に播種する種籾の量を増やして育苗箱1枚あたりの苗立本数を増やすとともに、移植時に通常より株間を広げる疎植を行う。2種類の技術を同時に行うことで、苗箱数と苗の補給回数が少なくなり、省力と生産コストの低減を図る技術だ。
クリーンファーム日吉では平成29年からこの技術を導入した。
日比野代表によると以前は10aあたり15箱必要だったが、この技術の導入によって10箱で済むようになったという。
「種籾の購入費用は変わっていませんが、10haで1500枚必要だった育苗箱が1000枚で済みますから500枚運ばなくてよくなりました。大幅な労力削減になります」。
田植えには機械のオペレータと苗をほ場まで運搬・供給する労力が必要になる。必要な育苗箱が少なくなることによる労力の削減ができ、全体として作業効率が向上したという。また、育苗箱に使用する培土も削減できることもメリットだ。
日比野代表は29年産、30年産と2年間の取り組みから「箱数は減っても茎数は確保されており収量は変わりません」と評価する。
クリーンファーム日吉では平成21年から省力化のため、鉄コーティング種子による直播に取り組んでいるが、収量が安定しないという課題があり密播疎植の全面的な導入も考えたいという。
ただ、課題もある。苗づくりでは均一に播種を行う技術が必要なことや、播種から約25日後の田植え適期を過ぎると、苗が成長し過ぎて移植作業に支障が出ることもあることなどだ。これを解決するには計画的な育苗や田植え作業の日程を設定する必要があるなど、より安定した栽培に向けて継続した取り組みが求められる。
日比野代表は大規模経営を効率的に行うには必要な技術だと評価すると同時に、品種も多いため肥料や除草剤など有効な生産資材の提案や肥培管理のアドバイスなど、大規模経営にとって「JAのTACのアドバイスは欠かせない」と話す。
◇ ◇
JAにしみのは28年度から0.7haの密播疎植栽培実証圃を設置して効果を確認することから始めた。実証圃では月2回の生育調査、収量調査、作業時間、コスト検証を行ってきた。
その結果、草丈、茎数、収量など慣行栽培と同等であるとの結果を得たほか、育苗コストが10aあたり2000円から3000円程度削減できることや、田植の作業時間にして16時間削減(20haあたり)できることなどを明らかにした。また、10aあたり主食用米生産では3500円程度削減できることも明らかにし、これらのデータをパンフレットにまとめるなど「見える化」して、29年に毎年担い手を集めて開く研修会で提案した。
さらに30年には、生産者にJA育苗センターにて生産した密播苗を実際に見てもらったほか、田植えや収穫時に圃場の見学を行い、作業効率や収量が変わらないことなどを理解してもらった。30年度には、クリーンファーム日吉を含め9戸が密播疎植栽培に取り組んでいる。
JAではこの技術は省力化栽培に有効であり、課題もあるが継続的な試験を予定しており、今後はJAにしみのとして栽培マニュアルの作成と育苗センターでの取り扱いを検討したいとしている。
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