JAの活動:全農改革実践レポート
【全農JA改革実践レポート】第5回 家族経営で水稲30ha 新技術・栽培法で労力軽減2019年5月13日
岩手県JAいわて中央管内の(有)髙橋農産は水稲を主力とする家族経営で30haの水稲作をこなす。労働力は経営主の髙橋信さん(66)と妻の美喜子さんだけで、労力面で作業の負担を減らすため、省力化によるコストの削減は経営にとって最重要課題だ。直播き、除草体系の改善など、JA全農いわて・JAいわて中央と密接に連携しながら、トータル生産コストの削減に挑戦している。
育苗ハウスで高橋さん夫妻
◆5つのモデル経営体
JAいわて中央が取り組んでいるトータル生産コストの低減は、労働力の軽減、収量の増大、コストの削減の3つの骨組みからなる。そのため、(1)土壌診断によるオーダーメード肥料の導入、(2)水田除草体系の改善、(3)直播、高密度播種苗移植栽培の導入、(4)農業ICT技術の導入、(5)多収、新品種の導入などに取り組んでいる。
この考えのもとで、同JAは管内に5つのモデル経営体を設定し、水稲栽培での所得増大に挑戦している。(有)髙橋農産はその一つで、平成28(2016)年から3年間で、コスト削減のため可能な限り新しい技術・資材・設備を導入し、栽培方法を採用してきた。
水稲直播は20年前から取り組んでおり、高密度播種苗(密播)は育苗ハウスの不足を解消するため、4年前に導入した。30haの水稲に要する苗箱は約2700箱で、「密播」がおよそ半分を占める。
さらに新たな直播用コーティング資材の導入や、土壌診断に基づく新規BB肥料・大型規格農薬・水田センサー・スマート自動給水器の試験導入、ドローンの実証試験など、コスト削減および省力化に向け、JA全農いわての営農支援部や同JA担い手対策課などの提案に基づき、相談しながらトータル生産コストの削減に取り組んできた。
髙橋農産の経営は、主食用米の「ヒメノモチ」を中心に約15ha。飼料用米「つぶゆたか」が約6ha、それに平成30年は輸出用米の「どんぴしゃり」6haほど。うち湛水直播は10ha前後。労働力は髙橋さん夫妻がメインで、美喜子さんは1.7haのリンゴ栽培があって、人手不足の時に手伝う程度で、実質は髙橋さんがほぼ一人で30haをこなしている。
労働力の限界があるだけに省力化への関心が高い。高密度播種苗の移植と水稲直播栽培を組み合わせて作業を効率・短縮化し、また特に秋の収穫期間を9月上旬~10月下旬まで40~45日に拡大し、作業の分散化に繋げている。さらに新たな直播栽培技術では、鳩胸・催芽籾でもコーティングでき、播種後の苗立ちが早いという特長がある。「従来の半分の期間で出芽し、除草剤の使用も1回で済む」と、髙橋さんは評価する。
JAの担い手対策課の担当者と相談する高橋さん(左)
◆直播研究会が受け皿
髙橋農産の経営する水田のうち約20haは借地。このため圃場は分散しており、給水施設は整っているものの、圃場数は110筆に達する。2日に1回は水管理のための見回り時間もばかにならない。このため昨年、自動給水機を試験的に導入した。「生育状況に合わせた水管理が可能になり、それに要する時間も短縮できた」と言う。
また生産費の中で大きな比重を占める肥料は、土壌診断をもとにオーダーメードの「LP入り肥料」を採用。作物の生育に合わせて肥料成分の溶出を調節できるため、追肥を省略できる。これを側条施肥で移植時に施用する。追肥分の肥料費の削減と省力化が可能になり、JAの試算では10a当たり800~4000円の削減となる。「施肥量で2~3割の削減になった」と髙橋さんはみる。
JAいわて中央では労働費削減と農薬散布の作業軽減のため、担い手サポート事業で、先端技術であるドローンや作業計画作成の「Z-BFM」や圃場管理システムの「Z-GIS」のほか、新技術や直播専用肥料等の新たな資材の導入も勧めている。こうした提案の受け皿になっているのが、髙橋さんが会長を務める「JAいわて中央水稲直播研究会」だ。直播などの新技術や栽培方法などを検討する。
髙橋農産のある集落約60戸のうち、水稲栽培農家は13戸。平均年齢は70歳を超えている。種子用水稲生産が中心で、周辺の集落を含め25戸の部会員を持つが、近い将来、後継者不足で経営困難に陥る恐れがある。同JAの担い手対策課営農経済相談チームの阿部忠雄さんは「モデルの5経営体で、平成30(2018)年までの3年間で約31%の所得アップになった。さらにコストダウンを進めるとともに、法人化して担い手不足に対応したい」と、省力化と法人化に水田農業の将来をみる。
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