JAの活動:この人と語るJA新時代
【高橋勉・JAいわて花巻組合長】リーダーは先を見通す力を2019年8月20日
組合員の力を信じて挑戦
JAいわて花巻は合併後、全国でもいち早く大規模な直売所を開設し、東日本大震災を契機に三陸沿岸にも直売所を新設するなど、状況を先読みした経営・事業展開を行っている。特に集落を基盤とした組織運営、農業振興は他のJAの範となっている。合併前から職員として、また役員として今日のJAいわて花巻を築いた高橋勉組合長は、トップのあり方について「組合員の力を信じ、目的を示してリードしていくことにある」と言う。その要諦を聞いた。
高橋組合長(農産物直売所「母ちゃんハウスだぁすこ」の前で)
◆目指す姿示して牽引
――全国のJA常勤役員らでつくる「JA全国人づくり研究会」の主要メンバーとして参加されています。JAの「人づくり」の必要性についてどのように考えていますか。
農家の長男に生まれ、高校を卒業した当時は経済成長の時代で、就職に困るようなことはありませんでしたが、迷うことなく地元の湯口農協に入組しました。主に管理部門の仕事でしたが、当時は組合員のためになるならと思い、無我夢中で働いてきました。いまでは考えられませんが、明朝の会議に間に合うようにといわれ、会議資料づくりなどで徹夜することも珍しくありませんでした。
当時と比べ、いまの若い職員はパソコンが使えるのは当たり前で、事務的な能力は備えていますが、組合員と直接話をすることは苦手なようです。それにちょっと叱られると、すぐ参ってしまいます。集団生活の経験が少ないので、コミュニケーションが身についていないようです。もっと心の強い人間になって欲しいと思っています。
いま農協に求められているのは強いリーダーシップではないかと思っています。農協の将来の目指すべき姿を示し、引っ張っていく人が求められます。リーダーが、みんな一緒に力を合わせて、この目的に向かってやろうと、方向を示せば、人はついてくるものです。
◆人はハートで動かす
リーダーに必要なのはハート、つまり情熱ではないでしょうか。いくらマニュアルを教えても人は動きません。リーダーが何かをするためみんなに働きかけたとき、リーダーの言うことを理解してついてくる人は2割で、なんとなく理解しついてくる人が6割、全くわからない人が2割といわれています。それが組織だと思います。
そこでリーダーに必要なことは、理解して一緒に行動できる2割の中から、次のリーダーを見つけ、育てることです。農協もそうですが、特に大きくなった組織は、意識してリーダーを育てる必要があります。
さらにリーダーには、一歩先を見通す力が求められます。つまり、一つの目標を達成したらそこで満足するのでなく、次に何をめざすかを考えておかないと、組織はそこで終わってしまいます。農協組織にも言えるのではないでしょうか。
このことは若いころ、花巻市の青年団の会長だったときに学びました。当時約700人の団員がいて、植林や交通量調査など行政の下請けのような活動をしていましたが、成人式を行政に任せず、青年団主導でやるようにするなど、いろいろなことに挑戦しました。リーダーのあり方はその時の先輩から学びました。また当時、一緒に活動した仲間が、さまざまな分野で活躍しており、農協の役員になってから大きな財産になりました。人の繋がりは大事です。
◆役職員が先頭に立つ
――そのようなリーダーが農協運動、あるいは農家組合や集落営農にも求められるということですね。
今はなくなりましたが、かつての農協役職員連盟の綱領に「われらは農業協同組合の理論と実際を究明し、協同組合運動の果敢なる先駆者たるを期す」というのがありますが、まさにその通りで、JAの役職員が先頭に立って改革に取り組むべきだと思います。
そこで、いまの農協運動について思うのですが、役員の任期を考え直す必要があるのではないかと思います。リーダーシップのある役員は70~80歳になっても十分のその力を発揮できるし、そのような人が惜しまれて退任することも少なくありません。長年培った経験を埋もれさすのはもったいない話です。JAグループの組織力が落ちてきていることは明らかです。立て直す必要があります。
全国的には、高齢化や意識の多様化、法人化による組合員の脱退などで組合員が多様化してきたことにも一因があると思います。それだけにさまざまな組合員をまとめることのできるリーダーが必要になります。
その点で、JAいわて花巻の管内は水田地帯で、農家組合を基盤に協同組合が根付いています。営農と生活向上に向け、みんなの力を最大に発揮して実現しようという精神は残っています。特に管内は水稲が中心なので、かつての結いや共同作業の精神はまだまだ健在です。これを大事にしていきたいと思っています。今年度からの3か年の中期経営計画・営農振興計画で、農家組合や集落営農を、地域の活性化や農業振興の核として位置付けました。積極的に支援していく方針です。
◆集落営農・法人軸に
――JAの営農振興計画では、どのような地域農業の将来ビジョンを描いていますか。
管内は、農協の取扱高の半分以上を米穀が占める水田地帯です。生産者の高齢化が進むなかで農地集約による集落営農や法人化を進めていくことになります。
現在農地の集積率は平均65%ほどで、70%近い地区もあります。100ha規模の法人がいくつも生まれており、大規模なものは180haもあります。一つの法人で肥料の注文が4000~5000万円に達するものもあり、農協にとって大きな存在です。これから営農指導・情報交換などで、こうした大規模経営とのつながりを強めることが求められます。
また年間を通じて安定した所得と法人の雇用を維持するため、園芸作目の生産拡大にも力を入れています。国や県の補助事業を導入し、集落営農や法人を中心にピーマンやアスパラガスなど、新規作目の生産拡大に努めているところです。作業面で水稲と競合しないタマネギの生産も軌道に乗っています。
「ちゃぐりんスクール」の開校に向けて準備をする高橋組合長
◆米は農協・地域の礎
――政府に対しては、どのような農業政策を望みますか。また、政府や規制改革推進会議は「農協改革」でJAの総合事業を問題にしていますが、どのように考えますか。
農協の農畜産物販売高は30年度約240億円で、うち米が約140億円です。200万袋の集荷を目指していますが、米の集荷も農協運動の一つと考えています。また米を中心とする集落営農は地域コミュニティの活性化に欠かせない組織です。
このように米は管内で一番重要な産業です。将来とも安定して米づくりのできる政策であってほしいですね。多くの地区で大型経営による地域農業のビジョンを描いていますが、米作の将来が展望できないと、リスクが大きく、数千万円もする機械・設備投資はできません。
政府・規制改革推進会議は農協の総合事業を問題にしていますが、振り返ってみますと、そもそもわが農協の始まりは、明治時代後半に悪質な肥料に悩まされたことが始まりです。そのため農家数名が青森県の八戸から魚カスを買う共同購入を始めました。購買事業です。次にその肥料で収穫した農畜産物の共同販売を始めました。それが販売事業です。その販売で得たお金を預け共同で利用しようと考えました。信用事業の始まりです。最後に組合員・利用者の生命・財産を守ろうということで共済事業が始まり、組合員の生活向上のため生活改善、共同購入の生活事業へと発展し、総合事業となったのが農協です。
◆必要あって総合事業
つまり農協は必要性があって経済的に弱い農家が自主的に作った組織です。必要とされたから総合事業をこれまで続けきたのであり、今も地域で重要な役割を果たしているのです。最初から総合事業だったのではないのです。こうした歴史も踏まえず、規制改革推進会議や経済界の行き過ぎた市場主義の理論でとやかく言われたくないですね。
――准組合員についてはどのように考えていますか。
組合員約4万1000人中、准組合員は約1万9000人で、正・准組合員半々の農協です。准組合員といっても、長年住んでいる農家の2、3男が多く、金融・共済事業の利用者でもあります。農協の理解者なので農家組合にも入っており、農協では総代会への参加を呼びかけるなど、農協の仲間として、正・准組合員を区別なく扱っています。
ただ北海道のように、農業地帯でも准組合員が多い農協もあります。東北でも准組合員の性格は純粋の消費者がほとんどの都市農協と違います。一律でなく、その違いを認めた上で准組合員、農協のあり方を論ずべきだと思います。
東京や神奈川の都市農協や愛知・和歌山県の農協と、防災・友好・姉妹協定を結んでいますが、協定や提携の一番のメリットはそれぞれ農協の違いが分かることです。違いを知ることは、自分の農協の将来を考える上で大事です。
◆「真の草の種」をまく
――農協運営にとって大事なことは何でしょうか。
組合員の力を信じることだと思います。組合員からは苦情や文句も言われますが、きちんと訪問して説明すれば分かってもらえます。それが協同組合運動だと思っています。
私の卒業した花巻農高に宮沢賢治が作詞した「精神歌」があります。その一節に「我らは黒き土にふし真(まこと)の草の種まけり」とあります。大地に「真の草の種」をまき、協同組合運動のリーダーとして挑戦することが、私の残された任期の責務だと思っています。
※高橋組合長の「高」の字は正式には異体字です
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