JAの活動:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画
【シリーズ:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画】農政の方向を転換する意欲的な計画 宗 欣孝 JA福岡市代表理事専務2020年4月17日
基本計画は農政の憲法とされる食料・農業・農村基本法に基づいて策定される。しかし、近年はしばしば政治の事情で政策変更がなされ現場は混乱した。宗氏は現場から見ても今回の基本計画は納得感が高いと評価、これに基づく「ぶれない」政策実践を求める。
◆国民理解を重視 72頁にわたる基本計画を通読して最初に感じたのは、ようやくこれまで我々が主張してきたことが数多く盛り込まれた、ということであった。食料とそれを支える農業の重要性に関する記述が随所に見られることをはじめ、最近は議論が低調であった食料自給率に関しての見識が多くのページを使ってしっかりと示されていることをまずは評価したい。
食料自給率については、45%という数値目標は従来からの踏襲と考えられるが、新たに「食料国産率」という概念が表に出たことや、潜在生産能力を踏まえた「食料自給力指標」の考え方が示されたことなどを見ると、今後の具体的な農業施策の展開が大いに期待できる気がする。
また、全文を通して「国民の理解」あるいは「国民的合意」というキーワードが繰り返し使われていることも重要だ。これまでの先進国間における食料自給率の比較に象徴されるように、我が国の食と農に関する国民意識は決して高いものではなかった。この点を少しずつでも改善しようという意思が感じ取られ、ここ最近の農政の方向を転換する意欲的な計画、と捉えている。
◆具体策に物足りなさ
各論にあたる「総合的かつ計画的に講ずべき施策」が順に示されているが、主なポイントをJAの視点から見ていきたい。
まず、需要開拓に関する考え方であるが、食生活スタイルの変化を踏まえた6次産業化の拡大、食品流通の合理化、環境問題への対応などは時流を確実に捉えた方向性が示されており、一定の評価ができる。輸出促進については、これまで課題とされてきた項目が網羅されてはいるものの、数値目標を達成するための具体策には言及が少ないように感じた。
食と農における消費者とのつながり深化では、改めて食育推進と地産地消の推進が示されるとともに、和食文化の保護・継承が明文化されるなど日本農業の発展にとって希望ある内容となっている。食品の安全確保と消費者の信頼確保の項目では「引き続き」あるいは「積極的に」という表現が繰り返されており、具体的取り組みについてもやや物足りなさを感じた。
近年のこの分野における規制緩和、とりわけ輸入農産物や輸入食品に関しては、一国民としても危惧の念を強く持っており、国内農業が生産履歴管理をはじめとした農産物の安全確保に努力を重ねる一方で、早急に規制強化が求められるのではないかと思う。食料供給におけるリスク管理については、緊急事態に備えた施策が5点ほど示されており、概ね評価できる内容ではある。ただ、総合的な水田農業対策や他国への食料支援と十分にリンクした米穀備蓄のあり方などについては、まだまだ議論が必要と思われる。
◆農業者像 転換は評価
後半からは「農業の持続的な発展に関する施策」続いて「農村の振興に関する施策」が示されている。まず、農業の「担い手」についてであるが、中小・家族経営など多様な担い手について「地域社会の維持の面でも重要な役割を果たしている」と明記されたことは、従来の大規模農業生産法人に絞った施策の方向性の見直しであり、高く評価したい。
また、「産業政策と地域政策の両面からの支援を行う」という表現もかつてなく明快であり、具体的な施策立案を強くバックアップするものと期待している。さらに、青年層、女性層への支援とともに「人材育成のための農業教育の充実」を打ち出していることも心強い。JAとしても従前よりこの必要性は認識していたものの、事業環境が厳しくなる中でなかなか難しい課題となっていたことから、行政と連携を深めて取り組めることの意義は大きい。
例えば、基本的技術や経営基礎の教育は行政系統が担い、現場研修はJAの生産部会で実践的に行うようなことが可能になってくるのではないか。若い人にとって農業を魅力的な職業とするための大きな一歩になると思う。農業経営安定化に向けた収入保険制度や経営所得安定対策等の推進も明記されたので、基本計画を十分尊重して制度の拡充が図られるよう願いたい。
近年頻発する気候変動に対する緩和・適応策の推進や大規模自然災害への対応も重要であり、今後は科学的知見に基づいた研究結果を生産現場へ速やかに応用できるような連携の仕組みが必要だ。
◆都市農業の機能も明記
農村振興に関する施策においては、中山間地における多様な農業経営の推進とともに「多様な機能を有する都市農業の推進」が明記された。
大都市に立地する当JAとして歓迎するとともに、立地条件を生かした地産地消に努め、なおかつ生産地帯のJAとの連携により都市住民の農業理解醸成を図るべく、直売所の運営や食農教育に力を入れていくこととしている。
◆ぶれない政策実践を
過去の農政を振り返ってみると、直近の政治事情により政策が度々転換し生産現場が混乱したことも少なからずあった。今回の基本計画は現場から見ても納得感が高く、これを基本とした「ぶれない」農業政策を切に期待している。現在、世界、そして日本は新型コロナウイルスに脅かされ先の見通せない厳しい状況であるが、ここに至りグローバルの限界を感じるとともに、食料安全保障の重要性を再認識したところである。
当JAは「福岡市食料農業協同組合」と掲げ各施策を推し進めているが、今次基本計画を礎として行政機構とJAとが手を取り合い、農業と農村を守り育むような未来図を願うばかりである。
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