JAの活動:農協時論
【農協時論】視界不良 農山漁村を疎かにして「地方創生」できる筈ない 十勝の農家・歌人 時田則雄2021年5月7日
日本農業はいま大きな曲がり角にきているのではないでしょうか。地域経済の要である農業が元気になることが地域そのものを活性化していくことになるといえます。そしてそれを中心的に支えていくのが農協組織だといえます。そうした農協組織のトップや生産現場の農業者の方がいま何を考え、今後どのようにしていけばいいのかなどについて自由に提起していく場として「農協時論」を設け、定期的に連載していくことにしました。
第2回の今回は、北海道・十勝の農家で歌人でもある時田則雄氏です。
時田則雄氏
今日は4月22日。朝、妻が居間の窓の近くのコブシの梢(こずえ)を指し示しながら、「あら、コブシの花が開きそうだわ」と言った。私は「ほんとか」と言いながら梢を眺めたら、大きくふくらんだ蕾(つぼみ)が輝いていた。「おとといは21度もあったからかしら」と妻。「例年だとよ、コブシが咲くのは5月に入ってからだけどな」と私。
近くの畑で赤いトラクターがゆっくりと動いている。娘婿がニンジンをまく畑にロータリーハローをかけているのだ。その面積は約6ヘクタール。「順調に進んでるな」と思いながらしばらく眺めていたら、風が吹き始めた。
その風はだんだん強くなり、畑は表土が飛ばされて視界不良。まるで砂嵐。トラクターは完全に見えなくなってしまった。十勝の春の大地はときどきこのような強風にさらされ、作物が被害をこうむることもあるのだ。
視界不良と言えば、就農したころのことを思い出す。私が就農したのは1967年。そのころの十勝平野は経営規模の拡大(小農切り捨て)などを謳(うた)った農業基本法の影響をもろに受け、離農の嵐に吹き曝(さら)されていた。
離農せしおまへの家をくべながら冬超す窓に花咲かせをり 『北方論』
私の住む地域でも機械化による膨大な負債を抱え、離農する人が相次いだ。私はそうした仲間の土地を買い、「規模拡大レース」を続けながら今日に至っているのだが、相変わらず農業の先行きは不透明。視界不良だ。
就農して55年近い歳月が流れるが、この間における農業政策をひと口で言うならば「NO政」。政府は旧農林省の時代から今日に至るまで農業つぶしをしてきたのだ。「出稼ぎ農民」「三ちゃん農業」「離農促進」、農村の「過疎化」「花嫁不足」「後継者不足」「食料自給率38%」......。このような深刻な事態を招いたのだから、「NO政」ということば以外は浮かんでこないのだ。
「地方創生」は安倍晋三前内閣の政策の目玉のひとつであったが、菅義偉内閣もこの政策を引き継いでいるのだろう。私はこの政策には大きな矛盾が潜んでいると考えている。それは農山漁村を破壊し、農山漁村を疎かにしていて「地方創生」などできる筈(はず)がないと言うことだ。
つい最近、菅首相は米国のバイデン大統領と会談し、日米同盟の堅持を確約したというが、農業問題には触れなかったようだ。つまり今回の訪米は恒例の表敬訪問だったのだ。
そうした状況のなか、安達英彦・鈴木宜弘著『日本農業過保護論の虚構』(筑波書房)を読んだが、私は次のようなくだりに衝撃を受けた。ウイスコンシン大学の教授が農業経済学の講義で次のように語ったというのだ。
「米国の農産物は政治上の武器だ。(略)たとえば東の海の上に浮かんだ小さな国はよく動く。でも勝手に動かれては不都合だから、その行き先をフィード(feed)で引っ張れ」...。
日本人の胃袋の中味の62%は輸入品。日本の農業は取り返しのつかない事態に直面している。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日