JAの活動:農協時論
【農協時論】「安上がり」政策の高いツケ 村上光雄 (一社)農協協会会長2021年7月19日
「安物買いの銭失い」とはよく言ったもので、我が家でも安いからと思って買った水稲用育苗箱の底が歪んで使い物にならない。品物だから「まあ、安かったのだから」とあきらめたり、買い替えればことはすむ。しかし、一国の政策となるとそういうわけにはいかない。それは国民の「生活」「命」にかかわる問題であり、後戻りはできないし、やり直しができないからである。
私は「持論」として、我が国の戦後農政は今日に至るまで「企業中心の安上がり農政」であると指摘してきました。あの高度経済成長期は「安い」労働力確保に向けて農業者を選別、切り捨ててきた。その後は自動車輸出を優先し、「安い」食糧確保を名目に農業を犠牲にし、農村を荒れ放題にして海外農畜産物輸入完全自由化に向けて突っ走っている。その結果、食料自給率は38%まで低下し耕作放棄地が拡大し、中山間地域の農業農村は確実に崩壊、消滅しつつある。幸い今回のコロナ禍では食糧不足にはならなかったものの、いずれ歴史的に大きな高いツケを払うことになるのは必然である。
一方コロナウィルスは二年目に入っても変異株の拡大などで、緊急事態宣言発令、解除の繰り返しで一向に収まらず、そのままオリンピックに突入し残るはワクチン頼みとなってしまった。ところがそのワクチンも海外頼みで思うに任せない。ここにきてようやく国産ワクチン開発の情報が流れてきだしたが、時すでに遅し、我が国がワクチン後進国であることに変わりはない。それではなぜ我が国は先進国でありながらこれほどまでに諸外国に遅れをとったのか。その原因は、基礎研究分野は進んでいるが臨床研究分野が遅れていることなどが指摘されている。しかし私はそれだけではないと思う。
かなり前のことで何年であったか定かではないが、我が国大手の製薬会社が医薬品開発に莫大なコストと時間がかかることから、海外製薬会社との業務提携をドンドンすすめていった。私はその時ふと、「安上がり」を理由に国民の命にかかわる医薬品開発を投げ出し、安易に海外依存していいのだろうか? と疑問に思った。そして今、その高いツケを、ワクチン後進国、ワクチン不足ということで払わされているような気がしてならない。
それではなぜこのような安上がり、安ければよいという失敗が繰り返されるのか。その根本原因は、基本的な国益を無視した、過度な自由主義経済によるものと言わざるをえない。「安ければ安いほど良い」「安ければどこからでも買えばよい」「手間暇かけるより安易な方がよい」「今だけオレのところだけよければそれでよし」といった考え方が招いた当然のツケである。
このように考えたとき、私には二つの気掛かりなことがある。
一つは農業技術開発である。安倍さんをはじめ菅さんも日本の農業技術は世界一だと思い、そのように言っている。しかし私は2015年の米国農業を視察して、大学と現場の農場が緊密な連携を取りながら農業技術開発に取り組んでいる実態を見て唖然とした。これでは日本は取り残されると思った。何故なら我が国では行政改革により地方の農業試験場が統廃合され、縮小、切り捨てられていたからである。じかも「輸出拡大、輸出倍増と言っている」のにである。
二つ目は畜産飼料である。私も肥育経営をしていた時、出来るだけ自給飼料を求めてビールカス、酒屋の米ぬか、オカラなどを与えたり、稲わらと堆肥の交換をしていた。しかしそれにも限度があり、心ならずも輸入飼料に頼らざるを得なかった。そのような状況は今もあまり変わっていないように思える。せめて国産飼料米の生産だけは財務省の反対があろうが、将来に向けてしっかりと位置づけ制度化しておかなければいけないと思う。
以上「安上がり」についていろいろと考えてきたが、このことはよそ事ではなく農協界にも言えることである。組合員あっての農協だと言いながら、コロナ禍にかこつけて「組合員とのコミュニケーションがおろそかになってはいないか」をチェック・総点検すべきであると思う。そして安上がり、安易に流れると必ず高いツケがくることを肝に銘ずべきである。持続可能な社会、持続可能な協同組合のためにも。
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