JAの活動:農協時論
【農協時論】和の共生社会―自然と共に歩む 協同組合の出番 古村伸宏・日本労働者協同組合連合会理事長2021年12月16日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会の古村伸宏理事長に寄稿してもらった。
近年「多様性」という言葉が盛んに取り上げられ、違いを認め合い生かし合うという価値観が問われている。協同組合においても、異なる種別の協同組合の連携が、日本協同組合連携機構(JCA)の発足を契機に進み始めており、これも「多様性」を価値とする流れと言える。
一方、厚生労働省は「地域共生社会」というビジョンを打ち出し、環境省は「自然共生社会」というコンセプトを発し、「共生」も重要なキーワードとなっている。前者は福祉の文脈において、人々の関係のあり方や縦割りの政策・制度・事業を超えるものとして「共生」を強調し、後者は自然・生態系の文脈から、人間を含む生き物全体の関係のあり方として「共生」を重視している。アプローチは異なるものの、両者は「コミュニティー」のあり方という点で重なっている。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、人間社会のあり方と、人間と自然の関係の両面から捉えられる。この背景には、人間の社会経済活動が自然の「理」を踏み越え拡大してきたという、人間の生命活動の暴走がある。気候危機はその最たる結果と言える。人間が人間のことしか考えない風潮に支配される私たちの日常の価値観。食べ物の元はすべて「命」であることすら日常感じない私たちは、様々な生き物の命とそのつながりに無頓着となり、人間の命までも軽視する価値観を強めてしまったのではないか。広がる格差や孤立、分断や排除・差別などの人間関係を含む、生き物の命のつながりを破壊する人間の社会経済活動を省みるべきだ。
その反省を含意するビジョンとしての「共生」だとすれば、大きな価値観の転換が問われる。そして「共生」を実現する最も中心的な価値観として「多様性」がクローズアップされているとしたら、「共生」と「多様性」を切り離さず、結んで捉え評価する努力が求められる。
今日のSDGsや気候危機を語る上で、1992年「環境と開発に関するリオ宣言」は有名であるが、この宣言を発した「国連地球サミット」では、リオ宣言を実践するための「アジェンダ21」、「森林原則声明」「気候変動枠組条約」そして「生物多様性条約」も併せて合意している。しかし、「生物多様性」についての認識は遅れをとっていると感じる。日本においては、2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議を契機に、「生物多様性国家戦略(2012~2020)」を定め実行してきたが、その成果は必ずしも芳しくない。
しかし他方で、コウノトリやトキの野生復帰など、「生物多様性」への気づきや価値観は、子どもたちがフロントランナーとなり、様々な体験や体感から始まり高まっている。また「和食」のユネスコ無形文化遺産登録を追い風に、食をはじめとする「和の文化」を再認識する動きもある。島国日本の文化は、自然への畏敬と畏怖を土台に培われてきた「和」が根底にあると言われる。こうした営みや見直しが「共生」の礎となって広がる時、「多様性」に価値を置く日本らしい「和の共生社会」の実現が展望できる。そして、人間の協同の営みと、協同組合の経済活動の地平が見えてくるのではないだろうか。
「協同」は、「多様性」と「共生」を実現するための大切な価値観を体感し体現するものだとすれば、これからの「和の共生社会」のフロントランナーは「協同組合」だと言える。そのための自己変革の主体は、一人ひとりの組合員とそのつながりであり、舞台は地域・コミュニティーである。日本の地域・コミュニティーにしっかりと根を下ろし、自然とともにある農と食の営みを通じて「和の文化」を守り育ててきた農協には、組合員の「協同」を通じて「和の共生社会」を実現することが今こそ大いに期待される。私たち労働者協同組合も、「協同で働く」営みからコミュニティーを再形成し、「和の文化」を豊かに育みながら、「和の共生社会」の実現に貢献していきたい。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】とうもろこしにアワノメイガが多誘殺 早めの防除を 北海道2025年7月1日
-
【人事異動】農水省(7月1日、6月30日付)2025年7月1日
-
農水省 熱中症対策を強化 大塚製薬と連携し、コメリのデジタルサイネージで啓発2025年7月1日
-
作況指数公表廃止よりもコメ需給全体の見直しが必要【熊野孝文・米マーケット情報】2025年7月1日
-
【JA人事】JA岡山(岡山県)新会長に三宅雅之氏(6月27日)2025年7月1日
-
【JA人事】JAセレサ川崎(神奈川県)梶稔組合長を再任(6月24日)2025年7月1日
-
【JA人事】JA伊勢(三重県) 新組合長に酒徳雅明氏(6月25日)2025年7月1日
-
米穀の「航空輸送」ANAと実証試験 遠隔地への迅速な輸送体制構築を検証 JA全農2025年7月1日
-
JA全農「国産大豆商品発見コンテスト」開催 国産大豆を見つけて新商品をゲット2025年7月1日
-
こども園で食育活動 JA熊本経済連2025年7月1日
-
産地直送通販サイト「JAタウン」新規会員登録キャンペーン実施2025年7月1日
-
7月の飲食料品値上げ2105品目 前年比5倍 価格改定動向調査 帝国データバンク2025年7月1日
-
買い物困難地域を支える移動販売車「EV元気カー」宮崎県内で運用開始 グリーンコープ2025年7月1日
-
コイン精米機が農業食料工学会「2025年度開発賞」を受賞 井関農機2025年7月1日
-
「大きなおむすび 僕の梅おかか」大谷翔平選手パッケージで発売 ファミリーマート2025年7月1日
-
北海道産の生乳使用「Café au Laitカフェオレ」新発売 北海道乳業2025年7月1日
-
非常事態下に官民連携でコメ販売「金芽米」市民へ特別販売 大阪府泉大津市2025年7月1日
-
農作物を鳥被害から守る畑の番人「BICROP キラキラ鳥追いカイト鷹」新発売 コメリ2025年7月1日
-
鳥取県産きくらげの魅力発信「とっとりきくらげフェア」開催 日本きのこセンター2025年7月1日
-
鳥インフル 英国チェシャ―州など14州からの生きた家きん、家きん肉等 一時輸入停止措置を解除 農水省2025年7月1日