JAの活動:農協時論
【農協時論】ムラの衰退 一人前の国なら農業に力を注ぐ 歌人・時田則雄氏2024年5月28日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は、北海道十勝在住の歌人の時田則雄氏に寄稿してもらった。
歌人・時田則雄氏
私は敗戦の翌年1946年、十勝の農村で生まれた。通っていた小学校の運動会は地域を挙げて盛大に行っていた。部落対抗リレーは大人の種目で、選手は子どものように夢中になって競った。観客席では一升瓶を傍らに突っ立て、酔顔を光らせて応援する者もいた。敬老会も盛んだった。会場の体育館の舞台では6部落の婦人会の面々が唄ったり踊ったりして老人たちを楽しませていた。その頃のプログラムが残っているが、演目は36だったので午後も行われていた。祭りや盆も盛んであった。ちなみに1960年の十勝の農家戸数は2万3656戸であったが、19年後の79年には1万1923戸に激減している。原因は61年に施行された経営規模拡大、小農切り捨てなどを盛り込んだ農業基本法による。
今日の十勝の農家戸数は5266戸。平均耕作面積は48・3ha。昨年のJAの取扱高は3573億円。食料自給率は1212%。産出額は全国の12%を占めており。農業王国と呼ばれる所以である。しかし、肥料や飼料などの高騰が経営を圧迫しているので一概に喜んではいられない状況である。これは十勝の農業に限ったことではあるまい。
耕作面積が広いということは機械を効率的に使うことができるのだが、しかし、一歩間違うといわゆる「機械化貧乏」に陥るおそれがあるのだ。それは私が身をもって体験している。今後も離農にともない経営規模の拡大は続くものと思われる。私も規模拡大をしながら今日に至っているのだが、時どき立ち止まって思うことがある。このまま拡大が進行するとムラはどうなるのだろうかと――。ムラが単なる生産の「場」となっていいのだろうかと――。規模拡大が進むということ、つまり、ムラの人口が減るということなのである。日本の文化の源はムラである。人の住まないところでは文化の灯がともらないのである。
「地方創生」は安倍内閣が掲げた政策の一つの柱であり、ムラの活性化を推し進めることだったが、農業者の高齢化、耕作放棄地の増大、後継者不足、貿易自由化による食料の輸入など、いまもなおムラの活性化につながる要素は見当たらない。自民党政権はまことしやかに「農は国の基」とはいうけれど、どこから眺めても農業の明るい未来は感じられない。ちなみに今日の日本の農家戸数は2000年には312万であったが、20年には175万戸に激減。「農地面積も1961年の609万㌶をピークに減っており、2023年には430万㌶まで落ち込んだ」(日本農業新聞)
「地方創生」はムラに多くの人が住み、農地を減らさないことによって実現するのだが、歴代自民党政権は食料自給率をアップするといいながら際限なく自由化を推し進めている。農業つぶしをしている。いまや「地方創生」は死語に等しい。このような状況が続くといずれ日本のムラは崩壊するであろう。仮に日本が紛争に巻き込まれたとしたならば、日本人はたちまち飢餓に陥るだろう。
岸田文雄首相は軍事費に43兆円充てるというが、戦争によって平和をもたらすことはできない。それは歴史が証明しているではないか。いま政府がやらなければならないことは、軍事費を削減し、その分を農業復興に充てることだ。自民党の面々は、一人前の国はいずれも農業に最大限の力を注いでいるということを知るべきである。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日