JAの活動:未来視座 JAトップインタビュー
「農業者のための農協」貫く(1)JAみっかび組合長 井口義朗氏【未来視座 JAトップインタビュー】2025年3月4日
「もうかる地域農業をマネジメントする協同組合」を実践する静岡県のJAみっかび。「三ヶ日みかん」は全国ブランドとして名を馳せる。その裏には計り知れない先人の苦労もある。組合長の井口義朗氏に銘柄産地への思いや方向を聞いた。インタビュアーは文芸アナリストの大金義昭氏。
#先人の努力肝にブランドを磨き
JAみっかび組合長 井口義朗氏
大金 「三ヶ日みかん」のブランド産地づくりに挑んできたJAみっかびのスローガンは「もうかる地域農業をマネジメントする農業協同組合」です。その知名度を確立し、守り続けてきた歴代の組合長さんたちはどんなタイプなんですか?
井口 それぞれです!(笑)。私は1959年の生まれですが、三ヶ日農協は「再建整備法」が公布された51年に経営破綻しています。役所からの天下りだった組合長の経営手腕が不足していたようで、統制経済から自由経済に移行する時代の波にのまれ、「貯払い停止」に追い込まれました。
「"おらが農協"がこれじゃいかん!」と農協青年連盟を立ち上げた若い人たちが、若手職員と手を組んで寝ずの再建に取り組みました。女性たちも貯金を呼びかけ、破綻から7年目には全国表彰を受けるまでになりました。私が生まれる前の話ですが、そうした歴史が語り継がれ、「農協は組合員のもの」「役員任せには出来ない!」という意識が定着してきました。
大金 背景には、商人資本とのしのぎを削る競争が?
井口 はい! 潤沢な資金を持ったミカン商人の「山買い」や「畑買い」が横行し、農家は良いものを商人に売る。買い取り販売をしていた農協には悪いものが集まって損金が出る事態に見舞われました。「天秤(てんびん)販売」や「日和見販売」がまかり通る中で60年に組合員有志が三ヶ日町柑橘(かんきつ)出荷組合(通称マルエム出荷組合)を結成し、「完全委託販売」に挑みます。
当初は1600~1700戸のミカン農家の1割にも満たない154人でスタートし、名古屋や北陸の市場に出荷していましたが、買いたたかれて苦戦する。当時の出荷組合長が「私財を売り払って出資金を返すから組合をやめよう!」と言い出しましたが皆で止め、清水の舞台から飛び降りるつもりで「東京に送ってみよう!」と決断。これが当たって一躍トップの高値をつけ、何とか息をつなぎました。それから3~4年くらいで出荷組合員が1300人くらいに増えた。
出荷組合がかじ取り役
出荷組合は任意団体で、生産部会と同じです。出荷組合が「前輪」のかじ取りをし、農協が「後輪」を駆動するといった態勢をとり、生産者主体の販売・指導体制で市場と直接取引し、農協は出荷組合の事務局を兼ねながら販売業務を担当しています。
文芸アナリスト 大金義昭氏
大金 「1個たりとも商人には売らない」という出荷組合のおきてがあった?
井口 厳しい品質管理を農家同士で徹底し、ブランドを維持していくためにも「全量出荷、横流しは除名」という根幹が引き継がれてきました。すべては出荷組合に結集する農家の話し合いで決まります。ただ、公取委の調査が昨年あって、「全量出荷」の文言は削りました。対応を誤ると過去の歴史を繰り返し、「商人にも売ればいい。良くないミカンも売ればいい」となりかねません。
農協は厳選して良いものだけを「三ヶ日みかん」として正直に販売しますが、商人は品質が下回るミカンも売るでしょうから! そうなるとブランドが毀損(きそん)され、クレームだけが農協にきて、商人が漁夫の利を得ます。
当初は、三ヶ日町にも早生・普通・晩生といった大くくりでたくさんの品種がありました。しかし、生産過剰による産地間競争の激化や牛肉・オレンジ自由化の合意、食の多様化などを契機に、88年に「選択と集中」を図る生産・販売戦略を決定し、早生以外は糖度の高い「青島温州」に特化して、在来種のすべてを96年までに一掃しました。その結果、年内から年明けまでの数カ月間を1品種でカバーするだけでなく、市場評価の高い安定的な価格を維持することが出来るようになったのです。
大金 農協組合長はどんな役割を?
井口 ボトムアップが強い出荷組合があり、どちらかというと「名誉職」かな!(笑)
大金 ご謙遜でしょ!(笑)
井口 JAみっかびの歴史に貢献した中川晋さんが参事の時には、それに勝るとも劣らない強力な組合長が担ぎ出されたこともありました。イベントの夜店をめぐる反社会勢力の縄張り争いにたまたま巻き込まれて殴られながら、まったく怯まなかったのは語り草です!(笑)。組合長はそれぞれに個性的でしたが、ミカンのブランド産地を守り、「農業者のための農協」を追求する姿勢は一貫しています。
三ヶ日というところは本当にミカンが合っている!
大金 「富士には月見草が良く似合う」という太宰治の言葉があるけれど、「三ヶ日にはミカンが良く似合う」と?(笑)
井口 温暖で水はけのよい南斜面の気候も地質も人柄も! 細々したことが好きじゃない!(笑)。産地の維持に、巳(み)年はさらなる脱皮の年になります。
大金 脱皮にもエネルギーが要る!(笑)
井口 私は酒などを酌み交わしながら、親や農協などを介して人を知り、地域の歴史を教えられてきました。その人たちが元気でいるうちは何とかしてくれますが、今は"おらが農協"の継承がなかなか難しい。農協も選択肢の一つと見なして若い世代はシビアです。JAみっかびは生産資材などを定価で売り、事業分量で配当する。後払いになるわけですが「何でこんなに高い! 今ここで安くしろ」と言われる。私たちの世代は"ミカンばか"と自他ともに任じるほどミカン一途でしたが、若い世代は面白みを感じてはいるようだけど、割合に冷めています。
大金 時代の変化ですか?
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