JAの活動:創ろう食と農 地域とくらしを
都市にこそ農業 地域豊かに 須藤正敏・JA東京中央会・連合会会長2014年8月4日
・東京野菜を振興
・まず手取り向上
・女性が働きやすく
・職員に働きがい
・農家と地域ともに
災害の際の避難地、あるいは憩の空間として、都市にこそ農業・農地が必要だ。JA東京中央会の新会長に就任した須藤正敏氏はこのことを強調する。
組織理念、株式会社と違う
――これまで東京のJAグループは、都市の農 業と農地を守るための運動を展開してきました。 大都市東京のJA中央会会長に就任され、都市農業についての考えを聞かせてくだい。
政府は農業と農協への批判を強めていますが、3大都市圏でみても、都市農業は都市の住民から高く評価されています。この秋にも都市農業基本法の成立が見込まれていますが、都市の農家、農協にとっては歓迎するところです。都市農業は相続が発生すると農地を手放さざるをえないことが多く、相続税納税猶予など、もっと配慮していただきたい。都市に農業があってよかったと言われるようにしたいと思っています。
◆東京野菜を振興
いまや東京の野菜はブランド品です。地元でとれた野菜を食べていただくよう、それに応じた農協の組織づくりが必要です。その一つがほとんどの農協が持つ直売所です。農協が農産物を集めて直売するほか、学級給食やインショップなどでも販売しており、個人で販売するよりは、やはり農協へ持って行った方がよいと言われる仕組みをつくろうと思っています。
野菜中心ですが、東京には果物や花き、植木などもあります。今の若い人はネットで情報を得ています。IT(情報機器)を使ってこの仕組みを取り入れたいと思っています。それによって都民の農業・農協に対する理解を醸成するのです。
――出身JAの東京むさしでも、TPP(環太平洋連携協定)参加反対の運動などを含め、農業理解のための広報活動を積極的に展開してこられました。
JA東京むさしの広報では2か月に1回、5大新聞にチラシを入れています。地元野菜のレシピや採れたての野菜、新鮮な花の販売などの情報を載せていますが、大きな反響があります。こうした都民の理解醸成は、気長にコツコツやって、じわじわと浸透させるものだと思います。
◆まず手取り向上
都市農業を守るため大事なことは、なんといっても農業収入を増やすことです。植木農家の経験からも、農家は売上げが伸びると元気が出るものです。組合員が作ったものがどんどん売れる状態をつくるのが農協の使命だと思います。
――具体的に大消費地である東京の農業についてどのようなビジョンを描いていますか。
JA東京むさしの農産物直売所は20代、30代の青年グループが、とにかく農産物を集めて売ってみようといって始まったものです。こうした若い人を元気づけるためにも都市農業のビジョンを示す必要があります。
すでに青壮年部や女性部が取り組んでいますが、小学校への出前授業や体験農業などを通じて、食べ物はスーパーでなく、畑や田んぼでできるのだよというようなことを教える食農教育の場であり、同時に多面的機能の一つである防災の機能などを知ってもらうことが大切です。
2011年3月の東日本大震災。だれも予想しなかったことが実際に起こりました。1922年の関東大震災を経験した人はもうほとんどいません。農地があることは、避難場所として、また防火壁として、自然災害を防ぐ大きな役割を果たしています。避難場所にもなる都市の農地を維持するには、農業が頑張らなければなりません。
――東京の中央会の会長になって、全国にどのようなことを発信していきますか。
例えば農産物の直売所。人気があり、東京の生産だけでは賄いきれず、また東京ではミカンやリンゴなどはほとんどとれません。ここはやはりJA間の連携で、品物を融通し合う仕組みが必要です。東京のような大都市に農業は必要ないという人がいますが、消費者に一番近いのは東京です。直売所による流通を販路の一つとして認識してもらうことが大事です。
農業祭などでは、青壮年部間の連携で、新潟からきのこや米、長野からリンゴなどがきます。こうしたことができるのが協同組合のよいところです。JAの青壮年部は次の世代を担う大事な組織です。女性部もそうです。
(写真)
避難場所にもなる都市農地の維持には農協ががんばらなければならない
◆女性が働きやすく
JA東京むさしでは今年度女性理事が5人になりました。女性の職員も多くいます。経営の一員として、よりよい農協にするため頑張っていただきたい。男性の管理職には言えないが、女性の役員には言えることもあり、女性の働きやすい職場環境をつくることもできます。経営のなかにも女性の役員が入ると、男性の職員も変わります。女性の声をしっかりと協同組合運動に取り入れていきたい。
――政府・規制改革会議の農協批判に対し、JAグループは自ら改革することを打ち出していますが、東京ではどのように取り組みますか。
東京のJAグループには4000人余の職員がいます。その一人ひとりが組合員から給料をいただいています。役職員全員が当事者意識をしっかり持ち、課題を認識して、第一段階として東京JAグループとしての改革の方向をまず持ちたいと考えています。そして組合員からの意見を受け止め、JA改革に反映させていきます。
私たちは農業に関わる農協で働いており、単なるサラリーマンとは違います。このことを自覚していただきたい。世界の人口はやがて90億人になると言われます。世界的に砂漠化が進む中で、年間2000?3000mmも雨量のある日本で農業を放棄していいはずがないでしょう。そのことを国にも国民にも訴えたい。将来、食料・エネルギー不足が心配されるなかで、政府のやっていることはグローバル企業の投資をいかに日本に呼び込むかであって、国民の生活を考えてのことではないように思います。企業だけが儲かる政治はおかしい。国民のみんなが豊かになる政治であってほしいです。
――農業サイドからのこうした提言が一層重要になると思いますが、それを担う職員には何を求めますか。
気が利く職員であってほしい。組合員農家を訪ねたとき、「なにか御用はありませんか」、この一言が出るかどうかです。これには日ごろの職場の雰囲気が重要です。何事も上司や同僚に自然に相談できる風通しのよい職場づくりを行わなければなりません。
◆職員に働きがい
いま各農協で、「人づくりプラン」の作成を進めていますが、重要なことは、自分の将来が展望できるような人事、教育の制度をつくることです。
年齢や経験の段階に応じて勉強するべきことがあります。これをはっきりさせることが職員の働き甲斐につながるのではないでしょうか。
――農協は一般の企業と違います。協同組合 であることをどのように伝えていますか。
教育はまさに協同組合の1丁目1番地です。農協は株式会社ではないのです。相互扶助の精神にもとづき、みんなが豊かになることを目的とする組織です。このことを基本に、組織的、戦略的に職員組合員教育を行わなければなりません。
株式会社とは農協は組織理念がまったく違います。利益優先の新自由主義では、農協とかみ合うわけがなく、格差が広がる社会が長続きするとは思えません。
協同組合は教育に始まり、教育に終わるといいますが、まさにその通りです。JA組織への批判が強まると、相撲のシコと同じで、協同組合の原点から勉強し直さなければならないのではないでしょうか。ピンチをチャンスに変える機会でもあります。
◆農家と地域ともに
今の時代に生き残るため、農協も進化しなければなりません。ただ、私たちの目指すところは組合員農家と地域が共に豊かになることであって、JAだけが豊かになることではありません。その意味でどう改革するか、組合員や職員の積極的な意見を期待しています。
――普段、どのような心構えで業務に携わっていますか。
全ての人を平等に扱い差別しないという意味の「一視同仁」を心掛けています。物事が順調に進む時は、調子に乗らないよう入りたての新人からベテラン職員まで率直にモノを言っていただきたい。誰でも入れるように、会長室はいつでもオープンにしています。
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