JAの活動:第27回JA全国大会特集 今、農業協同組合がめざすこと
【JAの現場から・提言】JA三次(広島県)村上代表理事組合長 開かれた攻めの農協づくりを!2015年9月28日
大地ふみしめ難局を打開しよう
特集号のテーマは「今、農業協同組合がめざすこと」とした。その実践のための基本姿勢を村上光雄JA三次代表理事組合長は「独立心と自信と誇り」だと強調している。農協づくりの現場から提言してもらった。
◆運動体験から考える
はっきりと言って、今回の規制改革、農業改革の名を借りた「JA改革」は、農協という「樽」の中を「汚れた他人の手」によりかき回された気がしてならない。しかしその一方では、戦後農協が誕生して70年、幾多の試練を克服して今日を迎えたとはいえ、農協という「樽」の中に安住してきた感もいなめない。そこで第27回JA全国大会という大きな節目を迎え、農協の立つ位置、存在意義そして今後の方向性について私の半世紀に及ぶ農協運動の体験を踏まえて冷静に考えてみることにする。
◆農協は絶対に必要不可欠
まずグローバルな視点から見てみると、国連は2012国際協同組合年、2014国際家族農業年と食糧の安全保障と社会の安定化さらに持続可能な社会のためには協同組合、家族農業が重要不可欠であるとしている。ところが我国政府はこれらのことに何の反応も示さなかったし、国民も飽食ボケで無関心である。
しかしながら世界は新自由主義経済の嵐が吹き荒れ、所得格差、生活格差は拡大するばかりでいつどこで暴動が起きても不思議でない状況となっている。そのことは我国にとっても例外ではなく所得格差は生活格差、教育格差へ拡大し、東京一極集中は地方格差へと発展し、憲法で定められた基本的人権、生存権も犯されつつある。また資本は本源的に暴走するものであり、格差を拡大するものであるとするならばそれを修正しカバーするシステムが必要である。それが内橋先生の言われる「共生セクター」であり我々地域農業協同組合の出番なのである。
また農業振興についてもそれぞれの地域において農協が行政と一体となり農政の一端を担い協力してきた。そして農業指導では行政改革で合理化、縮減された農業改良普及事業の補完をし、いつの間にか現場の農政事務から生産・販売の全責任を担うことになってきた。
にもかかわらず政府は農業衰退の原因は農協だと責任転嫁をし、自らの戦後農政の総括も責任も明らかにしない。まったくもって腹立たしいことであるが、そのことは今回の官制JA改革に対する組合員の「農協がなくなったら誰が我々の面倒をみてくれるのか!」といった悲痛な不安の声からも充分察知できるところである。
このように我々の農協は現場において組合員と地域を守るため必死になって活動してきたしこれからも地域にとって必要不可欠な存在として自信と誇りを持って活動し続けていかなければならない。
◆一歩踏み出す勇気を
さらに我々の地域総合農協はICA(国際協同組合同盟)大会でレイドロウ博士によって将来の協同組合のあり方として高く評価されているところであり、東アジア地域においても地域振興システムのモデルとして位置づけられている。そのような我々の農協が絶対に後ろ向きになることは許されないし、前向きに攻めていかなければならない。
そのためには「樽」の中から一歩踏み出す勇気が必要である。私はこれまで農協組織の三つの「甘え構造」を指摘してきた。少し状況は変わったかもしれないが、一つは組合員は農協を利用するのがあたりまえ、許してもらえるだろうという役職員の組合員に対する甘え。二つは単恊は県連が何とかしてくれるだろう、県連は全国連が何とかしてくれるだろう、全国連は自己資本増強時のように単恊・県連が何とかしてくれるだろうとお互いにもたれ合い傷口をなめあっている甘え。三つは全体として農協は潰れないだろう、誰かが助けてくれるだろうという甘えである。
おたがいに胸に手をあてて考えてみてほしい。誰も「絶対にそんなことはない」と言い切れないはずである。言い切れたとしても外から見れば農協という「樽」の中でお互いにもたれあい甘えあって、外に出ようとしないし外からも入らせない特別な組織として見られているのである。そのことは今回の官制JA改革における国民の反応にも表れている。TPP反対など強力な政治活動を展開してきたことも影響しているかもしれないが、大勢としては米価闘争時のような圧力団体、開かれていない特別な組織とみなされ、実態も内容も分からないまま、規制改革、JA改革おおいに結構、ドンドン進めるべきとなったように思える。というよりはむしろ官邸はそのことを見透かして攻撃をしかけてきたという方が正解であろう。
こうした我国の農協に対する反応はヨーロッパの協同組合への反応より差があるように見受けられるし、我国の協同組合にとっても見過ごすことは出来ないことである。
◆われわれから仕掛ける
まず「樽から出でよ」である。
その第一は役職員が地域の諸活動に積極的に参加し地域住民とのつながりを深めることであり、トップは経済団体などの活動に積極的に参加し異業種との交流を図ることである。そうすれば地域のそして異業種の生の情報を得ることが出来るし、農協への反応を聞くことも、こちらから農協の話をすることも出来る。農協の理解をすすめ開かれた農協をつくるには我々の方から出かけ、仕掛けていかなければならない。
第二は現在取り組まれている全国統一広報である。ここはやはり全中が調整機能をはたし、内容をより充実させ農協の活動実態をよく知ってもらい国民理解を促進することである。
第三は形骸化した組織討議を見直して消費者モニターなどによる食と農にかかる意見を聞くとともにJAファンの拡大をはかる。さらに広範な学者研究者の参加による地域総合農協の理論武装をするための取り組みをする。
そして第四は地域によって異なるが身の丈にあった政治活動、選挙活動をする。我々が協同組合組織である限り政党支持、選挙活動には限界がある。政治活動に振り回されて農協本来の姿を見失ってはならない。
◆協同組合の連携も重要
第一は准組合員への対応である。外から言われるまでもなく我々の組織の大問題である。単なるJAファンでなくアクティブ・メンバーになってもらわなければ困るわけで、それぞれの地域でいろんな仕掛けを仕組んでいかなければならない。ともかく積極的に既成事実を積み上げていくべきである。
第二は教育文化活動の充実強化である。地域協同組合としての生命線であり縦割り事業に横ぐしを入れることにもなる。なにより民主的協同組合の役職員、組合員のレベルアップに必要不可欠である。 第三にやはり支店力の強化である。支店は総合事業展開の第一線であり、攻めの活動をしていく出城でもある。そしてなにより組合員の寄りどころであり拠点である。
第四は整促方式の見直しである。整促方式が打ち出されて60年、社会経済情勢は大きく様変わりし、物はあり余り、物流は交通通信網の格段の発展によりいつ、どこでも、すぐに物が手に入るようになってきた。せめて我々の生命線ともいえる共同購入、共同販売が本当に機能しているのかいないのか、機能していないとすればどこに問題があるのか根本から検討し直すべきである。同じ協同組合組織である生協、生活クラブ生協に出来て、我々農協に出来ない訳はない。
第五はその生協など他の協同組合組織との関係である。JC総研はできたが、さらに突っ込んだ連帯、事業連携に発展していない。同じ協同組合の仲間として残念なことであり、もったいないことである。
内橋先生の「共生セクター」が有効に機能し、つながりのある豊かなそして持続可能な社会を築いていくためにも連帯と連携を強めていきたいものである。
◆独立心・自信・誇り
以上、農協法改悪を受け大きな転機をむかえての第27回JA全国大会にあたり期待を込め私の考えをまとめてみた。いずれにしろ我々協同組合は自主・自立の組織である。決して体制におもねるようなことがあってはならない。独立心と自信と誇りをもって、しっかりと大地をふみしめ開かれた攻めの姿勢で組合員・地域にたいして農協は何ができるか考え、実践しこの難局を打開していきたいものである。
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