JAの活動:より近く より深く より前へ JA全農3カ年計画がめざすもの
持続可能な農業生産 農業経営づくりを 営農販売企画部 久保省三部長2016年6月21日
生産から販売まで全農の強み活かして
JA全農はこの28年度からの「3か年計画」を決めた。その内容は「より近く より深く より前へ」をキャッチフレーズに、生産・流通・販売面での今まで以上に深化・拡充した重点事業施策を実行することで「農業者の所得増大・農業生産の拡大・地域の活性化」を実現していこうというものだ。
そこで、実際に事業を担当する各部の部長に、取組みの重点課題を聞いた。今回は久保省三営農販売企画部長にインタビューした。
◇農家手取り最大化へ
――28年度からの「3か年計画」で目指すものは何でしょうか。
27年度までの3か年は、「元気な産地づくりと地域のくらしへの貢献」「国産農畜産物の販売力強化」「海外事業の積極展開」を重点施策として取り組ましたが、JAグループ自己改革の議論もあり、(1)プロダクトアウトからマーケットインへの事業の転換、(2)生産から販売までのトータルコストの低減、(3)多様化する農業者ニーズへの柔軟な対応の3つを柱に取組みを進めてきました。今年度からの3か年計画でもこの考え方は基本的に変わりませんが、それを統合する言葉として「持続可能な農業生産・農業経営づくり」を掲げました。これで3つの取組みのベクトルが統一されたということです。
◇55モデルJAで経営改善を実証
――生産面の取組みは...。
一番大きな課題は、農家手取りの最大化です。それを実現するために、営農販売企画部、肥料農薬部、生産資材部の営農関係の3部共同で、(1)トータルコストの低減、(2)大規模営農モデルによる経営改善、(3)人材育成に取り組みます。そのなかで私たちは、(2)と(3)について重点的に取り組んでいきます。「大規模営農モデルによる経営改善」は、これまでに6JA7経営体で実証してきました。そのなかで、大規模経営において、いろいろなことに手を出し過ぎて、却ってうまくいかず、赤字になっている経営体が多くあることが分かりました。それを経営改善していく手順として、まずは経営あるいは営農そのものをシンプルにして、収支を均衡させる。そのうえで、さらに経営収支をプラスにどう持っていくかを考える。それが大規模営農モデルの経営改善の基本的な考え方だと思っています。
28年度より、全国55JAをモデルJAとして、農家手取り最大化に取り組みます。その中で、各JA管内でモデル経営体を選んでいただき、全国的な実証をおこない、類型化したいと考えています。現在約60の経営体が選定されており、これまで積み重ねてきた経営改善モデルを実証する取組みを始めています。
今回の取り組みの中で新たに取り入れようと考えていることがあります。
一つは、ICT技術による圃場管理システムの導入です。規模の大きな法人・営農組織や生産者では圃場の数が100とか200、多い場合は500あり、これをどう管理して効率的な経営をおこなうかが大きな課題となっています。その前段として極力操作が簡単なシステムを利用して圃場・営農管理の見える化にチャレンジしていきたいと思っています。このシステムはクラウド型ですので、リモートで全国のデータが集まります。
もう一つは、水田の水位を測る水位センサーの導入です。希望される経営体に導入して、水田における水管理システムの利活用を検討したいと考えています。
◆次期につなげる生産対策にもトライ
さらに、次期の3か年に向けた生産対策として「高生産性水田輪作」にトライしていきます。これは、水稲・麦・大豆に野菜を加えて、水田の利用率を向上し、水田営農の収益性を高めていこうという取り組みです、現在、モデル55JAのうち5JAで話を進めています。
高生産性水田輪作では、(1)圃場の汎用化、(2)作業の汎用化、(3)生産の汎用化の3つの「汎用化」を実現したいと思っています。
圃場の汎用化では「FOEAS(フォアス:地下水位制御システム)」を活用して、水田を乾田化して、畑としても使える「水陸両用圃場」にします。
作業の汎用化では、農機の汎用化もありますが、直播のような技術を使って栽培体系を汎用化することを考えています。その結果として、水稲や麦・大豆だけではなく野菜も自由に作れる「生産の汎用化」をしていくわけです。農研機構でもこれまでにいろいろな試験をしているので、連携して実証し、次期3か年計画に繋ぎたいと思っています。
◆消費者が求める新しい商材・提案を
――販売面、マーケットイン対策は...。
全農グループの販売会社6社で、27年度は目標としてきた売上高7000億円となり、これまで進めてきた販売力強化・拡大について一定の成果があがっています。
最近の国勢調査では、調査開始以来初めて、日本の人口が減少に転じ、5年前に比べて100万人減少しました。15年後の2030年には今より人口が1000万人減少し、35年前と同じ人口になるという試算もあります。
一方で、消費はどうかというと、2000年に比べると、総消費量も農業生産額も減っており、品目ごとの1人当たりの消費量も減少しています。1人当たり消費量が減少し人口も減るわけですから、当然、消費全体は少なくなります。
人口が増え消費が上がっている時代と、人口が減り消費全体が下がっていく時代の考え方は自ずと違ってきます。
これからの消費は「マス消費」「デフレ型消費」から、少し高くても自分の欲しいものを求める「選択消費」になると思います。全体のボリュームが下がっていくときに、実需・消費者が求めるものをどれだけ提案できるのか、新しい商材や提案の仕方が、これからますます重要になります。生産から販売までの事業を展開している本会の強みを発揮し、実需から選択していただけるような提案をおこないます。
◆輸出用米専用の産地づくりも
――輸出も大きな柱となっていますね。
人口減少など、国内市場が小さくなっていく局面で、どのように農業生産・農業経営を持続させるか、ということです。一つは、輸入農畜産物の国産化ですし、もう一つの視点は輸出です。全農グループの27年度の輸出額は、米、肉、野菜を合わせて80億円になりましたが、これをこの3か年で120億円まで増やしたいと考えています。
とくに米については、27年度の1700tを3か年で1万tにすることが目標です。そのためには、これまで以上に、現地の食の嗜好性や購買力に応じた提案が重要になります。
そのことを産地の方にも理解していただきながら、多収性の品種や低コスト栽培を取り入れた輸出専用産地づくりを進めたいと考えています。輸出専用産地は27年度に4JAで実施しましたが、今年度からこれをさらに拡大していく予定です。
◇TACで3つの接点づくり
◆技術・ノウハウを継承していく
――大きな柱の三つ目「人づくり」は...。
JAグループの自己改革を議論する中で、多くの方から、営農指導員が減り、営農指導体制が弱くなっているというお話がありました。そのため、、JAの営農指導員・TACの方を対象にして、27年度に野菜栽培の基礎講習を、年間5回のシリーズでテレビ会議システムを中心に実施したところ、850人以上の方が受講されました。これ以外にも4テーマの研修をテレビ会議システムで実施し、合わせて約1400名が受講しています。
この結果から、いまある技術やノウハウの継承について危惧されている現状が分かりましたので、今年度以降も継続して実施していきます。
◆組織内での見える化も課題に
――TACについては...。
生産と販売の仕組みを繋ぐのがTACです。現在300JAで1800人のTACが活躍しています。
TACの今後の活動について、昨年の「パワーアップ大会」で提案したように、①組織での接点、②担い手組織との接点、③生活者との接点、という3つの接点づくりを強化していきます。
TACの取組みを開始してから10年近く経過しましたが、組織のなかで、JAの経営層、関係部署の方にきちんと評価されなければ活動が退化してしまいます。常に組織内での見える化・接点づくりに意識的に取り組むことが必要です。
担い手組織との接点とは、全青協、日本農業法人協会、4Hクラブといった担い手組織ときちんとタイアップしていこうということです。27年度には1000法人に4000回訪問していますが、この取り組みをさらに強化していきます。
生活者との接点づくりでは、「みのりみのるプロジェクト」と連携し、大規模生産者だけでなく、地域の農業を支えている人たちと都市部の生活者との接点を増やしていきます。その一つとして、全農直営の飲食店を、現在の6店舗から10店舗に増やしていく予定です。また、マルシェも東京・銀座三越で11回、JR西日本とコラボして大阪駅で11回、福岡天神で3回実施しました。JR西日本とは連携協定を締結し、マルシェだけでなく、Iターン、Uターン等、地域と都市生活者を結ぶ取り組みも開始したいと考えています。
◇ ◆ ◇
――さまざまな課題がありますが、取り組みのベクトルは、持続可能な農業生産・農業経営をめざし、農業者の手取り最大化を実現していこうということですね。
生産から販売・消費までの全ての機能があるのが、他者にはない本会の強みです。人口が増え消費が増えたときの倍のスピードで市場が縮小するときに、それに対応した的確な提案をしていくことだと考えています。
――ありがとうございました。
(写真)JR西日本との大阪駅でのマルシェ
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