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特集:飛躍する「くまもと農業」

2019.01.16 
【熊本特集(4)】驚異のV字回復を成し遂げた販売戦略 ―その叡智と戦略-【今村奈良臣・東京大学名誉教授】一覧へ

 JA熊本経済連の特集で同行取材をお願いした東京大学名誉教授の今村奈良臣氏に青果物取扱金額でV字回復を成し遂げた経済連の取り組みについて執筆してもらった。特に同氏は経済連の青果物コントロールセンターの機能を高く評価。サッカーに例えて、「JA布陣」とし、得点に結びつけるJAの営農企画と販売部門の重要性を強調する。

◆震災にもめげず

 最新の農業生産統計(平成29年)によれば、熊本県の農業総産出額は3423億円で、北海道(1兆2115億円)、鹿児島(5000億円)、茨城(4967億円)、千葉(4700億円)、宮崎(3524億円)に次いで全国6位の農業大国である。
 しかし、平成28年4月14日から同4月16日にかけては熊本大地震が激発し、農業主産地域であった益城町や西原村をはじめ熊本全域を、さらには菊池市一帯を激震が襲い、農地はもちろん農業施設や水利施設、畜舎などは無残な姿に崩壊した。その激震の姿をここで詳細に表現するのは難しいが、あの堅固な熊本城の天守閣の石垣がもろくも崩れ、いまなお修復の途上にあることを思い起こせば、いかに大地震であったか、農業・農村への打撃がいかに大きかったかが推測できると思う。
 そういう大震災のなかでも、平成28年の農業産出額はなお全国6位にとどまっていたのである。それだけではない。2位の鹿児島や5位の宮崎は、和牛や豚という単価の高い畜産の比重が高いのに対し、熊本は野菜やトマト、スイカなどの相対的に単価の低い野菜や米類が主流であるなかで、全国6位の地位を保っているのである。

 

◆驚異のV字回復

 まず図1を見ていただきたい。これは昭和末期から平成にかけての38年間にわたるJA熊本経済連の青果物(米や畜産物等は除く)の取扱実績の推移である。バブル経済末期の昭和末期から平成初期にかけては実に900億円前後の取扱高を示していたが、その後、急激に低下し、平成17年には実に600億円を割り込むまでに年々急激な低落を示してきている。
 ところが、平成17年を底に反転して若干の変動は示すものの、以後上昇に転じ平成28年には大震災という厳しい打撃を受けながらも800億円に迫る取り扱い実績を示した。この間の脅威とも言えるV字回復はどのようにして実現したのであろうか。
 この謎を解き明かすのがここでの課題であり、また、このJA熊本経済連の推進力に全国のJA関係者、特に販売担当者は学ばなければならないのではなかろうか。

図1 青果物の取扱実績推移(昭和55年度~平成29年度)【熊本特集(4)】驚異のV字回復を成し遂げた販売戦略 ―その叡智と戦略-【今村奈良臣・東京大学名誉教授】

  

◆CCが回復の原動力

 前述のように、青果物の販売額のめざましい回復をみせたその原動力は、JAグループくまもとの青果物コントロールセンターの設置とその企画力・機動力・交渉力の強化にあった。同コントロールセンターは、(1)ワンフロアでの作業、(2)各種情報の共有化、(3)生産・販売戦略づくりを基本に置きつつ、次のような6つの活動を内容とするものである。
 (1)販売起点の作物づくり。各JAの営農指導員が農作物の流通実態、つまり市場や小売店さらに消費者は何を求めているかというような流通実態を把握した上で作物の選択、生産技術の望ましい姿、さらには出荷時期の調整など、一言で言えば、販売起点の作物づくりの指導を徹底して推進する体制を作ったこと。
 (2)安定供給体制の整備。各農協の立地特性を踏まえつつ単位農協の枠組みを超えた取引先と青果物コントロールセンターを核として情報を共有しつつ有利な販売戦略や販売戦術を確立し運用していったこと。
 (3)物流コストの低減。物流コストを低減するために「JA間積み合わせ輸送」などの手段を通じてコスト削減に徹底して取り組んだこと。特に熊本のような大消費地からの遠隔地域では効果が大きかった。
 (4)価格訴求体制の確立。分散した取引先ではなく、遠隔地産地の熊本という立地特性を踏まえて、取引先を絞り込みつつ重点化をはかっていったこと。
 (5)信頼される産地づくり。これにはさまざまな対策があるが、とりわけ重要なことは取引先にとって、「利益商材」をいかに提供するか、さらには消費者を意識して小売り支援対策をいかに講じるか、ということまで、このコントロールセンターで企画力を発揮。これらを通じて信頼される産地づくりに全力を注いだこと。
 (6)感動と満足の提供。そのためになによりも重要なこととは、消費地の市場、消費者などからのクレームに迅速な対応ができるシステムを作っておくことであり、さらにクレームのいっさい来ないような生産物づくりをいかに行うかという指導体制を常々作りあげてきたことである。こういうことを、このコントロールセンターはこれまで全力をあげて取り組んできたという。
 コントロールセンターは一朝一夕にできたものではない。
 図2に示したように、平成20年度にJA阿蘇、JA上益城の2JAが、21年度にはJA熊本市、JA大浜、JA菊池が、さらに22年度にJAたまな、JA熊本うき、JAやつしろが、ついで23年度にJAあまくさ、JA鹿本、JAくまというように、平成23年度に至って県下11JAが参画し、コントロールセンターの取り組みが大きく飛躍することになった。
 この動きと、図1を比べてみてもらうと分かるが、参加JAの増加と青果物販売額が反転し大きく伸びた時期と合致している。つまり、熊本経済連の青果物販売は、コントロールセンターへのJAの参加数の増加とともに伸びていることが分かる。
 このように単位農協と経済連青果物コントロールセンターが一体化することを通じて、図2に示したように実践内容が多岐にわたって豊富になり、販売額が伸びると共に参加したJAも豊かになり、生産者の所得も大幅に向上したことが伺える。

図2 青果物コントロールセンターの取り組み経過【熊本特集(4)】驚異のV字回復を成し遂げた販売戦略 ―その叡智と戦略-【今村奈良臣・東京大学名誉教授】

  

◆サッカー通じ考える

 熊本経済連の進めている販売・指導戦略、ならびにその戦術はサッカーの戦略、戦術を通して考えると良く分かるし、また、応用が効くと思うので本稿のまとめを兼ねて問題提起したい。
 サッカーの基本布陣は図3に示したようになっている。これをJAにおろして考えれば、フォワードは農産物販売部門、ミッドフィールダーは営農企画部門、ディフェンスは金融・共済・資材購買、そしてゴールキーパーは管理、財務・総務等の部門に当たる。
 勝つために重要なことはミッドフィールダー、つまり営農企画部門がいかにうまく球を確保し、フォワード、つまり農産物販売部門に良い球出しを行い、得点につなげるかにある。熊本経済連のコントロールセンターは、実は、このミッドフィールダーとフォワードが一体になって活動し、得点つまり有利販売と組合員の所得向上をめざしているというところにある。
 もちろん、そのためにはディフェンス、つまり資材購買、肥飼料の供給なども巧みに行い、必要な融資なども、ミッドフィールダーにつなげているように思われる。もちろん、ゴールキーパーである管理・財務・総務に当たる部門は、全力をあげて失点を防ぐ。さらにチームを統括し、適切な指示、指令を出し、勝利を目指すべき会長や役員は、これらの動きをしっかりと掌握し、常に打つ手を考えて指揮をとらなければならない。

図3 JA布陣【熊本特集(4)】驚異のV字回復を成し遂げた販売戦略 ―その叡智と戦略-【今村奈良臣・東京大学名誉教授】

(図)サッカーの基本布陣

 

◆欠かせない女性の力

 しかし、サッカーは以上述べたような布陣にもとづく戦術だけでは勝てない。強いチームには常に強力なサポーター、つまり応援団がいる。それも男ばかりではなく女性の応援団の多いチームが勝ってきている。野菜や青果物、あるいは単価の高い優れた作物を作るには女性の力が欠かせない。女性の結束力・活動力の高いチームが勝利を手にしてきている。つまりJAが常に優位にあり、勝利の栄誉を獲得し得るには、JAもサッカーも変りはないと私は考えている。
 それだけではない。常勝チームにはすぐれた監督やコーチがいる。JAにしても経済連にしても同じである。すぐれた経営陣、それを支えるコーチ陣をいかにつくるか。今こそJA全体に問われている課題である。

 

【熊本特集(5)JA菊池】
「くまもと畜産」を牽引 素牛確保で一貫経営確立

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