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特集:第65回JA全国青年大会特集

2019.02.15 
【提言・若き農業者へ】外に開いた活動で農村地域の未来を【金子勝・立教大学大学院特任教授】一覧へ

・特集・農業新時代 なくてはならないJAをめざしてー

 TPP11と日欧EPAの発効というかつてない農産物の総自由化が始まるなか、JA全青協は2月19日から第65回JA全国青年大会を開く。農業と地域社会の持続のために金子教授は「若い世代に課せられた課題はあまりに大きい」としながらも、JA青年部こそが農協運動を引っ張っていかなければならないとエールを贈る。

◆早くも牛肉輸入が急増

【提言・若き農業者へ】外に開いた活動で農村地域の未来を【金子勝・立教大学大学院特任教授】 いま農村で農業の未来を担う若者は、日本にとって食を守る貴重な存在だ。ところが、TPP11と日欧EPAという大型貿易協定の発効によって、農業はかつてないほど厳しい環境に置かれている。政権の中枢は、日本の農業を守る気がないように見える。
 実際、TPP11と日欧EPAの発効で、早くも畜産や酪農に影響が出ている。日欧EPAでは、ソフトチーズなどチーズを3.1万トンの輸入枠を設けて16年目に関税を撤廃。ハードチーズは16年目に撤廃。脱脂肪乳・バターは6年間で生乳換算1.5万トンまで関税を低下させる。
 つぎに畜産を見ても、豚肉は、高価格帯は10年目に撤廃。低価格帯にかける従量税を10年で現行1キロ当たり482円から50円に引き下げ、牛肉は16年かけて従価税を38.5%から9%に引き下げる。チーズや乳清の関税撤廃は生乳の売れ先をなくす。とくに北海道の酪農の被害が大きいが、その分、飲用向けに本州で販売されれば、値崩れが起きる可能性がある。安い牛肉が入ってくると、廃牛が値崩れを起こし、大規模な酪農家は影響を免れない。
 実際、TPP11の発効によって、牛肉の輸入関税は1月を境に38.5%から27.5%に引き下げられたため、輸入が急速に増えている。オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコ、シンガポールの5か国からの牛肉輸入量が前年1月期を上回っている。さらに4月からは関税を26.6%へ引き下げる予定であり、日豪EPAの関税率をも下回る。

 

◆対策になっていない

 事実上の日米FTA交渉が始まったが、パーデュー米農務長官は、日欧EPA以上の農産品関税引き下げを要求している。豚肉・牛肉の関税の大幅引き下げが行われれば、畜産は大きな被害を免れない。ところが、対策は赤字補填の割合が9割になるだけである(家族労働が評価されるのはいいが)。すでに起きているが、畜産農家や酪農家は、経営の見通しがなくなれば廃業に追い込まれていく。
 問題は、畜産農家や酪農家だけに影響は限定されない。政府は減反政策を見直し、飼料米に補助金を出しているが、大量の外国産豚肉が輸入されるので、飼料米の売り先がなくなってしまい、米の対策も成り立たなくなっていく。日米FTA交渉の今後を見なければわからないが、ミニマム・アクセス米枠を増加させる可能性が高い。その「対策」として減反廃止と備蓄米購入が掲げられているが、これも3年後には加工米として放出される。結局、米価の下落を加速させる可能性がある。もちろん、かつてオレンジの輸入自由化でみかん農家が打撃を受けたように、野菜や果物の関税撤廃も、冷凍冷蔵技術の発達を考えると、影響を受けていくだろう。
 一言付け加えるならば、これによって日本の製造業が守られるわけではない。1986年と91年の日米半導体協定以降、スーパーコンピュータ、半導体、ソフトやコンテンツ、液晶、携帯音楽プレーヤー、カーナビなど、世界有数のシェアを誇っていた日本製品が見る影もなく衰退している。いまや最後に残った自動車が事実上の日米FTA交渉で狙い打ちされているのである。政府は、これまでのように自動車を生き残らせるために、農産物を含む他の産業を犠牲にする交渉姿勢を変えようとしているとは思えない。もはや主張できない「外交」では失うばかりなのだ。
 日欧EPAにせよ、TPP11にせよ、これから10~16年かけて完全実施されていく。いまや農業を切り捨てる時代に入ったと言えるだろう。外交姿勢だけではない。これらの大型貿易協定に対して、対策はあまりに不十分だからである。このままでは農業生産と食料自給率はさらに減少してしまう。それでも、一定の年齢以上の世代は、長い間の蓄えがあって、自分の代で農業を店じまいしても生きていけるので、何らかの補償を得れば、離農するきっかけになる。
 だが、若い世代の農業者は、そうはいかない。営農を継続できる保証がなければ、転職していく他にない。根本的対策が求められている。関税で保護しないのであれば、WTOルールに従って所得補償をしなければならない。だが、欧米諸国と違って、そうした政策もない。これらの大型貿易協定以上を要求してくる日米FTAには、国会決議さえない。農業から退出しやすいような中途半端な対策は、若い世代にとっては意味を持たない。若い世代に課せられた課題はあまりに大きいが、JA青年部こそが農協運動を引っ張っていかなければならない。

 

◆地域経済はもつのか

 このままでは、農業生産は打撃を受け、食料自給率も低下を余儀なくされる。しかし、農業だけの問題だけではない。足下を見てみよう。ただでさえ、農山村は少子高齢化の波が押し寄せているが、基盤産業としての農業が成り立たなくなると、地域経済もますます衰退していくことになるからだ。
 どうしたら少子高齢化を食い止められ、地域が活性化するのか。上の世代が真剣ではないとは言わないが、若い世代にとって切実な課題だ。
 地域を見ていると、雇用、医療、教育(高校)が失われると、急速に衰退過程に入る。まず何より、自ら農業者として「儲かる農業」の範を示してほしい。ただひたすら同じ農作物を大量に作っていても、デフレ下では買いたたかれ、「儲かる農業」にはならない。人々のニーズに敏感になり、それを取り込むとともに、いかに付加価値を得るのかを考え、その地域にあった6次産業化の道を探ることである。同時に、安全安心の農産物作りとともに、自然エネルギーを作ることで、農業を環境保護の先頭に立つ産業にしていかなければならない。何より農業を"格好いい"先端産業に変えていくことである。
 もちろん、自分一人がよければいいというわけにはいかない。単独でやってもうまくいかない。地域を面的に再生しないと、自分も生きていけない。協同組合の精神を発揮しなければ、地域の再生は無理だろう。
 たとえば、上に述べた6次産業化もエネルギー兼業も地域に雇用を創り出す。こうした方向性は多様な人材を必要とする。地元に加工や販売マーケッティングや資金調達のプロがいれば、彼ら彼女らを仲間に引き入れることである。もしいなければ、何とか外から連れてくるように努力しなければならないが、閉鎖的な農村地域社会ではうまくいかない。若い世代は、上の世代と違って外に開かれている。都市からのUターン組もいるはずだ。あるいは農協組織の横のつながりもあるはずだ。臆することなく、つながりをたどって手法を学び、人材を集めることが必要である。
 加えて、地域の生活インフラ問題に無関心であってはならない。病院や学校の閉鎖や統廃合を阻止するために、地域ぐるみで取り組むことが必要だ。地域生活に必要なインフラがなくなると、そこへは人が来にくくなる。JA青年部の政策提案活動を高めて行くには、こうした地道な地域活動を積み重ねていかなければならない。生活を成り立たせていくにはどうしたらよいか、そこから考え抜かれた政策提案こそが農村地域の未来を作り上げるのだと、私は思う。
 だが、言うは易く、行うは難し。地域衰退をはね返して、これらの事業を本当にやろうとするのは本当に大変である。しかし、頭を切り替えてみよう。いまや若い世代の農業者は日本の安全な食を担う貴重な存在だ。ある意味で、上の世代が高齢化とともに退いていけば、青天井が見えてくるはずだ。農村地域が再生するもしないも、若い世代にかかってくる。粘り強く頑張ってほしいと、切に願う。

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