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特集:第28回JA全国大会特集「農業新時代・JAグループに望むこと」

2019.03.05 
【インタビュー神津里季生・全労済協会理事長(連合会長)】主役は農業者、労働者 我々が社会つくる意識を一覧へ

 賃金統計不正やモノづくり現場での検査基準違反問題は社会への信頼を失わせるものだが、その背景にはグローバル化の進行による過度な競争社会の現実があるのではないか。そんな問題意識から始まったこのインタビューで、神津理事長は、現場で働く農業者、労働者が主役となって新たな日本社会を作り出していこうとする主権者意識を持つことが重要だと強調する。聞き手は谷口信和・東京大学名誉教授。

◆コスト削減のなれの果て

 谷口 最近の統計不正問題は相当に深刻です。日本人は江戸時代から読み書きそろばんをきちんとし、それが社会発展の原動力になってきたと思いますが、今は国家が率先して蔑ろにしています。

 

【インタビュー神津里季生・全労済協会理事長(連合会長)】主役は農業者、労働者 我々が社会つくる意識を 神津 結局、日本全体の雇用労働者の賃金が本当に上がっているのかどうか、さっぱり分かりません、ということになっています。日本は自分の国の実力がまったく分からないという、ひどい話です。吉田茂はGHQと交渉したとき、日本の統計がしっかりしていれば、あなたの国と戦争なんかしなかったと言ったといいます。最初は笑いましたが、今の事態に通じる恐ろしい話です。

(写真)神津里季生・全労済協会理事長(連合会長)

 

 谷口 一部の官僚や政治家だけが悪いということではなく、日本社会全体に蔓延していませんか。

 

 神津 まさに経済界でも、たとえば検査基準をクリアしていないのにそのまま販売してしまったという事件がいくつも起きています。女性に対する医学部の不当な入試も含め、本来のルールを違えてしまっても、とりあえず困らなければそれでいい、という点はすべて共通していると思います。悪しき常識がいつの間にか真ん中に来てしまっているという感じです。

 

 谷口 どうしてこうなってしまったのかを考えると、私はコスト問題が要因の1つだと思います。つまり、経済効率至上主義です。効率は大事ですが、コストダウンがすべてになった。たとえば日産は技術の日産を売りにし、そのイメージが強かったわけですが、検査部門でわずかの人件費を下げるために不正を行った。わずかのコストのために魂を売ってしまったというのはショックでした。

 

 神津 企業がコストを追求する背景には、消費者もとりあえず同じものであれば安いほうがいいという選択をすることもあると思います。しかし、安かろう悪かろうという問題もあり、危険が潜んでいる確率も高まるということだと思います。

 

 谷口 おそらくモノは見ているのでしょうが、モノが作られた背後にある物語や思いにまで心を馳せるゆとりや知恵がなくなってきているのではないでしょうか。

 

 神津 それにはこの20年間、デフレが続いていることも影響していると思います。物価は下がることが当たり前になり、値引き競争に走った。
 戦後の成長期、いわゆる生産性運動は昭和30年に始まりましたが、春闘もまったく同じ時期からです。本来、生産性向上というのは値段も上がって、賃金も上がるということでした。しかし、デフレのこの20年間はコスト削減、人員削減にずっとシフトしてきました。人を減らせば見かけ上、生産性は向上しますから。
 したがって、賃金は全体でみるとじわじわと下がってしまい、労働の質の劣化につながってしまいました。つまり、社会全体が安っぽくなってしまったと思います。

 

◆富の偏在を防げ

 谷口 背景にはグローバリーゼーションの進行があり、問題点も明確になってきましたが、しかし、国境を閉ざせばいいというものでもありません。どう考えますか。

 

 神津 グローバリーゼーションは不可避のところもありますが、ただ我々が考えなければならないのは、放っておくと、特に最近の新自由主義的な発想によって、すべて勝手にやればいいということになってしまい、それは明らかに富の偏在、格差の拡大を引き起こしてしまうということです。
 最近よく取り沙汰される「GAFA」ですが、GAFAの時価総額を合計するとドイツのGDPを超えると言います。さすがに最近はこうした富の一極集中と、課税逃れに対して、それを防ぐ手立てを考えるべきだという動きも出てきていますが、やはりそうした手立ては仕組みとして必要だと思います。
 民主党政権にはいろいろ問題もありましたが、野田前首相が言っていたのは、自由を進めるなら規律も前に進めることが必要だということです。そのバランスを保つということが民主主義の基本であるということですが私もそう思っています。
 やはりどこかで富が偏らない仕組みをつくらなければなりません。あるいは底辺をしっかり守るセーフティネットの構築も必要だと思います。

 

 谷口 そのためにはやはり国民国家という枠組みの意義を再度明確にし、国にきちんとした役割を発揮させることが重要になると思います。

 

 神津 この問題ではヨーロッパにお手本になるところがあると思います。多くの国でセーフティネットがしっかりしており、大学も無償だったりします。確かに見かけの消費税は高いですが、それはしっかり国民に戻ってくる。だから政治との関わりも国民が相当意識していて払った税金は戻ってくるのだから、どう負担を分かち合うかという思考回路があります。

 

 谷口 広い意味での互助ですね。

 

 神津 日本の場合はそこが抜け落ちています。今回も消費税を上げるに際して政府は軽減税率やポイント制による還元などをすると言っていますが、本当は所得の低い人たちに給付付きの税額控除の仕組みを導入すべきです。その遥か手前のところで負担の構造をしっかりさせないまま、国の借金が1000兆円を超えていくという深刻な状況にあります。
 政治がそれを直視することを避けていると思います。やはり富を分かち合い、衣食足りて礼節を知るということがなければ社会の分断を招くことにもなりかねないと思います。

 

◆二項対立を超えて

谷口信和・東京大学名誉教授 谷口 今後の大きな問題としてエネルギー問題をお聞きします。再生可能エネルギーの重要性も増しており、原発にどう対応するか避けて通れなくなっています。

 

 神津 原発問題については、福島の事故が何を我々に突きつけたかを考えなければならないと思っています。ひたすら推進、あるいは原発は絶対だめ、という二元論のままだったから、あの事故が起きたのではないでしょうか。津波が来るという見方は政府の会議などでもあったのにそこに蓋をしてしまった。それは津波を問題にすると反対派が勢いづくから、といった理由があったのではないでしょうか。そういう二項対立の不毛な議論をやめろというのが、この事故が示したことではないでしょうか。
 連合の政策議論では地球温暖化対策として原発も一定は必要だとしていました。しかし、福島の現実を目の当たりにして、侃侃諤々の議論をして電力総連も含め、やはり原発から脱却するということを全体としてまとめました。ただ、当面の国民生活や産業への影響を少なくする意味で安全を徹底的に確認し、地元住民の合意が得られるものは再稼働も有り得べしという政策です。さらに廃炉技術や、最終処分場をどうするかなども考えていかなければなりません。
 原発ゼロを唱えさえすれば安全になる、というのは問題の先送りです。世界に対する責任もありますから国として腰を据えて取り組むべきです。

(写真)聞き手の谷口信和・東京大学名誉教授

 

◆主権者意識を大切に

 谷口 さて、農業については、耕地が少なく山がちな日本では農業の衰退は避けられないという見方もありますが、どうお考えですか。

 

 神津 我々はいまだに高度成長期の発想にとらわれているのではないかと思っています。あのころは農村から都市にどんどん人が出ていき、賃金も上がりました。都市に住み会社に勤め生活を豊かにする、というのがひとつのモデルでしたが、これが一番だという発想にいまだ囚われているところがあります。
 しかし、それはあの時代の特殊な条件で成り立っていた話であって、歴史的、あるいは地理的にみれば極めて特殊なものです。本当はもっと普遍的な日本社会のモデルをもう一回考えておかなければならないと思います。
 しかし、政治の世界は、それをその都度のパッチワークでしのいできており、食料自給率の向上をはじめとする農業政策も含めたグランドデザインを国として描けていないと思います。その意味で連合も農業政策を検討しており、全中の皆さん方とも懇談する機会も持っています。JAとももっと連携していかなければならないと思います。

 

 谷口 第一級の先進国は国民が豊かであるだけでなく、各地の農村が美しく農業者が豊かですが、それは決して全国一律ではない生産を行っている農業、農村があるということだと思います。

 

 神津 グローバル化のなかで技術を駆使するとやはりどうしても大量生産し、それで全部まかなってしまうということになりかねません。しかし、人間の持っている価値観には多様性があることは間違いないことですから、地域の特性をどうやって活かしていくか。まさに生活の質を向上させること、それが本来の人間の生き方ではないかと思います。

 

 谷口 全中は食料安全保障に関して、食と地域づくりを食料安全保障と捉えた政策提起をしています。農協は農産物を供給するだけでなく地域社会を守っていくというセーフティネットの役割も担いながら、それらを総合農協という姿で実現していくという考え方だと思います。農協の戦略の前面に食料安全う保障を打ち出していこうとしています。

 

 神津 非常に時宜を得た提起だと思います。もともと協同組合の原点はコミュニティにあり、地域での取り組みが基本だと思います。地域に基盤を持っているという強みをさらに活かすという意味では非常に大事だと思います。
 全労済協会がグループを構成する全労済も共済事業を営む生活協同組合ですから、同じ協同組合としてJAグループや生協との関わりもあります。特に地域のなかで協同組合として連携し、それぞれ持っている力を発揮することが大事だと思います。実は労働界も賀川豊彦に指導を受けたという歴史もありますから源流は共通といえます。

 

 谷口 最後に全国大会を迎えたJAグループに対して期待することをお聞かせください。

 

 神津 農業団体もわれわれ労働団体も、主役は農業者であり労働者であるということだと思います。政治はあくまでそれにどう役立つのかということです。一言でいえば主権者意識が大事だということです。自分たちは頑張っていいものを世の中に送り出しているとともに、社会は自分たちが作っているんだ、という、その意識をもっとしっかり持つべきだし、そういう意味でも私たちが連携を深めていくことはすごく意味があることだと思います。

 

 谷口 ありがとうございました。

 

インタビューを終えて

 労働運動のトップというと反射的に"闘士"というレッテルを貼って見ていた自分の古色蒼然たる視野の狭さを思い知らされたインタビューだった▼グローバリゼーションの奔流の中で世界中に紛争と対立の種がばらまかれている現実を超克するためには、一見分かりやすいが不毛な二項対立の議論を止めて、少しでも前進しうる一致点を見出そうという神津氏の柔軟な姿勢に、我が意を得たりの思いを強くした▼主権者意識をもった労働者と農民が連携していく中に将来の展望が開けると熱く説く氏のエールに、農業界がどう実践的に応えるのかが問われている(谷口信和)。

 

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