JAの活動:JA全農の若い力
全農ET研究所 ゲノム育種で優良和牛 造田篤さん【JA全農の若い力】2020年8月28日
JA全農ET研究所は早くからET(Embryo Transfer:受精卵移植)に取り組み、和牛生産基盤を支えている。現在は年間2万5500個の受精卵と1100頭のET妊娠牛を全国に供給しているほか、新技術の開発にも力を入れている。今回は同研究所の3人の若い力を訪ねた。
ゲノム育種で優良和牛
ET研究所では和牛の生産基盤の維持・強化のために優良な和牛を増産する研究も行われている。研究開発室の造田篤さんは2017年入会。大学院では黒毛和種の分娩間隔について遺伝能力の改良を研究テーマにしていた。コンスタントに1年に1産する素質が高い雌牛であることがあらかじめ分かっていれば農家にとって経営の見通しが立つなどメリットをもたらす結果となる。分娩間隔以外にも、たとえば枝肉重量に影響を与える要因は飼養管理法などの環境要因だけではなく、遺伝的要素が半分を占めるため、遺伝能力の改良には優良な牛を選んで交配していくことが必要だ。
そのため、どのように親の遺伝的能力を評価して、子に現れる結果を推定するかが大きな課題となっていた。こうした大学院で学んだ家畜育種学の知識を生かし、畜産の現場や農家に役立つ仕事ができるとET研究所に入った。
入会以来研究しているのはゲノム育種に関する研究だ。ET研究所で飼養している500頭の供卵牛からDNAを抽出、専用のスキャナー(写真の左の装置)を使ってその牛のDNA情報を取得する。現在、同研究所で現有する供卵牛はもとより、過去の供卵牛も遡ってデータを解析している。また、系統農場と提携して、データ解析行い、どの供卵牛が遺伝的に優れているかが推定できるという研究も並行して行っている。
1頭あたり調べるDNAの場所は約5万か所。造田さんは同僚とともに研究所や系統農場の牛からDNAサンプルを採取しスキャナーでデータを集めてきた。
そのデータをもとに牛の遺伝的能力を数値化することに取り組む。これをゲノム育種価といい、たとえば、ある供卵牛で予測される能力は枝肉重量が平均よりプラス○kg、ロース芯面積プラス○cm2というように数値化されるのだという。もちろん能力はマイナスのこともあるが、プラスの育種価を持つ供卵牛の受精卵は優良な能力を持つと考えられる。
そうした牛の受精卵から生まれた後継牛を新たに供卵牛として供与し、そこからさらに受精卵を採卵して供給していくことによって、ET研究所が全国に提供する受精卵の質の向上につながる。もちろんそれは各地での優良な後継牛づくりにも貢献する。
今までは血統や外観などをもとに優良な供卵牛を育成してきたが、遺伝子レベルで分析すれば同じ両親でも1頭1頭で能力が異なることが分かってきた。今後は今までの選抜に加え、こうしたゲノム育種を加味することによって、さらに優良な牛を選んでいくことになるという。
現在はゲノム育種価情報から枝肉重量など枝肉形質のみを評価する段階だが、今後は病気に対する抵抗性や繁殖性、飼料効率等、他の形質についても評価していきたいという。そのためのデータを取得する環境づくりが課題だという。
先端技術に基づいた研究が日本の和牛生産基盤の向上に貢献することが期待される。造田さんは農家や家畜市場にも足を運び、農家がどんな牛を望んでいるかなどにも耳を傾ける。
「現場に生きる研究をすることがもっとも大事だと考えています」。
(あわせて読みたい記事)
全農ET研究所 受精卵移植で増頭に貢献 村里慎太郎さん【JA全農の若い力】
全農ET研究所 畜産基盤の強化に直結 櫻井皓介さん【JA全農の若い力】
JA全農家畜衛生研究所クリニックセンター 検査を武器に農家をサポート【JA全農の若い力】
畜産農家の経営安定へ飼料の基礎研究で貢献 全農飼料畜産中央研究所(上)
重要な記事
最新の記事
-
果樹産地消滅の恐れ 農家が20年で半減 担い手確保が急務 審議会で議論スタート2024年10月23日
-
【注意報】野菜、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米③ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米④ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
千葉県で高病原性鳥インフルエンザ 今シーズン国内2例目2024年10月23日
-
能登を救わずして地方創生なし 【小松泰信・地方の眼力】2024年10月23日
-
森から生まれた収益、森づくりに還元 J‐クレジット活用のリース、JA三井リース九州が第1号案件の契約交わす2024年10月23日
-
食品関連企業の海外展開に関するセミナー開催 関西発の取組を紹介 農水省2024年10月23日
-
ヒガシマル醤油「鍋つゆ」2本付き「はくさい鍋野菜セット」予約販売開始 JA全農兵庫2024年10月23日
-
JAタウン「サンゴ礁の島『喜界島』旅気分キャンペーン」開催2024年10月23日
-
明大菊池ゼミ・同志社大上田ゼミと合同でマーケ施策プロジェクト始動 マルトモ2024年10月23日
-
イネいもち病菌はポリアミンの産生を通じて放線菌の増殖を促進 東京理科大2024年10月23日
-
新米「あきたこまち」入り「なまはげ米袋」新発売 秋田県潟上市2024年10月23日
-
「持続可能な農泊モデル地域」創出へ 5つの農泊地域をモデル地域に選定 JTB総合研究所2024年10月23日
-
「BIOFACH JAPAN 2024」に出展 日本有機加工食品コンソーシアム2024年10月23日
-
廃棄摘果りんご100%使用「テキカカアップルソーダ」ホップテイスト新登場 もりやま園2024年10月23日
-
「温室効果ガス削減」「生物多様性保全」対応米に見える化ラベル表示開始 神明2024年10月23日
-
【人事異動】クボタ(11月1日付)2024年10月23日
-
店舗・宅配ともに前年超え 9月度供給高速報 日本生協連2024年10月23日
-
筑波大発スタートアップのエンドファイト シードラウンドで約1.5億円を資金調達2024年10月23日