JAの活動:JA全農の若い力
全農ET研究所 受精卵移植で増頭に貢献 村里慎太郎さん【JA全農の若い力】2020年8月28日
JA全農ET研究所は早くからET(Embryo Transfer:受精卵移植)に取り組み、和牛生産基盤を支えている。現在は年間2万5500個の受精卵と1100頭のET妊娠牛を全国に供給しているほか、新技術の開発にも力を入れている。今回は同研究所の3人の若い力を訪ねた。
ET技術で増頭に貢献
ET技術とは、優良血統の雌牛に過剰排卵処置をし、優良な雄牛の凍結精液を人工授精(AI)することで雌牛の子宮内で複数の受精卵をつくり、その雌牛から採卵して他の雌牛に移植する技術である。
その受精卵移植をET研究所内で行って妊娠牛を生産するとともに、酪農家における不受胎対策を目的に始め、現在では先端技術の向上に伴いゲノム診断技術を活用して選抜した種雄牛の繋養・採精を行っているのが生産課の受卵牛・種雄牛チームである。
チームの一員、村里慎太郎さんは2017年の入会。同年にプロのET技術者を養成するため士幌町内に開設された「全農繁殖義塾」に研修生として入った。出身地の長崎県で酪農および和牛繁殖を営む親類の姿に接してもともと牛に興味を持っていたところ、繁殖義塾の立ち上げを知った。それまでは大学で打ち込んだサッカーを活かし地元のクラブチームでコーチをしていた。26歳で畜産の技術者の世界へ。
「農場を手伝ったことがあるといっても給餌と畜舎の掃除ぐらいですから、牛のことはまったく知りませんでした。すべてここで学びました」。
一からの勉強と現場での研修で技術を身に付ける努力の日々。学ぶことは楽しく、職員の現場作業について回るなか、疑問があってもその場で正確な答えが返ってきたのが励みになったという。まずは人工授精師の資格を取り、その後受精卵移植師の資格を取得、2年の研修を経て、ET研究所の職員として受卵牛・種雄牛チームに配属された。
ET研究所には研究所所有の受卵牛に受精卵移植を行いET妊娠牛として全国供給する事業や全国各地の酪農家などからホルスタイン育成牛、F1雌育成牛を預かりET妊娠牛として農家に返却する預かり受卵牛事業がある。
ET研究所では週に3日、受精卵を採卵、検卵し、チルド卵や凍結卵として全国の農家に供給するが、同時に所内で飼養している受卵牛に受精卵移植を行い、妊娠牛を生産する事業も行っている。それがこのチームの主要な仕事で、とくに預かり受卵牛については「きちんと妊娠させて帰す責任がある」ということになる。
そのためには受卵牛を毎日見回り、状態を把握することがもっとも重要だという。とくに発情の見逃しがないように牛をチェックすることが必要だ。仮に発情を見逃してしまえばまた3週間待たなくてはならない。それが預かり受卵牛であれば預かっている期間が長くなる分、コストもかさむことになる。
発情を確認した1週間後に受精卵移植を行うが、とくに移植前日のエコーによる卵巣や子宮の状態のチェックが受胎させることができるかどうかを左右する。そのため発情確認後、移植までの観察や準備が大切になる。
それに加えて、ふだんからの牛の見回りによる体調のチェックや発情周期のずれなどの発見も重要になる。冬はマイナス20℃にもなる上士幌町で牛の管理と受精卵移植は「難しい、というのが実感です。もっともっと技術を磨いていくしかないと思っています」。
研修生への指導も
一方、職員になったことによってかつて自分が経験した繁殖義塾の研修生への指導も仕事となった。自身の経験から繁殖義塾では技術を身につけるための実践の機会が多いだけでなく、ET研究所ではさまざまな研究を行っている職員もいるので、この場で研修することができるのは、他にない環境だという。研修生たちに教える立場になって、サッカーのコーチ時代に子どもたちに教えていたころを思い起こし「分かりやすく教える」を心がけている。
「プロとしてしっかり成長してもらうよう指導にも力を入れていきたいと考えています」と村里さんは話す。
(あわせて読みたい記事)
全農ET研究所 畜産基盤の強化に直結 櫻井皓介さん【JA全農の若い力】
全農ET研究所 ゲノム育種で優良和牛 造田篤さん【JA全農の若い力】
JA全農家畜衛生研究所クリニックセンター 検査を武器に農家をサポート【JA全農の若い力】
畜産農家の経営安定へ飼料の基礎研究で貢献 全農飼料畜産中央研究所(上)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日