JAの活動:実現しよう!「協同」と「共生」の新しい世界へ
【新春放談】人間、協同、農の根源に迫る 内山節氏×古村伸宏・日本労協連会長×村上光雄・農協協会会長(2)2022年1月6日
農的な福祉国家が理想「文化」を育む協同労働
ヒトは「自然」に働きかける(労働する)ことで「協同」し、かつ自然と「共生」してきた。地球温暖化などに見るまでもなく、その関係が崩れると、人々は大きな不幸に見舞われてきた。新自由主義と言われる大きな社会変化のなかで、われわれは「自然」とどのように「居り合い」をつけるべきか。哲学者の内山節氏、労働者協同組合連合会理事長の古村伸宏氏、農協協会会長の村上光雄氏が、それぞれの立場から意見交換した。

【出席者】
・哲学者 内山節氏
・日本労働者協同組合連合会理事長 古村伸宏氏
・一般社団法人農協協会会長(司会・進行) 村上光雄氏
主体性の実感が「やりがい」生む
村上 次に教育について伺います。私は自宅で石垣積みやっていますが、石は一つひとつ異なりますが、どんな石でも、積んでいくと、ピタッとはまるところがあります。
内山 積める人がいるうちに積まないと石垣の文化が消えてしまいます。むらの石積みは地元の石を使いますが、そこにある石に合わせた石積みの仕方があります。東京都の八丈島には大きな石がなく、海岸にある直径10cmくらいの玉石を使っています。丸いので崩れますが、それを前提にみんなで直すものと考えている。それを含めた「石垣文化」です。
古村 労協は子育て事業を幅広く展開していますが、子どものときの体験、遊びを通した自己の認識や他者の理解、そして一人ひとりのかけがえのない「働き」を感じます。大人になって経済活動で「働く」のではなく、子どものころ、暮らしのなかにそうした「働き」のタネがあるのです。それは人として育つプロセスであり、それが仕事となり、価値観につながります。
今の社会を変えようとするとき、子どもや若者期の様々な失敗も含めた体験をどれくらい環境的に豊かに用意しつつ、それが大事で面白いのだということを伝えられるかが、われわれに問われているのではないでしょうか。
内山 国連のSDGs(持続可能な開発目標)について考えてみたい。ゴールが決められており、つくづく欧米的な発想だなと思います。環境問題にゴールはないはずです。環境対策は、半分よくても半分は問題があります。私の自宅にもソーラーパネルがありますが、パネル製造・処分、バッテリーのリチウムの製造で多くのエネルギー使います。それでいいのか疑問です。原子力発電もそうです。汚染物質はどうするのでしょうか。いまはよくても環境問題は繰り返します。いろいろなことを外部化すると、それがシステムになり、さまざまな面で縛りになります。従ってシステムはいつでも壊せるようにしないと、人がシステムの奴隷になってしまいます。
子どもの積み木を同じように、つくっては壊し・修正、再建する。それが楽しい労働です。農業はそれができます。はたで見ると、毎年、同じことをやっているように見えながら、実際は工夫や向上がある。
能力は無限の優れた農業力
内山 新自由主義経済は、アダム・スミスの自由な市場主義の部分だけ拾っていますが、アダムスミスは、競争原理の市場主義経済は「人々の労働をつまらなくする」とみていました。彼が優れた仕事として挙げていたのは農業です。「誰でもできる」、「入り口のハードルが低い」。だが終点がない。その間、訓練・教育するのではなく、働くと自然に何が足らないか分かり、解決策も分かる。能力が上がり続けるが「終点がない」。これだけすばらしい労働はないと言っています。
スミスは村の「雑貨屋」の労働も優れていると言っています。村の人が必要とするものすべてが分かっていて、小さくてもさまざまな商品をそろえている。地域の人々とともに労働がある。そういうすばらしい仕事だと。農業にもそうしたすばらしさがあります。それをもう一度手にしたいものです。
古村 私は小学校高学年になると、放課後と休日は子ども仲間だけで遊んでいました。遊びのなかには、いわば子どもの「主権」が実感としてあり、どこで何をして遊ぶかはすべて子ども同士で決めていました。
隣の小学校と野球の試合をするときは、その交渉から段取りまですべて子どもだけでやりました。今の子どもは両親の監視下にありますが、当時、大人はそれとなく遠まきに見守る程度でした。遊びの中にそうした「学び」がありました。
これは子どもの時期だけにしか体験できません。「食育」も同じです。野菜を植え収穫する以前に、隣の家の柿を失敬したり、見つかってみんなで叱られたりしたことが、気づかないうちに教育になっていたのです。
「居り合う」知恵 自然と農業が軸
村上 次に人間にとっての自然について話を進めます。私は若いころ減反に反発して山を切り開いて田んぼつくったことがあります。その田んぼの法(のり)面が大雨で崩れました。そこは直前に見回りで通ったところで、ちょっと通るのが遅かったら命がなかったところです。そのとき人間は自然のなかでいかに小さな存在であるかを思い知らされました。自然に対しては謙虚であるべきです。今回のコロナウイルスもそうです。科学も宗教も無力でした。
内山 ヨーロッパと日本の自然は大きく違います。ヨーロッパは降雨量が少なく、災害もまれで管理しやすい自然ですが、日本の自然は管理しにくい。日本人はその自然と都合のよい面も悪い面も含めてつきあってきました。コロナも自然の生き物です。それとどう折り合いをつけるかです。自然とは、どう折り合いをつけるかが大事です。「折り合い」とは「妥協」ではなく、もとは「居(お)りあい」でした。つまり自然も含めて誰もが居られるようになることです。人間は居りあいの知恵をつけてきたのです。
村上 そこから、日本で水の神様、山の神様が生まれたのですね。
古村 みんな違って大変だから知恵を出して「居りあう」のです。そう考えると、最近の「共生」「多様性」という言葉は薄っぺらな感じがします。厚労省は「地域共生社会」と言いますが、そこには「自然」がはいっていません。人間の関係しかない。一方、環境省は「自然共生社会」と言う。いずれも「社会」と言っていますが、「社会」は人々のことであり、それは自然との関係の中で必要とされる概念です。
障害があるなしは人が引いた境界線です。コミュニケーションがだめだといわれる人がいますが、コミュニティーの存在意義は内側の関係性と外側の自然との関係にあります。
例えば天気の予想など、それに長けた人がいないと、コミュニティーは守られなかったのではないか。障害は特性であり、個性です。多様性も共生も、経済活動も人間だけの言葉になったのが今日の姿です。その意味で、日本ではダイバーシティ(多様性)も生物多様性もなかなか定着していませんね。
兵庫県豊岡市から始まり、全国でコウノトリの野生復帰が取り組まれています。コウノトリを象徴とする生物多様性の取り組みですが、そのプレイヤーはほとんど子どもや若者たちです。人の都合ではなく、人間という生き物をピュアに感じているのは子どもたちです。それは食べ物でも言えます。食べ物はもともと「命」(いのち)です。工業製品化したなかで、その感覚をどれだけ持っているのでしょうか。
その疑問を、多様性、共生を本気で考える入り口にしたいですね、それが自然に関わる人間の営みとして、農業とのつながりがとなり、その価値に気づくことになります。
労協は農協と違い、組合員は土地も森林も持っていませんが、最近、小規模農業や子育てなどの取り組みが、さまざまな事業所から始まっています。林業も、環境保全から子どもたちの「森のようちえん」へと、取り組みが複合化しはじめています。所有ではなく、そこで働くこと、つまり自然の中で働く協同組合です。日本独特の協同組合のひとつの方向になるだろうと期待しています。
内山 子どもはなぜ遊びが楽しいか。企画、立案、実行、結果、すべてが自分たちの手にある。つまり全過程が自分たちの手の内にあります。農業も似ています。
企画・立案・実行・結果が農民の手にありますが、残念なことに、それがだんだん小さくなってきた。企画、立案は補助金を出す農水省。農機、肥料、農薬は資材メーカーのものを消化するためにの農業が生まれてしまった。販売もスーパーに牛耳られています。企画・立案から結果まで、資本主義に虫食い的に食われているのが実態です。
自然との関係はもともと地域社会が軸です。しかし、村上さんの石積みはGDPに入っていませんが、土建建業がやると違います。こうしたつくり換えが進んでいます。川の洪水がそうで、かつては遊水池をつくるなど、地域の人と自然(川)と「居りあい」をつけてきました。しかしいまは外部化して地元の手を離れ、上流に大きなダムつくっています。ダムは,抑えが効いているうちはいいが、効かなくなると大洪水になります。
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