JAの活動:第42回農協人文化賞
【第42回農協人文化賞】営農事業部門 世田谷目黒農協経営管理委員会会長 飯田勝弘氏 都市農地の永続に総力2022年2月14日
東京・世田谷目黒農業協同組合
経営管理委員会会長
飯田勝弘氏
世田谷目黒農協管内は、1964年の東京オリンピックから開発が進み、日本列島改造論の影響もあり、さらに開発圧力が高まりました。1973年に市街化区域内農地のうち、A農地への宅地並み課税が始まりましたが、当時は全国でも世田谷区の一部にしかA農地はなく、A農地を所有する農家以外は都内の農家でさえ関心が薄く、反対運動は盛り上がらなかったようです。翌年1974年に生産緑地制度ができ、わが家もすぐ第一種生産緑地に登録しました。1976年には、B・C農地にも課税され農協組織もやっと反対運動を始めました。
私が就農した1978年の11月に祖父がなくなり、父が相続しました。農地と自宅敷地の一部を売却して想像を絶する高額の相続税を払い、農地は全て相続税納税猶予の適用を受けました。農地には、相続税の本税・利子税合わせて10億円以上の国の抵当権がつきました。こんな借金を背負って農業をやるんだと思った記憶があります。生産緑地制度・納税猶予が税の優遇と思われている事はわかっていましたので、とにかく、後ろ指はさされないようにという気持ちで父も私も農業に取り組みました。
その後、1982年に長期営農継続農地制度、1991年には生産緑地法が改正されましたが、30年間の営農義務、納税猶予は終身営農が義務付けられました。2007年に私も父から相続し、気の遠くなるような相続税を払い、農地は終身営農義務を条件に納税猶予の適用をうけました。
生きている限り営農しなければならない、命と引き換えということです。もちろん、この決断が出来たのは農協の相談業務のおかげです。
2008年に支部の推薦を受け、農協の経営管理委員に就任しましたが、農業以外何もやった事がなく、色々な方からご指導を戴きながら農協運営の勉強をさせていただきました。2011年には経営管理委員会会長を拝命しました。
当農協は宅地並み課税問題を通じて「農家組合員が第一に農協に求めていることは、安心して農業に取り組める環境づくり」だと確信しました。相続税納税のために農地が売却され減少する中、1984年に相続相談業務を中心とした資産サポート事業を立ち上げ、組合員が安心して農業に取り組める環境を整え、組合員の資産とくらし、農業・農地を守る事が都市農協の第一の役割として相談業務を中心事業とした総合事業を目指してきました。
目先の利益を追求せず、無理をさせず、しっかり農地を守れる農家経済を考えて、色々な相談業務を進めてまいりました。農地に関する税制を含めた諸制度を研究し、組合員に十分に利活用してもらう事で農地の減少を食い止め、相続の発生前から個々の問題点を解決し、相続・事業継承をスムーズに乗り越えられるよう常に情報収集し、相談業務のブラッシュアップに努めています。
相続や事業継承は、全国すべての農家組合員が抱える問題です。相談業務に理解のある全国各地の農協と連携して、相談業務の長期研修をおこなっています。最低半年の研修に、希望した農協から職員が出向してきますが、研修費用や住居は当農協で負担しています。2012年から現在までに20人以上の研修生を受け入れています。
研修生はそれぞれの農協で相談業務を立ち上げ、多くの組合員から信頼を得ており、農協の必須の業務であると確信しております。各農協とは知識、情報を提供し合い、互いの課題を解決し、組合員に一層の貢献ができるよう連携を深めています。
また、相談業務を補完する事業として、高齢や病気等で営農困難な組合員の農作業支援や都市農地の貸借の円滑化に関する法律を利用しての体験型農園運営を事業化し、担い手の確保と農地保全を図っています。今後、体験型農園は組合員からの要望も地域住民の需要も増加するものと考えられ、事業展開を進めます。
体験型農園
いま、農協改革・自己改革で「農業所得の増大」ばかりがクローズアップされ、それぞれの地域特性を無視した方法論や手法が押し付けられているように思います。そもそも規制改革会議の農業改革・農協改革は「それぞれの農協がそれぞれの地域にあった活動を自由に行い、組合員の要望に応えられるようにするため」ではなかっただろうか。もちろん、「農業所得の増大」は農協の大前提ではあるが、そのアプローチも成果もそれぞれの地域・農協で様々となるのが当然です。
また、早期警戒制度の適用により農協の既存のビジネスモデル見直しが求められていますが、それはそれぞれの農協が自らの経営理念・事業方針に則り、地域の情勢・組合員の要望によって定め、「持続可能な収益性と将来にわたる健全性」を図るものだと思います。
今後においても、農協を取り巻く環境は厳しさを増していくものと思いますが、「協同組合理念」と「世田谷目黒農協らしさ」を見失うことなく乗り越えて行きたいと思います。
座右の銘
【略歴】
いいだ・かつひろ 昭和30(1955)年生まれ。昭和53(78)年東京農業大学農業拓殖学科を卒業して就農。平成20(2008)年世田谷目黒農協経営管理委員。平成23(11)年経営管理委員会会長。
【推薦の言葉】
都市農地保全に寄与
飯田氏は、組合員の相続が起きる度に、畑の周りに宅地が増えてきたことを見こして、農家の資産保全を第一に考え、特に都市農地の環境・防災等、多面的な機能の重要性を訴えて、農地保全に力を注いできた。
都民のために都市農地の多様な機能にもいち早く注目し、都市農地の貸借の円滑化に関する法律を利用して体験型農園を事業化させ、農地保全に大きく寄与している。
地域住民だけでなく、区外の利用者も多い。地域になくてはならない多面的で快適な都市農業機能がオープンスペースとしても役割を発揮している。
また、「畑のちから」を提唱。農業と関係の薄い人も仲間に入れ"土壌づくり、肥料づくり"として連携を図っている。世田谷目黒農協は東京農業大学とは、包括連携協定を締結し、双方向の交流を強めている。
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