お正月の伝統花材「松・千両」の消費と生産が減っている【花づくりの現場から 宇田明】第74回2025年12月4日
12月は花産業の最繁忙期。
全国の花市場では、年に一度の「松市」で年末商戦が幕を開け、続いて「千両市」、そして止め市まで大量の迎春花材の入荷が続きます。
場内には、年末ならではの張りつめた空気と活気が広がります。

当コラムでも、松市・千両市の話題はすっかり年末の恒例となりました。
第22回「門松の松は山から切ってくるの?」
第48回「花業界の年末商戦は松市からスタート」
第49回「花業界の年末商戦は松市が終わると次は千両市」
しかし近年、この伝統花材の生産量が減少しています。
東京都中央卸売市場花き部(6卸売業者)の2024年入荷量は、2002年と比べて松が18%減(560万本→460万本)、千両は56%減(406万本→180万本)と大きく落ち込んでいます。
この背景には、消費と生産の双方にさまざまな課題があります。
消費減少の背景
最も大きな理由は、正月の伝統行事そのものが衰退していることです。
羽子板や凧揚げ、独楽回しといった遊び、しめ飾りや松飾り、鏡餅を飾る床の間、迎春の生け花・・。
こうした正月風景は、いまやサザエさんの漫画の中でしか見られなくなりました。
商業施設の経費削減も消費を押し下げています。
かつては商店のショーウィンドウやホテルのロビーには、松や千両を使った新春を祝う装飾が施されていましたが、コスト削減の波の中で年々縮小しています。
また、門松も神社や寺院以外では見られなくなりました。
生産現場の深刻な課題
生産現場では、さらに深刻な問題があります。
まず、出荷日が限られていることです。
松も千両も、11月から12月上旬に集中して収穫・調整・出荷作業が行われ、多くの労働力を必要とします(写真)。
しかし、産地では生産者の高齢化が進み、働き手不足も深刻です。
そのため、生産面積を縮小したり、やむなく廃業したりする生産者が増えています。
さらに、物流業界の2024年問題に象徴される輸送体制の制約も生産を不安定にしています。
年末繁忙期のごく短い期間に出荷が集中するため、トラックの確保が難しく、輸送費の上昇が避けられません。
栽培期間の長さも新規参入を困難にしています。
松も千両も、種まきから出荷までに3〜4年という長い時間を要します。
加えて千両は「楽屋(がくや)」と呼ばれる割り竹の覆いの下で光を調整しながら育てる必要があり、設備投資が必要です。
このように、新しい生産者が参入しにくいことが、生産減少の一因です。
さらに、異常気象の影響も避けられません。
松は枝葉の商品ですが、千両は赤い実に価値があります。
花芽分化から開花、結実、着色までの過程が順調に進まなければ商品になりません。
しかし、近年の夏の異常高温は花芽分化や結実の不良を引き起こし、品質を低下させています。
千両の入荷量が松以上に大きく落ち込んでいるのは、そのためです。
小売店にとっての扱いづらさ
小売現場でも課題があります。
気象によって年ごとの供給が不安定で、価格の高騰や、必要量を確保できない年もあります。
年末最終週までの保管スペースの確保も欠かせません。
松は松脂が手や衣服を汚し、千両は輸送中や店内で実落ちしやすいなど、扱いにくい面が多く、ロスが発生しやすい花材です。
負の連鎖と新たな兆し
こうした問題が積み重なり、松と千両は「需要が減る → 生産者が減る → 供給が不安定 → 小売が敬遠する → さらに需要が減る」という負の連鎖に陥っています。
ただし、明るい兆しも見えています。
松が家庭向けの季節花材として存在感を増していることです。
母の日のカーネーション、お盆のハス、お月見のススキ、クリスマスのポインセチアと同様に、松は「お正月を象徴する花材」として消費者に認識されています。
花束に1本入るだけで新年の雰囲気が出るため、門松用の長尺より、家庭向けの短茎が人気を集めています。
一方、千両はお正月のイメージが弱いのが現状です。
しかし逆に言えば、冬の"赤い実もの"として用途拡大の余地があります。
クリスマスや冬のギフトとの組み合わせなど、新しい提案が広がる可能性があります。
伝統花材としての松・千両
松と千両は、単なる花材以上の価値をもつ日本の伝統文化そのものです。
伝統をつなぐためには、生産者、市場、小売、そして消費者がそれぞれの立場で価値を共有し、次世代へと継承していく取り組みが欠かせません。
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