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JAの活動:農業復興元年・JAの新たな挑戦

【農業復興元年】「飢えさせない」仕組みづくりこそ JAの存在価値示す正念場 農業ジャーナリスト・榊田みどり氏2023年8月4日

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食料・農業・農村基本法の見直しが進む中、農業・食料問題に詳しい明治大学客員教授で農業ジャーナリストの榊田みどりさんに「JAの描く『食料安全保障』のビジョンを問う」と題して寄稿してもらった。

農業ジャーナリスト 榊田みどりさん農業ジャーナリスト 榊田みどりさん

危機要因はウクライナより円安か

今年3月、農水省による「食料・農業・農村基本法の見直し検討について」の説明会に参加したとき、配布された資料を見て私は考え込んでしまった。

今回は、食料安全保障(食料の安定供給の確保)に対する危機感が、ロシアのウクライナ侵攻による穀物相場高騰を機に一気に高まり、それが新基本法制定への引き金になった。それを「農業復興元年」と諸手を挙げて歓迎していいのかどうか、実は複雑な心境である。

日本の食料自給率の低さや生産基盤の脆弱(ぜいじゃく)さへの指摘は、今に始まったことではない。穀物相場も2000年代後半以降、不安定性が増し、すでに08年の穀物相場高騰を機に、農水省に食料安全保障課が創設された。

今回は、官邸に「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」が設置され、「食料安全保障強化政策大綱」が打ち出されるなど、さらに一歩、踏み込んだ形だ。

ただし、日本農業というより日本全体をめぐる環境で、08年とは大きく異なる点がある。円相場だ。08年当時は、1ドル110円~90円台、最高値では87円台も記録する円高基調だった。1ドル140円前後となっている今よりも、穀物相場高騰の影響は(もちろん深刻ではあったものの)相対的には小さかった。

08年当時、農水省は飼料自給率の向上に関する目標数値を出したが、今回の酪農危機で改めて取材すると、飼料自給率は、08年危機以前より逆に低下していると知り驚いた。労働力不足と規模拡大による飼料生産用農地の不足もあり、経営的には「餌は買ったほうが早い」と考えられる飼料価格だったわけで、ますます輸入穀物依存度が高い構造になっていた。

実際、調べてみると、08~10年当時と現在では、ドル建てで見たトウモロコシ国際価格にそれほど大きな差がないが、円建てで見ると、08年次の1キロ23・2円から、22年次は42円と、約1・8倍にも高くなっている。やはり08年に輸入原料が高騰した肥料原料に関しても同じことが起きている。

そう考えると、今回の食料安全保障に対する強い危機感は、今回のウクライナ侵攻の影響以上に、日本の経済力が世界の中で相対的に低下し、円安傾向が今後も続くかもしれないという危機のほうが大きいともいえる。

農業資材や飼料自給による資源循環型農業の推進は、個人的には一消費者として歓迎している。ただし、現場感覚として、すでにグローバル調達が前提になっている農業生産構造を転換するのは、そう簡単ではないとも思う。

ただし、転換しなければ、今後の日本の経済力次第では、穀物も農業資材も安定確保が難しくなるかもしれない。今回の「食料安全保障強化」は、農業生産サイドに対するそういう重いメッセージでもあると感じる。

基幹的農業従事者わずか30万人から描ける農村とは

その上で、私が最も危機感を持っているのが、食料安全保障のための「担い手確保」の問題だ。すでに基幹的農業従事者の右肩下がりの減少には言及するまでもないが、農水省の資料では、今後、基幹的農業従事者が、22年の123万人から、20年後には30万人程度になると予測しているのには衝撃を受けた。

これだけ少ない経営体で農業生産を支えていく日本農業の未来を農水省は考えていることになる。だからこそ、政策の前面に、「担い手」への農地集積と大規模化による少数の農業者による農地管理、労働力不足を補うスマート農業の推進があるのだと改めて思う。

「食料の安定供給」という一点で考えれば、これも選択肢のひとつとは思う。誤解を恐れずに言えば、高度成長期以降、日本にとっての「食料安全保障」は、人口の一極集中が甚だしく、しかも食料自給の手段を持たない首都圏の消費者に食料を安定供給することが最大の課題であり続け、そのための広域流通網やコールドチェーンが確立されてきた。しかし、農村はそれでいいのだろうか?

想像してほしい。全国で基幹的農業従事者がわずか30万人の世界を。そこから描ける農村はどんな姿なのか。そこにあるJAの存在価値は、どこにあるのか。

まず、農村に人がますますいなくなる。遠隔地から訪れる大規模農業企業が農地だけは管理していて、自走式の無人トラクターが走る。人が減ることで、学校も商業施設も医療施設も消える。すでに中山間地に限らず農村地域で起きていることだが、その範囲がますます広がる。これが「食料安全保障」政策だとすれば、暮らしの場としての農村は大きく変貌し、最後には地域が壊れ集落が消える。協同組合の必要性もなくなる。

農業の成長産業化戦略が打ち出されたときも、同様の懸念の声を各地の農業者や自治体職員から聞いた。その危機感から、地域を維持するためにも、Iターン者を呼び込む「半農半X」やマルチワーカーなど、多様な担い手を育成・支援する施策を打ち出す自治体が複数登場し、JAグループでも、JAグループ北海道中央会が「パラレルノーカー」、JA全農が「91農業」を呼びかけてきたのだと思っている。

「多様な担い手」絶対に譲れない一線として

2000年の「食料・農業・農村基本計画」の中に「多様な担い手」が位置づけられたときには、ようやく国の農政が現場に寄り添う政策に変わり始めたと思った。農村地域が人の暮らす場として健全な空間でなければ、安定的な農業生産もあり得ないと私は思っている。

それが、「食料安全保障」が政策の前面に登場したことで、なんとなくおざなりにされた印象を受けている。今回の「食料・農業・農村基本法」の見直しでも、基本法検証部会では「多様な担い手」をめぐり、農業政策の中に位置づけるかどうかをめぐって意見が割れた。

最終的に、「中間とりまとめ」では、"担い手"という言葉を避け「多様な農業人材」との表現で、農業政策にも地域政策にも盛り込まれ、「新たな農業政策の展開方向」にもその表現が引き継がれたが、今もこの点に関しては賛否両論があり、「多様な農業人材」支援策の具体化はこれからだ。

JAグループでも「多様な担い手の育成・確保」への支援を政策要請しているが、ここは、暮らしの場としての農村を維持し、逆に魅力的な農村を新たに創出して一極集中を緩和していく意味でも、絶対に譲れない一線として主張し続けてほしいと思っているし、国の政策がどうあれ、JAの存続と農村の未来のためにも、多様な担い手を育てて地域を活性化すると同時に、新たなJAの仲間づくりにつなげることが求められているのではなかろうか。

食へのアクセス、物流問題 山積する課題

他にも気になっている課題はいろいろある。ひとつは、来年4月に迫る「2024年問題」。3大都市圏への広域流通を可能にしてきた物流と、それを前提に推進されて産地化戦略に大きな影響を与える。

今後、運転手も「働き方改革法」が適用され、年間960時間が上限になる。ちなみに、従来の大型トラック運転手の平均労働時間は、なんと年間2544時間。半減どころか3割近くまで就業時間を減らすことが求められ、労働力不足は必至だ。当然、物流コストは高くならざるをえない。

さらに、気候変動による自然災害の増加。私が出会った野菜生産の農業者の中にも、相次ぐ自然災害と増え続ける遊休地を活用し、被害額の大きい施設園芸から、露地栽培に転換して規模拡大を図る若手もいる。栽培品目や流通戦略も、今後、見直しを迫られるのではなかろうか。

最後に、広がる所得格差と「食のアクセスの公平性」の問題に、JAがどう参画できるかも大きな課題と考えている。政府にとって、国民にあまねく健康的な食生活を保証する「生存権」は憲法に定められた義務でもあり、ここは市場原理だけに任せて「貧しい者は餓死してもかまわない」と言えない分野だ。

フードバンクなどへの食料提供を実施するJAが増えているのは、新聞報道などで目にする。しかし、無償提供の運動だけでは限界もある。政府に対して、その役割を担う姿勢を表明すると同時に、各地域で「誰も飢えさせない」ための取り組みを広げることは、JAの存在意義を高めることにもつながると考える。

こう考えてくると、今回の「食料安全保障強化」は、農業サイドにとって決して明るい要素だけではなく、逆にJAサイドも腹をくくって、国よりも地域単位で、生協や他組織とも連携しながら「誰も飢えさせない」仕組みづくりに本腰を入れ、必要な政策を政府に強く要求していくことが求められている時期なのだと思う。

JAの存在価値を示す正念場でもある。

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