JAの活動:第30回JA全国大会 持続可能な社会をめざして
「持続可能な農業で地域を未来に」 JA全中山野徹会長に聞く(2)【第30回JA全国大会特集】2024年10月7日
JAグループは10月18日に第30回JA全国大会を開く。25年ぶりに改正された食料・農業・農村基本法が施行され、基本法に新たに盛り込まれた食料安全保障の確保などの理念を具体化する基本計画の策定という農政転換の節目に開催する大会となる。また、来年は国連が定めた2度目となる国際協同組合年でもある。大会スローガンは「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力~協同活動と総合事業の好循環」。今大会の意義と農政課題、JAに求められることなどをJA全中の山野徹会長に聞いた。聞き手はJA鹿児島きもつき前組合長の下小野田寛氏。
「持続可能な農業で地域を未来に」 JA全中山野徹会長に聞く(1)
JA全中代表理事会長 山野徹氏
山野 米の価格が昨年より上がったといってもごはん一杯は40円程度です。たしかに一挙に5キロ5000円台になった米もありますが、その状況でも購入いただいている方もいらっしゃるので、消費者の皆さんのご理解をいただいて適正な価格を目指していくべきだと考えています。
そこで冒頭に申し上げたとおり、節目の大会ですから、やはり我々としては農家を支える持続可能な農業とJAの組織運営に取り組み、しっかりと未来に伝えていかなければならないという思いです。
全国大会は、全国各地のJAの共通の意思を決定し、これを組織内外に表明することを一つの目的としています。何よりも重要なのは、JA全国大会の開催によって全国のJAがお互いに認識を確認、共有し、これを契機として各地域で大会決議を実践していくことだと思っています。私は昨年、全中会長に立候補したとき、所信として農業・農村、JAグループは大きな転換期であり、それを捉えて、持続可能な農業のもと、地域を未来へつなげていくということを主張しました。
今の国際情勢等を含めて、取り巻く状況は資材価格の高騰と高止まり、そのなかでの適正な価格形成など、非常に課題は山積しています、基本法の改正や国際協同組合年といったチャンスもあります。全国大会を契機に、全国各地の仲間とともに農業・農村・JAグループが未来を切り開けるように今回の大会に臨んでいきます。
下小野田 食料安全保障の確保や適正な価格形成に向けて、消費者の皆さんにご理解いただくという意味では、五つの戦略のなかで、とくに広報戦略を策定することが必要だと思われます。広報戦略で力を入れて取り組まれることはありますか。
山野 私は未来を担う若者に対し、農業の問題やJAについて、SNSや、あるいは乃木坂46といったインフルエンサーの方々からの発信など、訴求対象に合わせたアピール・情報提供をしていかなければいけないと思っています。
聞き手:下小野田寛氏(前JA鹿児島きもつき組合長)
下小野田 ところで基本法の改正に関連し、8月29日から食料・農業・農村政策審議会で次期基本計画の検討に入りました。来年3月に向けていろいろな議論がなされますが、どんな主張や働きかけを考えておられますか。
山野 私は審議会の委員として、しっかりと現場の意見を捉えて発言したいと思っています。食料自給率の向上に向けては、我々は「国消国産」や「地産地消」を唱えており、これらに関連する主張をしていきたいと思います。
下小野田 一方、農家の経営は資材高で厳しく、消費者の皆さんのご理解も得ながら適正な価格を目指していかなければなりません。改めて適正な価格形成について会長のお考えをお聞かせください。
山野 地域に担い手がいないというのは、やはり農業がもうかっていないからだと思います。ですからもうかっているところでは後継者も育っています。先日、ある肥育農家を訪問したんですが、6戸の農家で組織を作っており、後継者は平均35歳で、これから35年は大丈夫だ、ということでした。実際、飼料や肥育法など非常に努力して研究されており、みなさん明るい。畜産情勢は厳しいですが、このようにしっかりと後継者がいる地域もあります。それをいかに良い方向で広げていくかということだろうと思います。
そういうなかで適正な価格については、やはり農家だけが犠牲になるべきではないということです。改正基本法にも事業者の努力という項目が設けられていますが、コスト高を生産現場だけでなく、食料システム全体で応分に負担されるよう、生産・流通・消費のそれぞれの段階における適正な価格形成が必要であり、その実情を消費者の皆さんに知ってもらうのは国の責任でもあると思います。
一方で我々は「国消国産」に力を入れています。以前は足りなければ輸入すれば良いという人も多かったと思いますが、現在は海外から食料が簡単に入ってこない時代になりました。そういう意味で、やはり消費者の皆さんのご理解は大事だと思います。
下小野田 組合員の営農をサポートするのは、全国のJAのとくに営農指導員だと思います。営農指導員出身の山野会長から営農指導員にエールを送っていただけますか。
山野 現在は、輸入農畜産物が増えるなど作っても簡単には売れない時代になり、農家が、何が売れるのか見極めるために相談する相手が営農指導員になると思います。
JAの軸となる事業は営農指導ですから、ここが良くなれば、貯金や共済につながり、トラクターも買ってもらえることになります。そこを忘れてはいけないと思います。第一線は営農指導です。そういう意味で頑張ってほしいと思いますし、全国の組合長さんも営農指導員をしっかり育ててほしいです。
下小野田 技術の勉強だけではなく、経済や世の中の情勢を含めた幅広い知識を学んでほしいですよね。それで組合員の相談相手に本当になれるということだと思います。
山野 情報はいろいろな方法で取れる時代になりましたが、組合員から「やはりあんたじゃなければだめだ」と言われるような存在になってほしいですね。
下小野田 最後に改めてJA全国大会をJAはどう生かしていくべきでしょうか。
山野 時代が令和になってロシアのウクライナ侵攻が起きるなど、国際情勢が変わってきているなか、また、担い手の高齢化が進むなか、506あるJAも様々ですが、JA組織としてどうあるべきかの議論が大事だろうと思います。そのための相談機能や代表機能を発揮するのは全中ではないかと思います。そういう意味で情勢をしっかりと捉えて、全中はこれからも農業・農村、JAグループの未来を切り開いていけるよう、さまざまな提案をしていきます。
【インタビューを終えて】
混沌とする世界情勢、基本法改正、米不足が大きくクローズアップされる中で迎える節目の第30回JA全国大会に臨む山野会長の並々ならぬ思いと決意をお伺いした。農家組合員が厳しい状況だからこそ、『JAは一つ!』という想いと決意で消費者・生活者に食料・農業・農村の大切さをしっかりとわかっていただき、国民全体で行動していくためのJA全国大会にするために山野会長のリーダーシップに期待したい。(下小野田)
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